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その1「VRゲームと謎の老人」

とりあえず29話予定。

よろしくお願いします。



 クロノ=ヨーヘイは、自宅に帰還した。


 ヨーヘイは社会人で、年は30を超える。


 家は都内に有る、立派な一戸建てだ。


 1人で住むには少し広い。


 だが、ヨーヘイは1人暮らしだった。


 たった1人で、広い家で、孤独に暮らしていた。


 今までは、仕事が忙しく、あまり家には居なかった。


 自宅の広さに寒々しさを感じることも無かった。


 だが、彼はこれから、長い休暇を、この家で過ごすことになっている。


 ヨーヘイの仕事は、宇宙船の基幹システムの開発。


 その開発主任だ。


 システムは、既に完成した。


 おかげで、長期の休暇が認められていた。


 何か深刻なエラーでも無い限り、彼が呼び出されることは無いだろう。


 ヨーヘイは、自由だった。


 彼は玄関を通ると、2階の自室に直行した。


 彼の部屋は、物が少ない。


 何年か前に、持ち物を整理した。


 その多くを、捨ててしまっていた。


 VRゲーム用のマシンだけが、異質さを放ち、目立っていた。


 VRゲームは、仕事人間と言って良いヨーイチの、唯一の趣味だ。



ヨーヘイ

(久しぶりの長期休暇だ。ガッツリ遊ぶぞ)



 ヨーヘイは、スーツの上着を雑に脱いだ。


 そして、シワになることも気にせず、ベッドの上に放り投げた。


 下はスーツのままで、ゲーミングチェアに座った。


 次に、前方の机から、VRゴーグルを取り、被った。


 このゴーグルは、非常に高価だ。


 スペックが高く、しかも脳波コントロール出来る。


 ヨーヘイは、脳波コントロールを用い、ゲームを起動した。


 ヨーヘイのお気に入りのゲーム、『5英雄物語』だ。


 内容は、機械兵に乗り込み、味方に指示を送りながら戦う、戦略×アクションゲーム。


 部隊指揮とアクション、両方のスキルを求められる難解さが、ヨーヘイの好みだった。


 タイトル画面が表示されると、ヨーヘイは、ニューゲームを選択した。


 オープニングイベントが始まった。



ヨーヘイ

(良いゲームだけど、オープニングを飛ばせないのが玉に瑕だよな)



