その23「マゴコロと父親」
ヨーダイ
「ああ。だいぶ前に閉鎖されたやつだ」
マゴコロ
「あれに入るの?」
ヨーダイ
「そうだ」
ヨーダイ
「この図体じゃ、ビーマドワスのダンジョンドームには入れない」
ヨーダイ
「ここのドームは、好き勝手できるからな」
スベルキーは、ドームの入り口へと歩いていった。
半壊した入り口を通り、中へ。
ドーム内も、外と変わらず古ぼけていた。
マゴコロ
「ボロボロ」
ヨーダイ
「けど、転移陣は生きてる」
ドームの中央で、魔法陣がうっすらと輝いていた。
ダンジョンへの転移陣だ。
ヨーダイはスベルキーを、転移陣へと歩かせた。
陣の中に入ると、スベルキーは転移した。
ダンジョンの1層へ。
身長4メートルの巨体が、ダンジョンに立った。
マゴコロ
「シャドウキャスターで、ダンジョンに入れるなんて……」
ヨーダイ
「驚いただろ?」
マゴコロ
「うん」
ヨーダイ
「行くぞ」
ヨーダイは、スベルキーを前進させようとした。
そこをマゴコロが呼び止めた。
マゴコロ
「待って」
ヨーダイ
「ん?」
マゴコロ
「ドームが廃棄されてるのには、理由が有るはず」
マゴコロ
「その理由が分からないのに、足を踏み入れるのは、危険かもしれない」
ヨーダイ
「理由なら分かってる」
ヨーダイ
「立ち入り禁止エリアなんだよ。ここは」
ヨーダイ
「最初にダンジョンに潜ったとき、先生に言われただろ?」
ヨーダイ
「あのカドは、絶対に曲がっちゃいけませんって」
ヨーダイ
「その先に有るのが、ここだ」
マゴコロ
「だったら、ここには危険なトラップが有るはず」
ヨーダイ
「それも把握してる」
ヨーダイは、スベルキーを歩かせた。
スベルキーは、転移陣の部屋から出た。
そして廊下を歩き、小部屋に入った。
ヨーダイ
「あそこにトラップが有る」
スベルキーが、部屋のいっかくを指差した。
マゴコロ
「そう」
ヨーダイ
「踏む」
マゴコロ
「えっ?」
スベルキーが、トラップが有る位置に、踏み入った。
スベルキーの足元に、魔法陣が出現した。
それは転移陣だった。
スベルキーの姿が、一層から消えた。
……。
マゴコロ
「っ……!」
トラップが発動した瞬間、マゴコロは身構えていた。
だが、とくに衝撃などは来なかった。
マゴコロ
「ここは……?」
マゴコロは、スベルキーのカメラを通して、周囲を見た。
そこは相変わらず、ダンジョンの中だった。
マゴコロたちは、石造りの壁や天井に囲まれていた。
壁の色は、1層とは少し違っている。
それ自体は、大きな問題とは言えなかった。
だが……。
象
「パオオオオオォォッ!」
前方から、吠え声が聞こえた。
スベルキーの前方に、高さ6メートルは有る巨大な象が出現していた。
マゴコロ
「大きい……!」
ヨーダイ
「サンダーボルトエレファント」
ヨーダイ
「93層の魔獣だ」
マゴコロ
「93……!?」
迷宮の61層からは、深層と呼ばれている。
魔獣の凶悪さが増し、凡人では踏破不能な領域だと言われている。
93層と言えば、深層の中でも、さらに深い部分にあたる。
並みのパーティが、潜って良い所では無かった。
象
「オオオオッ!」
象が前に出た。
スベルキーに対し、突進をしかけるつもりのようだ。
マゴコロ
「来る!」
強敵の殺意に、マゴコロは身を固くした。
だが、彼女の後ろに座るヨーダイは、平常心を保っていた。
ヨーダイ
