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その15の1「マゴコロとナンパ」




リンレイ

「ごちそうさまでした」



 2人は夕食を終えた。


 後片付けも、ヨーダイの仕事だ。


 2人分の皿を、洗うことになった。


 片付けが終わると、自由時間だ。


 とはいえ、ヨーダイもリンレイも、勤勉な王族だ。


 ヨーダイは、母との未来に向けて。


 リンレイは、いずれ来たる玉座に向けて。


 自らを磨いておかなくてはならなかった。


 ゆえに、ダラダラと遊ぶようなことは無い。


 2人には、無駄にして良い時間など無いのだ。


 ダイニングテーブルで、きょうだい並んで勉強をした。



リンレイ

「にいさま。分からないところは無い?」


ヨーダイ

「問題ありません」


リンレイ

「口だけは達者ね。にいさまは」



 リンレイは、呆れたように言った。



リンレイ

「おバカなにいさまが、テストを乗り切れるか、心配してあげてるのに」


ヨーダイ

(ご心配なく)



 今は1年の2学期だ。


 1学期、ヨーダイの成績は悪かった。


 わざとだ。


 ヨーダイには、無能を演じるという役割が有る。


 テストで好成績を取るわけにはいかなかった。


 意図的に、ギリギリ進学が出来る成績に留めた。


 やはり無能王子か。


 ヨーダイの成績が知れ渡ったとき、クラスメイトたちは、そんな印象を抱いたものだ。


 狙い通りだと言えた。


 のんびり勉強していると、お風呂の時間が近付いてきた。


 ヨーダイは、浴室に行き、魔導給湯器のスイッチを押した。


 湯張りは20分ほどで終わった。


 ヨーダイは、リンレイをお風呂に入れた。


 リンレイの世話が終わると、自身も風呂に入った。


 風呂上りの休憩を挟み、勉強を再開した。


 やがて、就寝時間になった。


 ヨーダイには、自分の部屋が用意されている。


 だが眠るのは、リンレイの部屋だった。


 リンレイの抱き枕になるのも、ヨーダイの仕事だった。


 リンレイにがっしりとしがみつかれながら、ヨーダイは目を閉じた。


 少し寝苦しいが、役目なので仕方が無かった。




 ……。




 翌日。


 リンレイのベッドの上で、ヨーダイは目を覚ました。


 リンレイの朝の着替えや、朝食の準備も、ヨーダイの仕事だった。


 食事と身支度が終わると、ヨーダイたちは家を出た。


 2人はいつものように登校し、学校で授業を受けた。


 やがて、午前の授業が終わった。



リンレイ

「行きましょう」


ヨーダイ

「はい」



 昼休み。


 ヨーダイは、リンレイやヤミヅキと共に、教室を出た。


 パーティメンバーのピカードは、別の友人に同行していた。


 3人で、食堂へ移動した。


 すると……。



ヨーダイ

「ん……?」



 食堂に入ってすぐに、ヨーダイは立ち止まった。



ヤミヅキ

「ヨーダイさま?」



 隣を歩いていたヤミヅキが、ヨーダイの視線を追った。



マゴコロ

「返して……!」


セグ

「こんな空き瓶に、何を必死になってんだ?」



 青犬族の、小柄なショートカットの少女が、同族の少年に絡まれていた。


 2人とも青髪で、犬の耳と尻尾を持っていた。


 少年の手中には、カラのガラス瓶が見えた。



マゴコロ

「私にとっては大切な物なの。早く返して」


セグ

「良いけどよ」


セグ

「その前に、俺と2人で食事でもどうだ?」


マゴコロ

「…………」



 少女は困り顔になった。



ヨーダイ

(マゴコロ=アオプラネット。ゲームの主人公の1人だが……)


ヨーダイ

(あんな顔を見せるのは、珍しいな)



 ヨーダイの知るマゴコロは、あまり感情を表に出さない。


 だが、今の彼女は、それなりに感情的になっている。


 ヨーダイの目には、そのように見えた。



ヨーダイ

(声をかけてみるか)