 ヨーヘイはこのゲームを、数え切れないほど周回している。


 オープニングイベントは、とっくに見飽きていた。


 ヨーヘイは、少ししらけた気持ちで、カットシーンを眺めた。


 彼は神の視点で、とある戦場を覗き見ていた。


 そこは、戦闘機が飛び交うような、現代的な戦場では無い。


 槍を手に歩兵が争う、中世の戦場でも無い。


 その光景は、現実には存在しないものだった。


 2足で歩く人型の機械が、そこに居た。


 争っていた。


 それは、いわゆるスーパーロボットだった。


 人型のスーパーロボットが、武器を手に戦っていた。


 その争いの中に、ひときわ小さい機械兵が見えた。


 小さな茶色の機械兵が、白く立派な機械兵へと向かっていった。


 小さな機械兵の身長は、ほんの4メートルほど。


 脚も短く、幅広で、ずんぐりとしている。


 対する白い機体の身長は、18メートルは有る。


 脚はしゅっと長く、股下は、身長の半分ほどは有る。


 顔は馬をモチーフとしており、腰の後ろからは、尻尾が生えていた。


 2つの機体には、大人と幼児ほどの体格差が有った。


 茶色の機械兵には、ナナト王国の王子である、茶猿族のヨーダイが搭乗していた。


 そして、白い機械兵には、ヴァイスシバフ伯爵家の嫡男、白馬族のテルヒが搭乗していた。


 その2人ともが、この物語の主人公では、無い。


 だが、戦乱の始まりを告げる、重要人物ではあった。



テルヒ

「大地に影を落とすから、シャドウキャスターと言うんだ!」


テルヒ

「そんな小人で戦場に立てば!」


ヨーダイ

「それでも僕は……! この国の王子だ!」


テルヒ

「妹を殺した貴様に、その資格は無い!」


ヨーダイ

「黙れええええええぇぇぇっ!」



 魔導通信が、2人の気持ちを伝え合った。


 ヨーダイの感情が、爆発した。


 小さな機械兵が、白い機械兵に飛びかかった。


 ヨーダイ機は、テルヒ機の剣をかわし、その脚にしがみついた。



テルヒ

「悪あがきを……」



 お互いの機体には、体格差が有り過ぎる。


 脚を掴まれた程度で、どうということは無い。


 そのはずだった。


 テルヒ機は剣を振り、ヨーダイ機を追い払おうとした。


 だが、そのとき……。


 機械兵から、光が放たれた。



テルヒ

「なに……!?」



 白い機械兵が、爆炎に包まれた。


 巨大な爆炎だった。


 18メートルの巨体全てが、爆発に飲み込まれた。


 爆炎は、容赦無く機械兵を砕いた。


 やがて、爆炎が収まったとき、テルヒの機体は大破していた。


 彼が乗るコックピットまでもが、ズタズタになってしまっていた。


 搭乗者の生存は、絶望的だった。


 この日、1つの若い命が、星に帰った。



ヨーヘイ

(親の顔より見た自爆。南無……)



 戦いの当事者にとっては、壮絶な戦いだっただろう。


 だが、ヨーヘイにとっては、見飽きた光景だ。


 特に心を揺さぶられることも無かった。




 ……。




 少しすると、カメラが切り替わった。


 カメラは、5体の機械兵を映し出した。


 5つの機体は、それぞれが、色も形も異なる。


 個性に満ちていた。


 青い、犬の頭部を持つ機体のパイロットが、口を開いた。



マゴコロ

「王子が自爆……?」



 その声は、魔導通信によって、周囲の機体にまで届いていた。



ピカード

「助からないね。あれじゃ」



 釣られるように、他のパイロットも口を開いた。



ヤミヅキ

「テルヒさま……ヨーダイさま……」


イド

「ヨーダイ=ビストスズ」


イド

「あの軟弱者に、命を捨てるだけの気概が有ったとはな」


セイラ

「気概と言って良いのかしら」


セイラ

「……あれでは誰も救われないわ」


イド

「そうだな」


ピカード

「何にせよ、正当な王家の血筋は、これで途絶えた」


ピカード

「これからのことを、考えないといけないね」



 6伯爵家の力によって、王家は打倒された。


 だが、その直轄領の分割をめぐって、6伯爵家は対立した。


 悪しき王家が去った後も、戦争は続いた。


 主力を失ったヴァイスシバフ家は、早々に戦いから脱落した。


 5つの伯爵家による、国家の覇権をめぐる戦いが始まった。


 ……これが5英雄物語の基本ストーリーだ。


 戦乱の始まりを告げる、オープニングシーンが終わった。


 ゲーム画面は、キャラ選択に切り替わった。



ヨーヘイ

(さて、ようやくキャラ選択だ)



 5人の少年少女が、ヨーヘイの眼前に表示された。


 伯爵家の未来を担う、英雄候補たちだ。


 プレイヤーは、彼らの中から1人、操作する主人公を選ぶことになる。


 この選択画面も、ヨーヘイは見慣れていた。


 だが、選ぶ楽しみが有るので、退屈さは感じなかった。



ヨーヘイ

(今回は……ヤミヅキにするかな)



 ヨーヘイは、自分が操る主人公を、黒鳥族の伯爵令嬢、ヤミヅキに決定した。



ヨーヘイ

(はじまりはじまり)




 ……。




 ゲーム開始から、現実時間で2日が経過した。


 ナナト王国は、ヤミヅキ擁するクロキクロウ家によって統一された。


 ゲームクリアだった。


 ヨーヘイの視界に、スタッフロールが流れ始めた。


 そして最後に、クリアターン数が表示された。



ヨーヘイ

(53ターンか)


ヨーヘイ

(かなり早くクリア出来たな。やり込みすぎたか)


ヨーヘイ

(これって、ちょっとした記録なんじゃないか?)


ヨーヘイ

(ネットで調べてみるかな……?)



 ヨーヘイがそう考えた、そのとき……。



老人

「こんにちは」


ヨーヘイ

「…………?」



 いつの間にかヨーヘイは、白い空間に立っていた。


 そして前方には、茶色いスーツの老人が立っていた。


 ヨーヘイの姿も、アバターであるヤミヅキから、彼自身のモノに戻っていた。



ヨーヘイ

(何だ? 隠しイベントか?)



 ヨーヘイには、ゲームからログアウトした記憶は無い。


 だとすれば、これはゲーム内のイベントのはずだ。


 だがこれは、ゲームをやりこんだヨーヘイにとっても、初めて見る光景だった。



ヨーヘイ

「……こんにちは?」



 とりあえずヨーヘイは、老人に声をかけた。


 ゲームのイベントシーンでは、アバターを自由には動かせないはずだ。


 だが、このときのヨーヘイの体は、彼の思うままに動いた。



老人

「うん。ごめんね。突然に驚かせて」


ヨーヘイ

「別に気にしちゃいませんけど」


老人

「そう。良かった」


ヨーヘイ

(会話が出来るのか?)


