第16話『海辺にも村がある』
「待〜〜て〜〜〜ッッッ!!!」
「クソッ……はァッ……はッ……脇っ腹がいてぇ……!」
追いかけっこは思いのほか長く続いた。
オズマという男はうっそうと茂った森には入ろうとしなかったので、追いかけるアタシには好都合だった。
この間みたいにヒグマに出会ったらたまったもんじゃないからね!
まぁ、満月と新月以外の夜は比較的どの動物も大人しいらしいけど。
「ッ……! 分かった! 俺たちが悪かったァッ!!」
「うわぁッ!?」
もう少しで追いついて、その背中に飛び蹴りをお見舞いしようとした時だった。
追いつかれるすんでのところで急に立ち止まったかと思えば、地面にめり込むほどの土下座をした。
「何よ。一体何のつもり?」
「俺はもう走れねぇし、嬢ちゃんは腕が立ちそうだ。謝るから許してくれ……この通りッ!」
「……」
ダサッ。
その決断は間違ってないと思うけど、この男にはプライドってものがないの?
アタシなら、地の果てまでも走って逃げきって見せるけどね。
逃げきれなかったから捕まってこんな場所にいるんだろって?
うるさい、たまには失敗もある。
「走ってる間、すっかり反省した。もう二度とこの村にゃ迷惑かけねぇよ!」
「ウソ言うなッ! アンタたちもこの辺りに住んでるなら、どーせ今後もネーフェの村に寄生し続けるつもりでしょ!」
「い、いやそれは違う。違わねえが、違うんだ」
「はぁ? 言ってる意味が分かんない」
「確かに俺たちの集落はこの近くにある。でもよ、そこを捨てて別のところに行こうって考えてるんだ……」
「どうしてよ。いい加減な事ばっか言ってたら承知しないよ!」
「……この辺りはおっかないケモノがうろうろしてて危険だし、食糧も少ねえ。腰を落ち着けて暮らすにゃ、不便だってことに気付いたんだ……」
「それはアンタたちの努力が足りないからじゃないの? ネーフェの人たちはうまくやってるよ」
「ネーフェの奴らはクルトの田舎育ちだ。自然の中で生きる術を熟知してる。俺たち罪人にゃ、あいつらの真似はできねえ」
「……」
「俺たちはな、この島で何年も洞穴暮らしなんだ。とてもじゃねえが、ここの村人みてえには暮らせねえ」
それは確かに。
ネーフェの人たちは、この自然をうまく利用し豊かに暮らしてる。
畑を耕し、家畜を育て、養蜂や養蚕を行い、川や湖で漁をし、時には山の中で狩りをする。
木やレンガを使って家だって建てられるし、洋服や銀細工や武器のお店があって、スイーツすら出てくる。
そういうことは誰にでもできるはずがなく、少なくとも罪人がいくら徒党を組んでも無理だと思う。
だからって、村で盗みを働かれたらたまったもんじゃないけどね!
「実はな。ここからずっと真東に行った海辺にネーフェみてぇな村があるらしい。歩いて3日ってとこだ」
「えっ!?」
「俺たちはその村に行くまでの食糧が欲しかったんだよ。旅の間の食糧がな」
「……村があるの? この島に、この村のほかに!?」
「ああ」
「……ウソだ。そんな話、聞いたことない!」
「嬢ちゃんよ、この島じゃあ情報の行き来が殆どねえんだ。だから、どこに何があってもおかしかねえ」
「……」
「そこじゃネーフェの奴らみたいに、善良な人間が大勢暮らしてるらしいぜ。どうだ、嬢ちゃんも一緒に行かねえか?」
「なんでアタシがいかなくっちゃなんないのさ」
「オマエも罪人だろ? へへ、匂いで分かるぜ。どんなきっかけでこの村に住んでるのか知らねえが……」
このオッサン、バカそうだけど鼻は効くみたい。
アタシがネーフェの村人じゃないことくらいはお見通しか。
でも、そうなんだ。
この島には、ネーフェの村以外にも立派な村がある。
海辺の村って言うからには、漁村って感じ?
