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その16「無能王子とパーティ追放」




 ダンジョンを、4人の学生が歩いていた。


 その内の1人は、セグ。


 マゴコロにちょっかいをかけ、ヨーダイとの決闘に敗れた男子だ。



セグの仲間A

「おいセグ。荷物持ってくれよ」



 パーティメンバーの1人が、セグにそう言った。



セグ

「はぁ? なんで俺が……」


セグの仲間B

「良いだろ? 無能なんだから」


セグの仲間C

「無能らしく、荷物運びでもしてくれよ」


セグ

「お前ら、何を……」


セグの仲間A

「見てたぜ。無能王子に負けるとこ」


セグの仲間A

「綺麗に投げられてたなあ」


セグの仲間B

「無能王子に負けるなんて、お前は無能以下ってことだよなあ?」


セグの仲間C

「感謝してくれよな? お前みたいな無能以下とパーティ組んでやってるんだから」


セグ

「ふざけるなよ……!」



 怒りと共に、セグは抜刀した。


 パーティメンバーたちは、セグをあざ笑った。



セグの仲間A

「オイオイオイ」


セグの仲間A

「3人に勝てると思ってるのか?」




 ……。




 5分後。


 セグは、ダンジョンの地面に倒れていた。


 セグが弱いわけでは無い。


 パーティメンバーの中には、後衛職の者も居る。


 1対1ならば、セグが勝つだろう。


 だが3対1で勝つなど、よほどの実力差が無い限りは、不可能だった。



セグ

「くそ……きたねえぞ……」



 1対1なら負けないのに。


 そんな悔しさが、セグの内に滲んだ。



セグの仲間B

「何が? それよりとっとと立てよ」


セグの仲間C

「頼んだぜ。荷物持ちさん」



 セグのパーティメンバーたちに、悪びれた様子は無かった。


 相手が無能王子なら、これくらいしても構わない。


 そういう共通認識が有る。


 無能王子に負けたセグは、それ以下の存在だ。


 同様に扱っても構わない。


 そういうルールが出現していた。




 ……。




 一方、ヨーダイたちは、セグたちよりもさらに深い階層に居た。



ピカード

「こいつは……」


ヨーダイ

(でかいな。3メートル以上有る)


