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その17「マゴコロと誘い」




リンレイ

「ありえないわ!」



 リンレイは大声で、ピカードの言葉を否定した。



ヤミヅキ

「あの……」


ヤミヅキ

「私は、ヨーダイさまがパーティから外れてしまうのは、寂しいです」



 ヤミヅキは、控えめな口調でそう言った。


 ヨーダイは、ヤミヅキに微笑んだ。



ヨーダイ

「うん。ありがとう」


ヤミヅキ

「ヨーダイさま……」



 2人は、見つめ合う形になった。



リンレイ

「…………」



 リンレイは一瞬、ぎりりと歯を噛み合わせた。


 そしてマジメな顔になって、言った。



リンレイ

「決めたわ」


リンレイ

「にいさまには、パーティを外れてもらいましょう」


リンレイ

「残念だけど、無能なんだから、仕方が無いわ」


ヨーダイ

「分かりました」



 ヨーダイには、不服は無かった。


 リンレイと一緒に居るのは、命じられてのことだ。


 穏やかに過ごせるのなら、どうでも良い。


 そう思っていた。


 一時的にでも、リンレイと離れられるなら、気苦労も減るかもしれない。


 そう考えれば、むしろ良案とさえ言えた。



ヤミヅキ

「そんな……!」



 ただヤミヅキだけが、ショックを隠せない様子だった。



ヨーダイ

「仕方ないさ」



 ヨーダイは、穏やかな声音で、ヤミヅキに語りかけた。


 ヨーダイとヤミヅキの婚約は、政略的なものだ。


 利害によって出来上がった関係だ。


 そこに深い恋は無い。


 だがヤミヅキは、無能と言われるヨーダイに対しても、穏やかに接してくれた。


 感謝が有る。


 周囲に関心の無いヨーダイだが、ヤミヅキに対しては、紳士的にふるまうと決めていた。



ヨーダイ

「普段の授業なら、これまで通り一緒だから」


ヤミヅキ

「……はい」


リンレイ

「…………」


ピカード

「決まりだね」


ピカード

「あさっての授業までに、代わりのメンバーを探しておくよ」


リンレイ

「ヴァイスシバフのパーティから引き抜くというのはダメよ?」


リンレイ

「あくまで実力で勝たないと、意味は無いわ」



 相手を弱らせて勝っても、実力の証明にはならない。


 リンレイはそう考えていた。



ピカード

「分かったよ。……非効率的だと思うけど」


リンレイ

「けど、みんな既に、パーティを組んでるものだと思うんだけど……」


リンレイ

「そう簡単に、代えのメンバーが見つかるものかしら?」


ピカード

「まあ任せておいてよ」


ピカード

「商談は得意な方だからね」


リンレイ

「……お願いするわ」


ピカード

「今日はもう帰ろうか」


リンレイ

「ええ」



 ヨーダイたちは、大転移陣に入った。


 いくつもの陣を経由して、地上へと帰還していった。


 一方。


 ダンジョンには、テルヒのパーティの姿も有った。


 テルヒ、イド、セイラ、マゴコロの4人パーティだ。



マゴコロ

「話が有る」



 マゴコロが、テルヒに話しかけた。



テルヒ

「どうした? 改まって」


マゴコロ

「パーティを抜けようと思う」


セイラ

「えっ? どうして? イドに何かされた?」


イド

「どうして我のせいになるのだ……」



 イドは顔をしかめた。


 彼は赤竜族で、プロミネンスシッポ伯爵の息子だ。


 頭の側面に赤い角を持っている。


 背中からは、蝙蝠のような羽が生えていた。


 こちらも赤い。


 腰からは、赤い鱗のしっぽが生えている。


 身長は平均的。


 少し痩せ型だった。


 体には、ゆったりとした、グレーのローブを身にまとっている。


 魔術師のローブだ。


 赤竜族には、膂力が優れた者が多い。


 だが、イドは体が弱かった。


 パーティでの役割も、後衛の魔術師だった。



マゴコロ

「イドには何もされてない」


セイラ

「それじゃあどうして?」


マゴコロ

「組んでみたい人が見つかった」


テルヒ

「それなら仕方ないな」



 テルヒはあっさりと言った。


 マゴコロは、優秀な暗黒騎士だ。


 彼女が抜けてしまえば、戦力の低下は確実だ。


 だがテルヒは、パーティが弱体化しても、構わないと思っているようだった。



マゴコロ

「良いの?」


テルヒ

「ライバルが居なくて、張り合いが無いと思っていた」


テルヒ

「競い合う相手が出来るなら、歓迎したい」


イド

「マゴコロが抜けると、我の負担が増えるのだがな」


テルヒ

「我慢してくれ」


セイラ

「私は反対よ」


テルヒ

「どうしてだ?」


セイラ

「マゴコロが抜けたら、パーティの女子が私だけになっちゃうじゃない」


イド

「……下らんな」


セイラ

「大事な理由なんだけど!?」


マゴコロ

「セイラ……お願い」


セイラ

「う……分かったわよ」


マゴコロ

「ありがとう。セイラ」


セイラ

「けど……」


セイラ

「あなたが、このパーティを抜けてまで組みたがるなんて、いったいどんな相手なの?」


マゴコロ

「王子」


イド

「……うむ?」



 イドが首を傾げた。



セイラ

「この学校に、留学生とか居たっけ?」


テルヒ

「居るぞ」



 ナナト王国は、大陸の中央に有る。


 それを5つの大国に、囲まれている形だ。


 立地条件を見れば、外国との交流が盛んなのは、当然だと言えた。



