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その12の2「帰還と次の授業」





 ピカードは、平均より少し小柄な少年で、黄鼠族だ。


 商売上手なゴルドフロシキ伯爵の子息。


 金髪で、鼠の耳と、尻尾を持っている。


 鼠には、尻尾に毛が無いものが多い。


 だが、黄鼠族の尻尾には、ふさふさとした毛が生えていた。


 耳もふさふさだ。


 ピカード本人の容姿もあり、とても可愛らしく見えた。


 彼のクラスは弓術師だ。


 手には弓を持っていた。


 背には矢筒が見える。



ヨーダイ

「……べつに」



 ヨーダイは、さきほどのピカードの言葉に対し、そう答えた。



ピカード

「リンレイ王女は、次期君主にふさわしい神童。そう聞いていたけど……」


ピカード

「噂って言うのは、アテにならないものだ」


ピカード

「特に、広まりすぎてる噂っていうのはね」


ヨーダイ

「止めておけ」


ヨーダイ

「ダンジョンの中は、声が響くぞ」


ピカード

「心配しないでよ」


ピカード

「ナイショ話は得意だからね。僕は」


ヨーダイ

「ロクでもない特技だな」


ピカード

「けど、役に立つ」


ヨーダイ

「…………」


ピカード

「助けないよ」


ピカード

「君は世間の噂とは違い、誠実みたいだ」


ピカード

「けど無能だ」


ピカード

「助けても一銭にもならない相手を、助けようとは思わない」


ピカード

「恨まないでね」


ヨーダイ

「誰も助けてくれなんて、頼んじゃいない」


ピカード

「うん。それなら良いけどね」


リンレイ

「にいさま! なにを無駄話をしているの!?」


ヨーダイ

「申し訳ありません」


ヨーダイ

「……お前のせいだ。恨むぞ」



 実際は、大して気にしているわけでは無い。


 だがヨーダイは、ピカードを睨んでみせた。



ピカード

「ごめんごめん」



 ピカードの側も、大して悪いとは思ってない様子で、ニコニコと謝罪をした。




 ……。




リンレイ

「はあっ!」


「ちゅっ!?」



 リンレイの剣が、ビッグクローラットを斬り捨てた。


 ビッグクローラットは、大きな爪を持つ鼠だ。


 鼠系の魔獣のなかでは、殺傷能力が高い。


 油断出来ない相手だったが、リンレイは無傷で勝利した。


 リンレイのクラスは、戦士だ。


 接近戦に強い。


 とくに彼女は、長剣を扱うのを得意としていた。



リンレイ

「ふぅ……」



 戦闘を終え、リンレイは一息ついた。


 そのとき、冒険者の腕輪のタイマーが鳴った。



リンレイ

「あら。もう時間?」



 リンレイたちは、授業でダンジョンに潜っている。


 職業冒険者とは違い、時間には限りが有った。



リンレイ

「もっと先に進みたかったのに……」


ピカード

「ねえ」


ピカード

「そんなに焦らなくても良いんじゃないの?」


ピカード

「攻略深度なんて、無理して1位にならなくても良いと思うけどな」



 生徒たちは、到着できた階層を、学校側に報告する。


 パーティがたどり着けた深さを、攻略深度と呼んだ。


 攻略深度は、ダンジョン実習の成績に、大きく関わってくる。


 今、リンレイたちの攻略深度は、学年で2位だ。


 好成績だが、1番にはなれていない。


 テルヒ=ヴァイスシバフたちのパーティが、トップを独走していた。



リンレイ

「私はこの国の王女よ? 1番偉いのよ?」


リンレイ

「成績も1番じゃないと、格好がつかないでしょう?」


ヨーダイ

(1番偉いのは、お前の母親だと思うが)