ヨーヘイ

(それとも、たまたまそれっぽいことを言ってるだけか?)


ヨーヘイ

(会話可能なAIなんて、今の時代なら、珍しくも無いが……)


ヨーヘイ

(たかがゲームに、軽々しく積めるようなもんでも無いはずだがな……)


ヨーヘイ

(クラッカー?)


ヨーヘイ

(いや。俺はマシンをネットとは繋いでない)


ヨーヘイ

(クラッキングは、物理的に不可能なはずだ)


ヨーヘイ

(それに、この体……)



 ヨーヘイは、自分の手を見た。


 そこに有るのは、華奢なヤミヅキの手では無い。


 良く見慣れた、男の手が有った。



ヨーヘイ

(俺の手だ。間違い無い)


ヨーヘイ

(このゲームが、プレイヤーの体をアバター化するなんて、聞いてないぞ)



 プレイヤー自身をアバター化するゲームも、有るには有る。


 だがそれには、専用の設備が必要だ。


 さらに、プレイヤーのデータを読み取るには、プレイヤー自身の認証が必要なはずだった。


 ヨーヘイには、そんな許可を出した記憶は無い。



ヨーヘイ

「いったい何なんですか? この状況は」


老人

「君に頼みごとが有る」


ヨーヘイ

「頼み?」


老人

「王国を、救って欲しい」


ヨーヘイ

(いかにも、ゲーム的な頼みだな)


ヨーヘイ

「もっと具体的にお願いします」


老人

「5英雄物語の舞台であるナナト王国は、いずれ滅びる」


ヨーヘイ

「続編で、さらっと滅んでましたよね」



 5英雄物語には、続編である2も存在する。


 ヨーヘイも、2をプレイしたことは有った。


 あまり好きになれず、結局は、1に戻ってきたのだが。



ヨーヘイ

(戦乱で疲弊してたところを、周りの国にアッサリやられるんだよな)


ヨーヘイ

(ナナト王国は分割されて、他国の領土になってしまう)


ヨーヘイ

(初めて2をプレイした時は、ショックだったな)


ヨーヘイ

(1での俺の頑張りは何だったんだよっていう)


ヨーヘイ

(続編で、前作主人公を貶めるクリエイターを許すな)


老人

「君は、2もプレイしてくれているみたいだね」


ヨーヘイ

「そうですね」


老人

「それなら話は早い」


老人

「5人の英雄の誰が勝利しても、滅びの運命は変えられない」


老人

「それを、君に変えて欲しい」


ヨーヘイ

「何をすれば良いんですか?」


老人

「転生だ」


ヨーヘイ

「……はい?」


老人

「君に、5英雄物語の時代に転生して欲しい」


老人

「そして君の力を、王国のためにふるって欲しい」


ヨーヘイ

「転生……」


ヨーヘイ

「この俺の姿のアバターで、ゲームをプレイするってことですか?」


老人

「これはゲームでは無いよ。現実の話だ」


ヨーヘイ

「はあ」


ヨーヘイ

(そういうテイで楽しめってことか)


老人

「それに、君の姿で転生するわけでも無い」


老人

「君には、僕が選んだ人物に、転生してもらうことになっている」


ヨーヘイ

「はあ」


ヨーヘイ

(6人目の主人公で、プレイ出来るって感じか)


ヨーヘイ

(そのシナリオをクリアすると、王国の滅亡を回避出来ると)


ヨーヘイ

「俺がブリックヴィンケルになるということだ……」


老人

「うん?」


ヨーヘイ

「いえ。なんでも」


ヨーヘイ

「面白そうですね。早くやらせてください」


老人

「今すぐというのは無理だね」


ヨーヘイ

「えっ?」


老人

「君には、この世界の人生が有るだろう?」


老人

「だから、君をあの世界に送るのは、君の死後を予定しているんだけど」


ヨーヘイ

「何ですかその回りくどい設定」


ヨーヘイ

「早くやらせてくださいよ。早く」


老人

「だけど……」


ヨーヘイ

「早く!」


老人

「アッハイ」


老人

「それじゃあ行くよ」



 老人は、手のひらを主人公に向けた。



ヨーヘイ

「わくわく」


老人

「口で言う?」


ヨーヘイ

「まだですかー?」


老人

「……任せたよ」



 ヨーヘイの体が、輝いた。


 ヨーヘイの意識は、徐々に薄くなっていった。


 意識が薄れていくなかで……。



ヨーヘイ

(しっぽ……?)



 ヨーヘイは、老人の腰に、しっぽが有るのが見えたような気がした。



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