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その18「マゴコロと魔弾銃」




 ヨーダイが、リンレイのパーティをクビになってから、2日後。


 ダンジョン実習の時間。



マゴコロ

「王子」


ヨーダイ

「えっ?」



 学校のダンジョンドームに、マゴコロの姿が有った。


 冒険者スタイルの服装で、ショルダーバッグを身に付けていた。


 腰には、ショルダーバッグとは逆側になるように、剣をはいていた。


 剣は迷宮で手に入る、レアな魔剣だった。


 目が合うとマゴコロは、ヨーダイに駆け寄って来た。



ヨーダイ

「……なに?」


マゴコロ

「一緒に行こう」


ヨーダイ

「前に言っただろ? 俺のパーティは……」


マゴコロ

「それは嘘」


マゴコロ

「王子は王女のパーティを、追放された」


ヨーダイ

「……どうして知ってるんだ?」


マゴコロ

「ゴルドフロシキくんが、メンバーの勧誘をしてるのを見た」


マゴコロ

「そのときに、王子が追放されたって聞いた」


ヨーダイ

「ピカードのやつか……」


マゴコロ

「どうして嘘をついたの?」


ヨーダイ

「格好悪いだろ? 力不足でパーティを追い出されたなんて」


ヨーダイ

「特に女の子には、知られたくねーさな」


ヨーダイ

「モテなくなっちまうから」


マゴコロ

「それが理由?」


ヨーダイ

「それが理由」


マゴコロ

「本当に?」


ヨーダイ

「本当に」


マゴコロ

「そう?」


ヨーダイ

「そう」


マゴコロ

「行こう」


ヨーダイ

「どこに?」


マゴコロ

「ダンジョン。一緒に」


ヨーダイ

「俺は弱い」


マゴコロ

「構わない」


ヨーダイ

「やめとけよ。変な噂が立つぜ」


マゴコロ

「気にしない」


ヨーダイ

「俺が気にするんだよ」


マゴコロ

「行こう」


ヨーダイ

「あっおい……!」



 マゴコロは、ヨーダイの手を引いた。


 そして、転移陣へと入っていった。


 2人の体が、ダンジョンの1層へと転移された。



ヨーダイ

「1人が好きなんだが?」


マゴコロ

「それも嘘?」


ヨーダイ

「嘘じゃねーし」


マゴコロ

「私は1人は好きじゃない」


マゴコロ

「けど、前のパーティは抜けてきてしまった」


マゴコロ

「王子がパーティを組んでくれないと、1人でダンジョンに潜らないといけない」


マゴコロ

「だから、お願い」


ヨーダイ

「自己中だな。意外と」


マゴコロ

「そうかも」


ヨーダイ

「仕方ねー。行くか」


マゴコロ

「ありがとう」


マゴコロ

「王子の攻略深度は?」


ヨーダイ

「35。だけど、実際はただの荷物持ちだったからな」


ヨーダイ

「適正階層は、11くらいかな」


マゴコロ

「3分の1?」


ヨーダイ

「え?」


マゴコロ

「魔術師が、戦士と互角に接近戦をするには、3倍のレベルが必要だって聞いた」


ヨーダイ

「……それがどうした?」


マゴコロ

「ううん」


マゴコロ

「6層くらいから慣らして行こう」



 2人は、1層の大転移陣から、一気に6層に転移した。


 そして、最短ルートで、素早く攻略していった。


 マゴコロは、テルヒと一緒に、1年生のトップを走っていた。


 優秀な暗黒騎士だ。


 彼女と一緒なら、10層くらいまでは、特に苦にもならなかった。


 浅い階層であれば、ヨーダイの剣も、それなりに通用した。


 だが……。



ヨーダイ

「……キツくなってきた」



 16層の攻略中に、ヨーダイは弱音を吐いた。


 呪文を使わない場合、ヨーダイの適正階層は、11層ほどだ。


 頑張った方だと言える。


 だが、どうしても限界は有った。



マゴコロ

「そう」


ヨーダイ

「これで分かっただろ? 俺は弱い」


ヨーダイ

「俺と一緒に居ても、足を引っぱられるだけだ」


マゴコロ

「だいじょうぶ」


マゴコロ

「単位の条件は、既に満たしてあるから」


ヨーダイ

「何層だっけ? 到達深度」


マゴコロ

「44層」


ヨーダイ

「ああ……。テルヒたちのパーティだったな」


マゴコロ

「うん」


マゴコロ

「だから、私のことは心配しなくても良い」


ヨーダイ

(そうは言うがな)