「だいじょうぶだ。スベルキーなら」
ヨーダイはそう言って、スベルキーを操った。
スベルキーは、手のひらを象に向けた。
魔石から、鋭い岩の槍が放たれた。
象
「…………!」
槍が象を貫いた。
弱点属性の魔弾は、魔獣に致命傷を与えた。
象は息絶え、消滅した。
マゴコロ
「すごい……」
マゴコロは、感嘆の声を上げた。
93層の魔獣を、独力で倒すなど、上級冒険者でも難しい。
テルヒたちのパーティでも、今はまだ、難しいだろう。
マゴコロ
「スベルキーの魔弾、前に見たときより、鋭くなってる」
ヨーダイ
「修行の成果ってやつさ」
ヨーダイ
「スベルキーの魔弾の威力は、機士のレベルに比例する」
ヨーダイ
「ここで、このスベルキーで、レベル上げをする」
ヨーダイ
「付き合っていくか?」
マゴコロ
「私、見てただけだけど、良いの?」
ヨーダイ
「良いさ」
ヨーダイ
「パーティだろ? 俺たち」
マゴコロ
「……うん」
ヨーダイは、スベルキーを前進させた。
そして、深層での荒稼ぎを開始したのだった。
……。
翌月。
武術会の日がやって来た。
舞台は学校の、シャドウキャスターの訓練場だ。
普段は殺風景なそこが、今日は大賑わいだった。
待機スペースには、100体を超えるシャドウキャスターが見えた。
1年から3年まで、全生徒の機体が、そこに集まっていた。
そこから少し離れた所に、観覧用の設営がなされていた。
生徒の家族たちが、そこに集まってきていた。
ヨーダイは、待機スペースで、ヤミヅキと話していた。
ヤミヅキ
「本当に出場なさるのですね」
ヨーダイ
「ああ」
ヤミヅキ
「せめて同じチームで、ヨーダイさまをお守りしたかったです」
ヤミヅキが、残念そうに言った。
武術会のチームは、ダンジョン攻略のパーティと同じだ。
ヨーダイのチームは、彼とマゴコロの2人だけ。
ヤミヅキは、リンレイのチームに属している。
ヨーダイのチームとは、敵同士ということになった。
ヨーダイ
「だいじょうぶだよ」
ヨーダイは、微笑んで言った。
ヨーダイ
「ヤミヅキが心配してるようなことには、ならないから」
ヤミヅキ
「……はい」
ヤミヅキ
「どうか、御武運を」
ヤミヅキは、頭を下げて去った。
ヤミヅキを見送ると、ヨーダイは、マゴコロの方を見た。
マゴコロは、自身の機体を見ていた。
ピカピカのマジェスティイヌが、膝を90度曲げた姿勢で、座り込んでいた。
大破の痕跡は、微塵も見られなかった。
マゴコロ
「…………」
ヨーダイ
「機体、綺麗に治ったもんだな」
マゴコロ
「ひょっとしたら、ほとんど新品かも」
ヨーダイ
「サービス良いな」
マゴコロ
「暴行事件の揉み消し」
ヨーダイ
「なるほど」
マゴコロ
「ねえ、王子」
ヨーダイ
「うん?」
マゴコロ
「婚約者が居るって、どんな気分?」
ヨーダイ
「どうって言われてもな……」
ヨーダイ
「ヤミヅキは、良い子だとは思うよ。俺にはもったいない」
マゴコロ
「そう」
ヨーダイ
「お前は居ないんだな。婚約者」
マゴコロ
「うん」
マゴコロ
「ちょっとワガママを言って、断ってもらってる」
ヨーダイ
「レンアイ結婚がしたいのか?」
マゴコロ
「そうかも」
ヨーダイ
「それで、良い奴は見つかったか?」
マゴコロ
「ううん」
マゴコロ
「まだ見つからない」
ヨーダイ
「ま、頑張れ」
マゴコロ
「頑張る」
ツヴァイ
「マゴコロ」