ピカード

「そうは言うけどね……」


ピカード

「このダンジョン攻略って授業は、フェアじゃ無いよ」


ピカード

「入学より前に、ダンジョンに潜ってた連中が居る」


ピカード

「たぶん、テルヒ=ヴァイスシバフも、その1人だろう」


ピカード

「そういう連中と、攻略深度で競い合うのは、コスパ悪いと思うけどな」


リンレイ

「良い? 私はこの国で、ぶっちぎりに1番の存在なの」


リンレイ

「多少のハンデくらい、負けても良い理由にはならないわ」


ピカード

「多少じゃ無いと思うけど……」


ピカード

「1番になりたいなら、手っ取り早い方法が有るよ」


リンレイ

「何よ?」


ピカード

「王子を切って、新しいメンバーを引き抜くことだ」


ピカード

「そして引き抜きの相手は、ヴァイスシバフの仲間が好ましい」


ピカード

「オススメは、イド=クリムゾンシッポかな」


ピカード

「クリムゾンシッポ伯爵領は、あまり裕福では無いようだ」


ピカード

「王家の財力に物を言わせれば、引き抜ける可能性は高いんじゃないかな?」


リンレイ

「ダメよ」


リンレイ

「あいつの仲間を引き抜くなんて、負けを認めてるようなものじゃないの」


ピカード

「そ」


ピカード

「コスパの悪いことは、しない方が良いと思うけどね」



 4人は、来た道を戻った。


 そして、大転移陣に入った。


 大転移陣とは、その名の通り、大型の転移陣だ。


 5層に1つくらいの間隔で、ダンジョンに設置されている。


 大転移陣を使えば、複数の階層を、一気に移動出来る。


 ただし、下りで用いるときは、自身が攻略した階層までしか移動できない。


 あらかじめ、ダンジョン内の大転移陣に、個人の情報を登録しておく。


 そうしなくては、大転移陣は作動しなかった。


 一行は、大転移陣をいくつか通り、ダンジョンを出た。


 すると、ダンジョンの1層にまでたどり着いた。


 1層の大転移陣の隣には、地上への転移陣が有った。


 4人はそれを用い、地上へと転移した。


 ヨーダイたちは、学校のダンジョンドームにたどり着いた。


 時刻は昼休み前だった。


 ヨーダイは、ロッカールームで着替えを済ませ、学生食堂へ向かった。


 そこでリンレイたちと昼食を済ませた。




 ……。




 やがて、午後の授業の時間になった。


 午後の授業は、シャドウキャスター操縦訓練だった。


 現在の授業内容は、基本的な走行訓練。


 身長18メートルの鉄巨人たちが、広い訓練場のコースを、走り回っていた。



ヨーダイ

「…………」



 ヨーダイも、自身のシャドウキャスターに乗り込み、走らせていた。


 狭いコックピットで、魔導レバーを握っていた。


 機体は脳波で動く。


 なのでレバーは、機体の操縦装置では無い。


 だが、シャドウキャスターを動かすには、操縦者の魔力が必要だ。


 魔導レバーは、魔力を機体に送るために、必要なものだった。


 ヨーダイが乗り込んでいる機体は、スベルキー。


 古くから王家に伝わる、由緒有るシャドウキャスターだが……。



ブリーメル

「おっとぉ!」



 1体のシャドウキャスターが、スベルキーの前に立ちふさがった。


 ラセンホーンと呼ばれる機体だった。



ヨーダイ

「っ……!」



 ヨーダイは、慌ててスベルキーを止めた。


 反応が早かったおかげで、ぶつからずに済んだ。



ブリーメル

「悪いな。小さすぎて見えなかったぜ」



 眼前のラセンホーンから、男の声が聞こえてきた。


 彼の名はブリーメル=メルメル。


 ヨーダイのクラスメイトだ。


 種族は橙羊族。


 種族の特徴として、耳が少し尖っている。


 頭には、山羊のようなツノが生えている。


 そして首周りには、もこもことした毛が生えていた。


 彼が乗るラセンホーンという機体は、橙色をしていた。


 その顔は、羊を模してある。


 頭には特徴的な、螺旋を描くツノが生えている。


 そのツノは、ラツカ羊という羊のものに、よく似ていた。


 機体の身長は、軍用機の平均サイズである18メートル。


 眼前のシャドウキャスターに対し、ヨーダイのスベルキーは、身長が4メートルほどしか無い。


 大人と赤子ほどのサイズ差が有った。






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