ヨーダイ

(人の足引っぱるってのは、そう良い気分じゃあ無いぜ)


マゴコロ

「それに……」


マゴコロ

「私は王子のことを、無能だとは思わない」


ヨーダイ

「え……?」


マゴコロ

「時間。戻ろう」


ヨーダイ

「ああ……」



 2人は、ダンジョンドームに帰還した。


 ロッカールームに荷物を預け、クラスの教室に戻った。



リンレイ

「にいさま」



 教室には、リンレイの姿が有った。


 ヨーダイたちよりも先に、ダンジョンから戻ってきていたらしい。


 リンレイは、席から立ち上がり、ヨーダイに近付いてきた。


 そしてヨーダイの周りを、ぐるぐる回った。



ヨーダイ

「……?」


リンレイ

「怪我はしていないようね」



 リンレイは、ヨーダイに怪我が無いか見ていたようだ。



ヨーダイ

「まあ、はい」



 俺を気遣うとは、珍しいことをするものだ。


 ヨーダイは、少し不思議に思った。



リンレイ

「どうだった? 1人のダンジョン攻略は」


リンレイ

「心細くて、泣いていなかったら良いのだけど」


ヨーダイ

「いえ……」


ヨーダイ

「色々あって、マゴコロと一緒に潜ることになりました」


リンレイ

「色々?」



 リンレイは眉をひそめた。



マゴコロ

「…………」



 そのとき、マゴコロが教室に入って来た。


 マゴコロはヨーダイを、ちらりと見た。


 だが、ヨーダイが話し中なのを見ると、黙って自分の席に座った。



リンレイ

「彼女と組む気は無い。そう言ってなかったかしら?」


ヨーダイ

「あの子、案外押しが強くて。押し切られてしまいましたね」


リンレイ

「……どうせ彼女の足を、引っ張ってしまったのではないの?」


ヨーダイ

「そうですね」


ヨーダイ

「その通りです」



 マゴコロは本来であれば、学年のトップを走っていたはずの逸材だ。


 今日の探索は、マゴコロにとっては、散歩のようなものだっただろう。


 マジメなダンジョン攻略には、ならなかった。


 足を引っ張ってしまったのは、明白だった。



リンレイ

「それなら、彼女とのパーティは、解散するのよね?」


ヨーダイ

「……そうなると思います」


リンレイ

「そう」


リンレイ

「私たちの方は、良かったわよ」


リンレイ

「やっぱり、無能な足手まといが居ないと違うわね」


ヨーダイ

「良かったですね」


リンレイ

「……ええ。良かったのよ」




 ……。




 次のダンジョン実習の時間。


 ダンジョンドームで、マゴコロがヨーダイを待っていた。



ヨーダイ

「……早いな?」


マゴコロ

「今来たところ」


ヨーダイ

「あのさ……」



 俺と潜るべきじゃ無い。


 それはお前の為にならない。


 ヨーダイは、そう言うつもりだった。



マゴコロ

「行こう」



 マゴコロが、ヨーダイの手を引いた。


 なぜかヨーダイは、その手を振り払うことが出来なかった。



ヨーダイ

「分かったよ」



 2人は転移陣によって、ダンジョンに転移した。



マゴコロ

「王子。これ」



 マゴコロは、ショルダーバッグから、金属製の物体を取り出した。


 そしてそれを、ヨーダイに差し出してきた。


 ヨーダイは、それを受け取らなかった。


 手を伸ばさずに、その物体を、じっと観察した。



ヨーダイ

「これは……魔導器か?」


マゴコロ

「そう。魔弾銃」



 魔弾銃とは、魔術を銃弾として放つことが出来る、攻撃用の魔導器だ。


 その威力は、魔石の性能に比例する。


 そして、使用者の能力には依存しない。


 良くも悪くも、威力は一定だ。



マゴコロ

「7つの属性を切り替えられる、優れもの」


マゴコロ

「しかも回復も出来る」



 普通の魔弾銃は、1属性の魔弾しか放つことが出来ない。


 この魔弾銃は、特別製のようだった。



ヨーダイ

「何のつもりだ?」