2人の背後から、男の声が聞こえてきた。
2人は同時に、声の方へと振り返った。
そこに、身なりの良い男が立っていた。
頭には、犬耳が見えた。
青犬族のようだった。
その髪は、マゴコロよりも少し濃い、青色だった。
マゴコロ
「お父さん」
マゴコロが、眼前の人物をそう呼んだ。
ヨーダイも、この男には見覚えが有った。
ヨーダイ
(ツヴァイ=アオプラネット伯爵か)
ツヴァイは、マゴコロの父親だ。
6伯爵の1人で、名の知れた人物だった。
王子であるヨーダイとも、既に面識が有った。
ツヴァイ
「王子……?」
ツヴァイは意外そうに、ヨーダイを見た。
ヨーダイ
「そうだが」
ツヴァイ
「どうも。ご無沙汰しております」
ツヴァイは頭を下げた。
ヨーダイ
「そう畏まるな」
ツヴァイ
「……はい」
ツヴァイ
「マゴコロ。どうして王子と居るんだ?」
マゴコロ
「同じチーム。いっしょに試合に出る」
ツヴァイ
「あの王家の機体とか?」
マゴコロ
「そう」
ツヴァイ
「他のチームメイトは?」
マゴコロ
「居ない」
ツヴァイ
「……………………」
ツヴァイは、混乱と呆れが混じったような顔になった。
ツヴァイ
「マゴコロ。ちょっと来なさい」
マゴコロ
「……うん?」
マゴコロは、ツヴァイに連れられて去った。
立ち去る2人を、ヨーダイは黙って見送った。
ヨーダイ
(おかんむりだな。アレは)
……。
ヨーダイからだいぶ離れた場所で、マゴコロは、ツヴァイと2人になった。
ツヴァイ
「どういうことなんだ?」
ツヴァイ
「以前は、6伯爵家同士でパーティを組んだと聞いたが」
ツヴァイ
「それがどうして、王子と2人きりで、パーティを組んでいる?」
マゴコロ
「友だちだから」
ツヴァイ
「…………?」
マゴコロ
「マブ」
マゴコロはそう言って、サムズアップした。
ツヴァイ
「あの王子と友だちになったのか? どうして?」
マゴコロ
「良い人だと思ったから」
マゴコロ
「王子は、世間で言われているようなダメな人じゃない」
ツヴァイ
「そんなことは、私だって分かっている」
マゴコロ
「それは初耳」
ツヴァイ
「…………」
ツヴァイ
「王族と仲良くなるということが、どういうことか分かっているのか?」
マゴコロ
「それでも」
マゴコロ
「私はあの人と一緒に居たい」
ツヴァイ
「惚れたか」
マゴコロ
「えっ?」
ツヴァイ
「そう見えるが?」
ツヴァイ
「あの美貌だ。分からんでもないがな」
マゴコロ
「そんなはずは無い。だって、私は……」
ツヴァイ
「だからあの瓶も、捨ててしまったのでは無いのか?」
マゴコロ
「違う。瓶は割れてしまったの」
ツヴァイ
「昔の初恋を、まだ追い続けるつもりか?」
ツヴァイ
「来年には、17になるんだぞ。お前は」
マゴコロ
「……分かってる」
ツヴァイ
「それで、大会の方はどうするつもりだ?」
マゴコロ
「どうって?」
ツヴァイ
「2人パーティというのは、ただでさえ不利だ」
ツヴァイ
「それをあの、王子の機体……」
ツヴァイ
「前の国王陛下は、スベルキーで戦ったりはしなかった」
ツヴァイ
「あれは国家の象徴であって、戦いのための機体では無い」
ツヴァイ
「実質1人で戦うようなものだと、分かっているのか?」
マゴコロ
「だいじょうぶ」
マゴコロ
「強いよ。王子は」
マゴコロは、いたずらっぽく笑った。
家族にだけ見せる表情だった。