甘味処とか、レストランはあるのかなぁ。
あるんなら、ちょっと行ってみたいけど。
「どうだ、嬢ちゃんよ。ここは罪人同士、仲良くってのは」
「……アタシはいい。この村にいる。これでも結構ここ、気に入ってるから」
「そうかい。ま、ムリにとは言わねえよ」
「アンタはそこに行って、心を入れ替えて真面目に働くって訳?」
「俺ぁ盗みしかしたことがねえ。そいつは無理な相談ってもんだ」
「あっそ」
別によそでどんな悪さしようが、どうでもいいけどね。
以前、この辺りはセトって言うおっかない人が仕切っていて、食べ物とかを上納させて楽々暮らしてたらしい。
もしかしてそういう事をしようと企んでいるんだろうか?
このオッサン程度にそんな事ができるとは到底思えないけど。
「そいじゃあ、そういう事でオサラバって事で……」
「待ちなさいよ。まだアンタにはオトシマエをつけてもらってない」
「詫びには、そうだな……こいつをくれてやらぁっ!!!!」
「ぷわぁっ!?」
油断した。
何をするかと思えば、土をひとすくいすくって投げつけて来た。
乙女の顔になんつーものをぶっかけんのよ!
もうアッタマ来た!!
「へへ、あばよぉっ! のんびりしてたらあのクソガキに殺されちまわぁっ!!」
「えほっ、えほっ……! ま、待てーーーーっっっ!!」
目が効かないうちにやられるかと思ったら、スタコラ走って逃げてった。
アタシの視力が回復したころには、その姿はすっかり闇に溶けてしまった。
何よもう、なんか不完全燃焼だなぁ。
悪の首領を捕らえて、ふんじばって村の広場に晒してやろうと思ったのに。
う〜ん、でもさ。
これは結構有益な情報をゲットしたよね(ホントだとしたら、だよ)。
この罪人島には、ネーフェ以外にも善良な人間が住む村がある。
ちょっと距離があるみたいだし、正確にどの辺にあるか分からないから行くのは大変そうだけど……。
村同士が協力すれば、この島でもっと豊かに暮らせるはずだ。
アタシの作った野菜とか、そっちの村でも売れるんじゃない?
海辺の村なら魚はあっても野菜は少ないっしょ。
もしかしたらバカ売れしてアタシ、レタス長者とかになれる?
……やばっ。
明日からもっと頑張って働くぞー。
「……パット!」
「うん?」
「パット、大丈夫っスか!」
「……あーもう。遅いんだよっ!」
今頃になって、バカ王子とニッキが松明持って走ってきた。
こんな遅さで何が村のヒーローよ。
でも、あのオッサンがクソガキ呼ばわりしたのはきっと王子の事だよね。
以前何があったか知らないけれど、おそらくそのおかげで過度に警戒されて、目つぶしをくらってもそれ以上の攻撃はされなかった。
間接的には助けられたって事で、許してあげる。
「さっき、パットがボコにした連中が村に来たっスよ」
「あ、ちゃんと謝りに行ったんだ。えらいえらい」
どうやら、キチンとアタシの言った通りにしたようだ。
村で暮らせるかどうかは分からないけど、謝るのは大事。
あの人たちの罪とこれからの態度次第で、きっとジード村長が考えてくれるだろう。
「おいパット。一体何があったんだ。キチンと話せ!」
「聞いて驚いて。アタシはね、この島でレタス長者になるんだよ!」
「……はぁ? っス」
「医者を呼ぼう。パットの頭を見てもらう」
「アタシ、別にアタマとか怪我してないんですケド……」
二人とも、お前は一体何を言ってるんだという顔をした。
次話最終話となります。