マゴコロ

「あげる」


ヨーダイ

「貰う理由が無い」


マゴコロ

「前に助けてもらったお礼」


ヨーダイ

「額が釣り合ってない」


マゴコロ

「なら、買い取って欲しい」


ヨーダイ

「どうしてだよ?」


マゴコロ

「王子には、これが合ってると思う」


ヨーダイ

「…………?」


マゴコロ

「王子は無能じゃない」


マゴコロ

「たしかに、力はクラスメイトたちに劣ってるかもしれない」


マゴコロ

「だけど昨日だって、間違った動きはしてなかった」


マゴコロ

「王子には、冷静に回りを見る、観察力が有る」


マゴコロ

「だから、足りない力さえ補えれば、十分に戦力になると思った」


ヨーダイ

「そんな思いつきだけで、わざわざこれを買ってきたのか?」


マゴコロ

「そう」


ヨーダイ

「変な女」


マゴコロ

「そう?」


ヨーダイ

「そうだよ」


マゴコロ

「まあ良い。受け取って」


ヨーダイ

「……いらねーよ」


マゴコロ

「どうして?」


ヨーダイ

「俺は無能王子だ。皆がそう思ってる」


ヨーダイ

「それをいまさら、ちょっと活躍したからって、それが何になる?」


ヨーダイ

「誰が得するんだよ?」


ヨーダイ

「無能王子は無能のままで、良いだろうがよ……」



 蔑まれ、バカにされる。


 それが自分の役割だ。


 リンカに敗れたあの日から、それは決まっていた。


 ただ役割をこなせば良い。


 それで良いんだ。


 ヨーダイは、そう考えていた。



マゴコロ

「だけど……」


マゴコロ

「あなたは、悔しそうに見えた」


ヨーダイ

「…………」


ヨーダイ

「俺が?」


マゴコロ

「そんな風に見えた」


ヨーダイ

(俺は……悔しかったのか……?)


マゴコロ

「受け取って」


ヨーダイ

「…………」



 ヨーダイは、魔弾銃を手に取った。



ヨーダイ

「頼みが有る」


マゴコロ

「うん」


ヨーダイ

「ダンジョンでのことを、他の皆には話さないで欲しい」


マゴコロ

「分かった」


マゴコロ

「行こう」


ヨーダイ

「行こうか」



 ヨーダイは6層で、魔弾銃の試運転を行った。


 ヨーダイの射撃は、正確だった。


 ヨーダイのクラスは賢者だ。


 魔術は使い慣れている。


 魔弾とは、魔術の仲間だ。


 魔術が巧みなヨーダイは、魔弾銃の当て勘も十分だった。


 魔弾は高い命中率を誇った。


 魔弾は上層では、十二分の威力を誇った。


 魔獣は1撃で、撃破されていった。



ヨーダイ

「悪くないな」


マゴコロ

「うん。それは良いモノ」


ヨーダイ

「高かっただろ?」


マゴコロ

「それなり」


ヨーダイ

「後で払うよ」


マゴコロ

「……分かった」


マゴコロ

「16層へ行こう」


ヨーダイ

「通用すると良いがな」


マゴコロ

「する」



 2人は16層に移動した。


 前にヨーダイが、音を上げた階層だ。


 ヨーダイは魔弾銃を使い、16層の敵を倒していった。


 魔弾銃は、16層でも十分に通用した。




 ……。




 ヨーダイ放った風の魔弾が、ダンゴムシ型の魔獣に直撃した。


 魔獣の属性は、土だった。


 土の弱点属性は、風だ。


 魔獣は弱点属性の魔弾に体を抉られ、絶命した。


 剣だと苦労した相手だが、特に苦戦はしなかった。



マゴコロ

「ナイス」


ヨーダイ

「まあ、16層だし」


マゴコロ

「どんどん行こう」



 2人は次々に、階層を下っていった。


 そして21層まで来ると、マゴコロは足を止めた。



マゴコロ

「今日はこのへんにしておこう」


ヨーダイ

「なあ、俺は……」


マゴコロ

「また明日」


ヨーダイ

「……ああ」


ヨーダイ

「また明日」





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