 ヨーダイがそう思ったそのとき……。



リンレイ

「放っておきなさい」



 リンレイが、ヨーダイを呼び止めた。



リンレイ

「機士ならあれくらいのこと、自力でなんとかするべきよ」


ヨーダイ

「……はい」



 ヨーダイは、リンレイのしもべだ。


 よほどの事が無い限り、彼女に逆らうことは無い。


 この時も、素直に頷くことになった。


 ヨーダイは、マゴコロから視線を外した。


 そして、空きテーブルへと歩いていった。


 マゴコロは、1人で少年に対処することになった。



マゴコロ

「食事をしたら、それを返してくれるの?」


セグ

「ああ。考えてやるよ」


マゴコロ

「……分かった」



 マゴコロと少年、セグは、同じテーブルに着席した。


 ヨーダイたちは既に、別のテーブルについていた。


 機士学校の食堂では、プロの給仕が働いている。


 呼び鈴を鳴らすと、すぐに給仕がやってきた。


 ヨーダイたちは、給仕に料理を注文し、少し待った。


 料理はすぐに到着した。



ヨーダイ+リンレイ+ヤミヅキ

「「「いただきます」」」



 何故か日本式の礼をして、3人は食事を始めた。



ヨーダイ

「…………」



 ヨーダイは、自身の料理を食べ終わった。


 ヨーダイは、平均的な女子よりも、食べるのが早い。


 リンレイとヤミヅキは、まだ食事中だった。


 2人とも、良家のお嬢様だ。


 洗練された所作で、丁寧に食事をしていた。


 ヨーダイも、一応のマナー教育は受けている。


 だが、孤児院育ちの魂が、染み付いてもいる。


 2人ほど優雅には、振舞えそうになかった。


 ヨーダイは、マゴコロのことが気になっていた。


 ついマゴコロたちの姿を、探してしまった。



マゴコロ

「ごちそうさま」



 斜め後ろの席を見ると、マゴコロが食事を終えたところだった。


 マゴコロは席を立ち、向かいのセグに向かって言った。



マゴコロ

「約束通り、瓶を返して欲しい」


セグ

「おいおい、ちょっと気が早いんじゃないか?」



 セグは、薄笑いを浮かべて言った。



マゴコロ

「……?」


セグ

「今日の放課後、俺とデートしてくれよ」


セグ

「それで俺が満足したら、コイツは返してやるよ」


マゴコロ

「約束が違う……!」



 マゴコロは、怒りと苦しみが混じったような顔で、セグを睨んだ。



セグ

「そう睨むなよ。傷つくぜ」



 マゴコロに睨まれても、セグは動じなかった。


 理由の1つは、マゴコロの可愛さにあった。


 小柄で美しい彼女に睨まれても、あまり凄みが無い。


 もう1つの理由は、セグの手中に、交渉材料が有ったことだ。



セグ

「ショックで手がフラついちまう」



 セグはニヤニヤと、手元の瓶を揺らした。



マゴコロ

「やめて……!」


セグ

「それじゃ、放課後に正門前な」



 セグはそう言うと、席から立ち上がった。



マゴコロ

「っ……」



 マゴコロは何も出来ず、セグが去るのを見送る。


 そうなるはずだった。



ヨーダイ

「そのへんにしとけよ」



 ヨーダイが、セグの右腕を、背中側にひねり上げた。



セグ

「ぐっ……!?」



 そして、瓶を奪い取った。


 ヨーダイは、セグの腕をひねったまま、奪った瓶を見た。


 それはヨーダイにとっては、見慣れた形の瓶だった。



ヨーダイ

「ん? 解毒ポーションの瓶か? これ」


セグ

「はなしやがれ……!」



 セグは痛みに耐えながら、怒声を放った。



ヨーダイ

「ほらよ」



 ヨーダイも、いつまでも男の腕など掴んでいたくは無い。


 あっさりと手をはなし、セグの背中を押した。



セグ

「っ……!」



 セグはふらつきながら、数歩前へ歩いた。


 ヨーダイは、セグから視線を外し、マゴコロの前へと歩いた。


 そして、空き瓶を差し出した。



ヨーダイ

「ほら」


マゴコロ

「あ……」


マゴコロ

「ありがとう」



 瓶を受け取ったマゴコロは、微笑んで礼をした。



ヨーダイ

「大事な物なら、ちゃんとしまっとけ」


マゴコロ

「それは……」


セグ

「てめぇ!」


ヨーダイ

「…………」


セグ

「無能王子が……! デートの邪魔しやがって……!」


ヨーダイ

「驚いたな」



 ヨーダイはセグに、冷めた視線を向けた。



ヨーダイ

「最近は、下衆なセクハラをデートと言うのか」




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