7. 手作り弁当2日目
次の日も田宮はわたしに弁当をふるまってくれた。
「わ、サンドイッチ。すごくおいしそう!」
「おうよ」
得意げに田宮が鼻をこすった。
父親と朝ごはんに食べるはずだった食パンがこれまた大量に余っているとかで、六枚切りの食パンで作ったサンドイッチがお重の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれている。卵サンドにカツサンド、トマトときゅうりのサンド。それに、フルーツサンド。
「今日はクリスマスイブだから、イチゴを使ったフルーツサンドも作ってみた」
「もうおいしそうっていう言葉以外出てこないよ……。すごいなあ。こんなに食べられるかなあ」
「安心しろ。残ったものは俺が全部食べるから」
昨日初めて知ったのだが、田宮はかなりの大食漢なのだ。しかも食べるのがかなり速い。
しっかりとマスタードの利いた卵サンドを堪能しつつ、頭上の木々の隙間から青空を眺める。いい天気に、おいしいサンドイッチ。まさに平和だ。
すると毎日きりきりと働くママに少し申し訳なくなった。確かにママはパパを最優先にした生活を送っていて、それを娘であるわたしに強要しているが……ママが働いている理由の一つは、やっぱりわたしのためでもあるのだ。わたしがいなければママはもっと楽ができるはずだから。
ママにはこんなにおいしいものを食べる機会はあるのだろうか?
「そういえば……悦子さんのことなんだけど」
急に田宮に話しかけられて、すぐに頭が働かなかった。
「悦子、さん? 誰それ?」
「えっと。あのサンタクロースになりたいお客様のことなんだけど」
「へえ。悦子さんっていうんだ」
「鳴川は悦子さんと親しいのか?」
「親しくはないよ。ただのお隣さん。お店に行った日はいろいろあって一緒に行動していただけ」
「ふうん。そっか」
もそもそとサンドイッチをかじる田宮の様子に、ぴんときた。
「何かおばあさんに伝言でもあるの?」
「……いいのかっ?」
食い気味な田宮にうなずいてみせる。それくらい、昼食二回分の恩義としては足りないくらいだ。
「そうか。よかった。……あのさ。俺の大おじさんのことなんだけど」
いつもはっきりした物言いをする田宮にしてはやけに慎重に言葉をつむいでいく。
「実はちょっと調子が悪くて」
ここからどういう話につながっていくのか、先がまったく読めない。カツサンドをかじりながら、わたしは田宮の話に耳を傾けた。
「まあ、もう年だし。いや、そこまで年でもないか。今年で六十五歳なんだけど、同い年の悦子さんもあんなに元気だもんな。うん。だけど調子が悪い時って、ちょっと人恋しくなったりするじゃん? だから、さ。えーと」
「ああ。なるほどね」
ここまで聞けばすべては察せた。
「田宮の大おじさんっておばあさんの同級生なのね? でもっておばあさんが初めてあのお店に行ったときにレジにいた人で」
そこで言葉を区切りつつも、思いついたままに続ける。
「そして大おじさんはおばあさんに恋をしている。違う?」
これに田宮が重々しくうなずいた。
「そうなんだ。だから二人が会えるように協力してくれ」
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