大熊

「グウウゥゥゥ!」



 ヨーダイたちは、大熊と対峙していた。


 身長3メートル超え。


 野生動物の熊を、上回るサイズだ。


 大きさは、そのまま迫力にもなる。


 大熊は、今まで倒してきた魔獣よりも、強大に見えた。



ヤミヅキ

「ジャイアントベアですね」


リンレイ

「敵が何であろうが、やっつけるだけの話よ」


リンレイ

「さあ、行くわよ」



 戦いが始まった。


 リンレイを前衛として、ピカードの弓が彼女を援護した。


 ヤミヅキは補助呪文を唱え、リンレイを強化した。


 ヨーダイは、それを傍観していた。


 彼が無能な荷物持ちだからだ。


 大熊は、屈強だった。


 3人は善戦はしたが、決定打を与えられなかった。



大熊

「グオウッ!」



 熊の腕が、リンレイを打った。



リンレイ

「あうっ……!」



 重い一撃だった。


 防御に失敗したリンレイが、地面に転がった。



ヨーダイ

「リンレイさま……!」



 ヨーダイは剣を抜き、リンレイの前に立った。



ヤミヅキ

「癒やし風!」


大熊

「グゥ!」



 熊は、ヨーダイに襲いかかった。


 ヨーダイは、熊の攻撃をいなした。


 受け止めず、受け流す。


 敵は、前衛クラスのリンレイを、苦しめる相手だ。


 賢者であるヨーダイが、まともに受けるわけにはいかなかった。


 少し時間を稼ぐと、リンレイは立ち上がった。


 そして、前に出ようとした。



ヨーダイ

「いったん撤退しましょう」



 ヨーダイは、リンレイを止めた。


 リンレイは反感を示した。



リンレイ

「この私に逃げろって言うの……!?」


ピカード

「僕も撤退に1票だね」


ヤミヅキ

「私もそう思います……!」


リンレイ

「っ……」



 リンレイにも、形勢不利なのは分かっていたのだろう。


 3人の言葉を、しぶしぶ受け入れた。



リンレイ

「撤退を許可するわ」


ピカード

「良し……!」



 ピカードは、白い鏃の矢を撃った。


 斜め上へ。


 矢は天井に突き刺さり、強い光を放った。



大熊

「グワッ!?」



 熊は、光で怯んだ。


 その隙に、4人は撤退した。


 比較的安全な、転移陣の間まで走った。



リンレイ

「あんな熊ていどに……」



 リンレイは、悔しさを隠さずに俯いていた。


 そして、苦味走った顔のまま、ヨーダイに言った。



リンレイ

「にいさま。お茶をいれて」


ヨーダイ

「かしこまりました」



 ヨーダイは、大きなリュックを下ろし、ティーセットを取り出した。


 そして、お茶をいれはじめた。



ヤミヅキ

「これからどうしましょうか?」


ピカード

「ちょっと戻って、レベルを上げた方が良いと思うな」


ピカード

「先を急ぎすぎて、レベリングがおろそかになってると思うよ」



 ダンジョンを安全に攻略するなら、十分にレベルを上げるのが好ましい。


 だがリンレイたちは、あまりレベル上げに、時間を割いてはいない。


 テルヒたちのパーティが、リンレイたちの先を行っているからだ。


 安全性よりも、速度を重視していた。



リンレイ

「ヴァイスシバフのパーティと、そこまでレベル差は無いはずよ」


リンレイ

「あいつらは、あの熊を倒したから、私たちより先に居るんでしょ?」



 リンレイは、自分が1番だと思っていた。


 他人が出来るならば、自分にも出来るはずだ。


 そう考えていた。



ピカード

「編成が違う」


ピカード

「向こうの編成は、聖騎士、暗黒騎士、戦士、魔術師だ」


ピカード

「3人が前線を張れて、2人が攻撃呪文を使える」


ピカード

「対するこっちは、戦士、弓術師、治癒術師、荷物持ち」


ピカード

「前線1人、後衛2人、荷物持ちが1人」


ピカード

「攻撃呪文の使い手はゼロだ」


ピカード

「ディフェンシブすぎて、火力が足りてない」


ピカード

「これから先、もっと頑丈な魔獣が出てくるはずだ」


ピカード

「ヴァイスシバフと同じペースで進むのは、不可能だよ」


リンレイ

「なんとかならないの?」


ピカード

「前にも言ったけど、新しいメンバーをスカウトした方が良い」


リンレイ

「……パーティに空きが無いわ」



 機士学校の授業では、1パーティの人数は、4人までと決まっていた。


 今のリンレイたちのパーティは4人。


 限界の人数だった。



ピカード

「王子を切れば良い」


ピカード

「これも前に言ったけどね」


リンレイ

「……にいさま」



 リンレイが、ヨーダイを睨んだ。



ヨーダイ

「なんでしょうか?」



 ヨーダイは、無表情で尋ねた。



リンレイ

「そもそも、こんな事になっているのは、にいさまが弱いからなのよ?」


リンレイ

「ぼうっとしていないで、アイデアを出したらどうなの?」


ヨーダイ

「俺もピカードに賛成ですね」


リンレイ

「え……?」


ヨーダイ

「仰るとおり、ダンジョン攻略が滞っているのは、明らかに、俺の力が足りないせいです」


ヨーダイ

「俺をパーティから外して、まともな戦力を入れれば、攻略速度は改善されるでしょう」


ヨーダイ

「そろそろ潮時ではないでしょうかね?」


リンレイ

「それは……」


リンレイ

「私がパーティに入れてあげなかったら、誰もにいさまなんか、パーティには誘わないわよ?」


リンレイ

「ダンジョン攻略の単位が無かったら、学校を卒業もできないわ」


リンレイ

「落第者が出たら、王家の恥よ。だから……」


ヨーダイ

「その心配はありません」


ヨーダイ

「ダンジョン実習の単位を得るには、攻略深度が35層必要」


ヨーダイ

「ここは既に36層です」


ヨーダイ

「単位の条件は、満たされているのですよ」


リンレイ

「あ……」


リンレイ

「けど……」


リンレイ

「荷物を持つ人が……居なくなるのは困るわ」


ピカード

「そもそも、今の荷物が多すぎるんだよ」


ピカード

「普通に考えて、ダンジョン攻略にティーセットなんている?」


リンレイ

「いるわ」



 リンレイは真顔で断言した。



ピカード

「いらないよ!?」


ピカード

「普通のパーティはダンジョンでお茶なんかしないよ!」


リンレイ

「えっ?」


ピカード

「何言ってんだコイツみたいな目で見るのやめてくれる?」


ピカード

「問題なのはティーセットだけじゃないよ」


ピカード

「必要なアイテムの、取捨選択が出来てない」


ピカード

「だから、ほとんどのアイテムは、宝の持ち腐れになってる」


ピカード

「ただの重りだ。無い方がマシだよ」


リンレイ

「そんなこと……あなたは今まで言わなかったじゃないの」


ピカード

「そうだね」


ピカード

「べつに僕は、最適なダンジョン攻略なんて望んじゃいなかった」


ピカード

「無駄が有っても、非効率でも良いと思ってた」


ピカード

「ちょっと不利な条件でも、やっていける自信は有ったしね」


ピカード

「ほどほどに頑張って、単位さえ取れれば、それで良いと思ってたんだ」


ピカード

「けど、ここから先、無茶を続けるなら、遊んでる余裕は無い」


ピカード

「あの大熊を見て、そう思った」


ピカード

「本気でヴァイスシバフを追いかけるなら、マジメにやらないと、命に関わる」


ピカード

「中途半端じゃ困る」


ピカード

「ガチなのかエンジョイなのか、はっきりさせて欲しいな」


リンレイ

「私は……本気よ……」


ピカード

「だったら、王子のことは切るべきだね」


ピカード

「このパーティの、1番のボトルネックは、王子だ」


リンレイ

「…………」


ピカード

「ああけど、王子の存在にも、メリットは有るよね」


リンレイ

「……?」


ピカード

「王子が居れば、負けの責任を、彼のせいに出来る」


ピカード

「あの無能王子と同じパーティなら、負けても仕方ない」


ピカード

「そんな風に言ってもらえる」


ピカード

「ひょっとして王女さまは、それを期待してたのかな?」





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