セイラ

「そっか」


テルヒ

「けど、留学生は王子さまじゃ無いぞ」


セイラ

「うん?」


セイラ

「つまり誰?」


マゴコロ

「私が組みたいのは、ヨーダイ=ビストスズ王子」


マゴコロ

「この国の第1王子」


セイラ

「????????」


セイラ

「あの無能王子のことを言ってるのよね?」


マゴコロ

「そう言われてることは知ってる」


セイラ

「本当に、あの変態王子のことを言っているの?」


マゴコロ

「変態なの?」


セイラ

「王族だもの。変態に決まってるわ」


マゴコロ

「そうなんだ?」


マゴコロ

「……まあ良いや」


セイラ

「良くない!」



 セイラにとって、マゴコロはパーティで唯一の女子だ。


 大切な友人だと思っていた。


 そんな友が道を踏み外すのを、黙って見ているわけにはいかなかった。



セイラ

「どうしてあんな奴と、組みたいなんて思ったの?」


マゴコロ

「色々あった」


セイラ

「何されたの!?」



 セイラは多忙な身で、昼休みはマゴコロと別行動だった。


 そのおかげで、マゴコロがナンパされていたことも知らなかった。



マゴコロ

「困っていた時に、助けてくれた」


セイラ

「そんなの、下心が有ったに決まってるわ」


マゴコロ

「私はそうは思わない」


セイラ

「とにかく、無能王子なんてぜったいにダメよ! 認めないわ!」


マゴコロ

「……困った」


セイラ

「困ってもダメです!」


マゴコロ

「むぅ……」


マゴコロ

「セイラは王族を嫌いすぎ」


イド

「それはこの国に住んでいたら、珍しいことでもあるまい。なあ?」


テルヒ

「……そうかもな」



 セイラを納得させられないまま、マゴコロは地上へと帰還した。


 そして、放課後の校庭。



セイラ

「そういうわけで勝負よ!」



 セイラは下校中のヨーダイに、指をつきつけた。



リンレイ

「……?」


ヨーダイ

「えっ? 良いけど」


マゴコロ

「良いんだ?」



 セイラの隣には、マゴコロの姿も有った。



ヨーダイ

「お前か」


マゴコロ

「お前です」


ヨーダイ

「元気か?」


マゴコロ

「うん。元気」


セイラ

「そこまでよ!」


ヨーダイ

「何が?」


セイラ

「あなたがマゴコロにふさわしいか、試してあげる!」


ヨーダイ

「わかった」


セイラ

「行くわよ!」



 ヨーダイの手元に、剣は無い。


 それはセイラも同様だった。


 セイラは素手で、ヨーダイに襲いかかった。


 そして、間合いに踏み込むと、突きを放った。



ヨーダイ

「ぐえーやられた」



 セイラが大した手応えも感じられないままに、ヨーダイは地面に倒れた。



セイラ

「弱っ!?」


セイラ

「ちょっと……! 本気でやってるの……!?」


ヨーダイ

「やってるさ」



 ヨーダイは、起き上がりながら言った。



ヨーダイ

「俺が無能王子なのは知ってるだろ?」


セイラ

「……それもそうね」


セイラ

「とにかく、私の勝ちね」


セイラ

「マゴコロ。こいちゅは見ての通りの無能王子よ」


マゴコロ

「こいちゅ」


セイラ

「こいつは見ての通りの無能王子よ」


セイラ

「あなたと釣り合うような男じゃないわ」


マゴコロ

「関係無い」


セイラ

「え……?」


マゴコロ

「私が王子に好意を抱いたのは、強いからじゃない」


マゴコロ

「たとえ剣の腕が無くても、私の気持ちに変わりは無い」


セイラ

「むぅぅ……!」


ヨーダイ

「お前、俺のことが好きなのか?」


マゴコロ

「うん」


ヨーダイ

「俺、婚約者居るけど」


マゴコロ

「ユウジョウ」


ヨーダイ

「友情か~」


ヨーダイ

「残念」


マゴコロ

「そうなの?」


ヨーダイ

「ちょっぴりな」


マゴコロ

「そういうわけで、私をあなたのパーティに入れて欲しい」


ヨーダイ

「んー。それは無理だな」


マゴコロ

「どうして?」


ヨーダイ

「俺たちのパーティは、4人ギリギリだからな」


ヨーダイ

「これ以上のメンバー補充は、ルール違反だ」


マゴコロ

「がーん」


ヨーダイ

「ごめんな?」


リンレイ

「にいさま。まだ終わらないの?」


ヨーダイ

「すいません。今行きます」



 ヨーダイは、リンレイの方へと歩いた。


 そして、2人で猫小屋へと歩いていった。



マゴコロ

「…………」



 去っていくヨーダイの背中を、マゴコロは見送った。




 ……。




 ヨーダイたちは、猫小屋に入った。


 そして、2人でカゲトラに跨った。



リンレイ

「どうして嘘をついたの?」



 ヨーダイの背中で、リンレイがそう尋ねてきた。



ヨーダイ

「何がですか?」


リンレイ

「にいさまは今日、私たちのパーティを抜けたでしょう?」


リンレイ

「彼女とパーティを組むのに、何の問題も無かったと思うけど」


ヨーダイ

「俺なんかと関わっても、ロクな目にはあいませんよ」


リンレイ

「…………」


リンレイ

「それもそうね」


リンレイ

「にいさまは弱っちい、無能王子だもの」


リンレイ

「ああして振ってあげた方が、あの子のためよね」



 ヨーダイは、カゲトラを走らせた。


 2人は自宅へと帰還した。




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