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No.6


「こんにちは、アニエスちゃん!」


突然、女の子のらしき高い声が聞こえた。

瞑っていた瞳を開けて僕はその存在を確認した。


髪はブラウンのショートに、クリクリした大きなお目目。白子のような細い腕は、意外にも筋肉質だということが伺えた。

それがどうしたってわけじゃないけど、庇護欲を掻き立てられるお人形さんのような可愛いらしい女の子だった。

世界が誇る、美少女と言っても過言ではないと、お世辞でなく心の底からそう思う。


そしてその一級品のお人形さんは僕に向かって、愛らしい笑みを浮かべて飛びつく体勢をとっていた。


しかし、僕もヘンテコな妄想するなんて。

いわゆる脳内彼女、というやつか。そう考えているのも束の間、みるみるその距離を縮める彼女はおおきくT字に腕を開いて、目の前に接近していた。


「…ッぐっ!」


夢のはずなのに、軽い衝撃が体を襲う。

おもわず変な声を出してしまい、抱き着かれた衝撃で後ろに倒れた。抱きつかれた衝撃で、息を整えようと彼女の首から顔をのぞかせる。そのさい、彼女の髪から花のような優しい香りが、僕の鼻を意地悪にくすぐった。


「ああぁ!すみません!やっとアニエスちゃんに会えたから興奮してしまいました!」


興奮すると抱き着くって...。

べつに、可愛い女の子に抱きしめられるのは悪くないけど。

どうやら脳内彼女ではないらしい。


「大丈夫だけど、ここはどこ?あなたはお人形さん?」

「ここ夢の中の仮想現実というやつです!それと私エスです!人形じゃないです!」


周囲には、僕と彼女を囲むように無数に黒い球が浮いてる。

隙間から見えた奥の景色は、何も無い。地平線だ。

うっすらとは小さな光が見えてた。


それより気になること言ってたね。

やっと、そう言っていた。僕は勿論初めましてこんばんはだ。

今からよろしくするのだ。

彼女は僕のことを知っていたみたいだけど。

取り敢えず僕は至って冷静なフリをする。


「そうだね、まずは改めてまして!私はエス」


美少女エスは、胸に手を当てて名乗る。


「ある時アニエスちゃんを、たまたま、見つけてね。

それで興味本意で、あなたの頭の中に入らせてもらってたんだ。ネピアンにくる前からね。

いきなりだけど、これから長い付き合いになると思うからよろしくね!」

「そうなんだ」

「うん!よろしく!」

「よ、よろしくぅ……」


はぁ〜い、よろしく〜、じゃないよな。普通。

あの美少女の皮を被った何かに騙されちゃいかん。


「ん?なぁに?顔に何かついてる?」


美少女だ。

いやいや頭の中に入るなんて、ちょっと興味が湧いた程度でやれるもんじゃないでしょ。

ヤバい科学者なのか。

それとも頭のおかしい医者なのか。


「ごめんね。え、震えてる?あぁ、ごめんなさい!

話たかっただけなの。だからお願い。そんなに怯えないでほしいな」


僕が怯えてると、エスも狼狽えはじめた。

怯えてるコッチが申し訳なくなってくる。


すると、背中から黒い(もや)が現れて、優しく起こしてくれた。


似ている。

あの黒い靄と。

とても似ている。


その黒い靄はステータス画面の時に出てきたものと同じもの。あれは確実だろう。

きっとエスは少なくてもあの【不明】という文字と何らかの関係があることは間違いないない。


「ありがとう、もう大丈夫。さっきは怯えてるごめん」

「許してくれる?」

「うん」

「ありがとう!アニエスちゃん!」


エスはほっとしたように顔をほこらばせた。

エスはいい子だ。少なくてもマッドサイエンティストの類ではない。

これからエスとは、仲良く出来る気はする。


「それより、この黒い靄とエスについて教えて欲しい」


僕がそう聞いてみる。

すると何かを思い出したようで、しゃべり始めた。


「そうでした!ステータスのことを説明しようと思ってたんです!【不明】ですよね。やっぱり困っている様子でしたから」


どうやら困っている僕を見かね教えに来てくれたみたいだ。

ありがたいが、もともと来る予定はなかったのかな?


「アニエスちゃんが今困っている『不明』というのはですね、『紛れ者』に与えられる制限のようなものです」

「紛れ者?僕のような転生者の呼び方なのか」


紛れ者ってことは、

この世界に転生、転移した人のことを言うのだろうか。

それだったら僕以外でも来た人いたってことなのか?


「そうです。

異世界からやってきた人のことをいいますね。

ちなみにアニエスちゃんは転生者じゃなくて、

転移者という形ですね。

普通より制限が厳しくなっちゃいます」


性別すら変わってるのに転生ではないのか。

しかも、どんな制限か分からないけど、

大きな縛りがあるってことは心配になる。


「でも、少しずつですが制限を無くしていくことは可能です。

そのためには代償を払う必要があるんですよ」

「代償って……体の一部を悪魔に渡すの?」

「いえ、あんな奴らとは違います!」


聞くと、代償というのは経験値のことだそうだ。

この世界には魔物と呼ばれるモンスターが数多く生息し、

それを倒すことによって貰える報酬のことだそうな。


「実は、最初の代償はもう払ってあります。

   それは過去の記憶です」


僕は目が覚めたような衝撃を受ける。だが、同時になぜ記憶が少なくはあるが、わりと残ってることに疑問を持つ。


「けどわりと残ってるよ。どうして?」

「さぁ?どうしてなんですか?」

「えぇ……」


かなりガバガバな代償に思わず苦笑してしまう。


「アニエスちゃんは覚えていないでしょうが、ちゃんと許可もとりましたよ?ここにくる前の話ですが、感傷に浸ったように思い残すことはないと言っていましたし」


僕の過去に一体なにがあったんだよ。

意外と暗い過去があったのか。でも今じゃ他人事だよな。


「では、これを受け取ってください」


コレとは何?そう聞こうとした時、ぬるぅっと、エスの体から虹色に輝く光の球体が出てきた。

恐る恐る球体に近づいてゆく。だが、突然虹色の煌めきを失って真っ黒の霧となって僕の中に吸いこまれていった。


絶対体に悪い色をしてたと思うが、もう入った。身体をまさぐっても取れないものは取れない。仕方なしに諦めた。


「異世界生活のスタートダッシュは問題ないと思います」


体の影響を知りたいけど、今はこれを信じるしかないだろう。

きっと問題ないはずだと。


「これでステータスの制限が一つ解放されました。

今はこうやって夢の中でしか話すことができないけど、レベルをあげて、スキルも増やして。

 そうしたら私もアニエスちゃんの近くにいることができるようになるし、更に強くなれるように色々なことができるようになるから。是非とも頑張ってもらいたいです」


そうエスが言っているとだんだんと遠くの方にある光が強くなり始めていた。


「今日はもうこのぐらいです。明日はアニエスちゃんが最初に目を覚ました森に行って、魔物を倒してきてきてくれませんか?次の代償を払うには必要になるので」

「え、いきなり?じゃあカールを連れて行こうかな」

「えーっと、まだダメです。理由はまた今度教えます」


何故か歯切れ悪そうにエスは答えた。絶対隠しごとがある。ひとに見られちゃいけない何かが。

こんなのされちゃエスを信じられなくなりそうだ。

武器はあるけど大丈夫なのか?

いきなり強敵は現れないと思うけど、やはり不安だ。


そんな疑問を浮かべた束の間、

異論を許さぬまま、呆気なくエスと別れた。


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