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帝国を追放された第4王子、流刑地で無双しながらスローライフを送る  作者: 黒酢一杯
第二章 追放された王子はスローライフを送る
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第15話『レタス畑でつかまえて』

 ふふん。


 (夜だけど)見てよ、この青々と茂ったレタス畑の姿を。


 アタシは公衆浴場で汗と一日の疲れを流した帰り道、なんとなくまっすぐ帰る気になれずにレタス畑に足を運んだ。


 今日はハチさんのお世話であんまりこっちを見てやれなかったし。


 今日の成長具合が心配だったけれど、見た限りは順調、順調。

 今はまだ少し幼いけれど、これがもう少し大きく実ったら収穫できそう。


 ニッキが言うにはレタスには葉レタスと玉レタスがあって、葉レタスのほうが丸まらない分収穫までが早い。


 酒場のマスターにレストランの開店に合わせて入荷するよう言われているけれど、この分なら間に合うんじゃないかなぁ。


 何でも、甘辛いタレで焼いたお肉をこの葉レタスで包んで食べる料理があるらしい。

 さわやかなレタスの風味と濃い味付けで仕上げたお肉のハーモニーが抜群なんだとか。


 聞いただけで美味しそうだし、そんなのもう優勝に決まってる。


 何に勝つのかって?

 知らないよ、そんな事。


 アタシは畑のすみっこに腰を下ろし、ここまでの努力の成果を眺めた。


 最初はつまらなかったけど、だんだん畑仕事は面白くなっていった。


 可愛い芽が出て来た時はそれまでの苦労が報われた気がした。


 酒場のマスターにレタスを育てていることを話すと、ぜひとも使わせてほしいと言われた。


 そのことを甘味処のエルドナートさんに話したら、開店の時にみんなで一緒に食べに行くことになった。


 彫金職人のデルフィネスさんには普段ボロクソ言っちゃってるし(だって本当に作ってるものがダサい)、おすそわけでもしてあげようかな?

 あの人独身だから、絶対野菜不足だし。


 それと蚕をくれたゼスさんにもお礼をしなくちゃいけないよね。


 今のアタシの畑にはレタスしかないけれど、近々ナスやトマトやピーマンの栽培も始める予定。

 ジード村長に頼らずハチミツが作れるようになったら、甘味処にも卸せるかもしれない。


 あ、明日は美味しいハチミツにするための花の配分を考えなくっちゃ。


 ……いやぁ、アタシも変われば変わるもんだわ。


 ここではフツーに仕事した方が盗むよりも楽しいし、アタシの作ったものを村のみんなが欲しがってくれる。


 これでやりがい感じなかったら、人じゃなくってケモノよケモノ。


 アタシもまだそこまで堕ちていなかったって事ね。


 王子の言うとおりだったのは悔しいけれど、確かにこの村では盗みをせずに生きていけた。


 その王子は偉そうなことをいうくせに、仕事をさせたらてんでダメ。


 だって見てよ、あの貧弱なレタス。

 色も悪いし育ちも悪い。


 ちゃんと虫を除けたりしないから虫食いだらけだし、そんなんじゃ店には卸せない。


 そもそもよく見たらちゃんと敷きワラしてないじゃん!


 「ったく、バカ王子ったら何してんの……!」


 ワラは畑の一角にまだまだ積んである。


 せっかくお風呂に入った後だけど、目に留まったからにはこんなデタラメを放っておくわけにはいかなかった。


 アタシはワラを手に取り、王子エリアの貧弱レタスの下にワラを敷き始めた。


 敷きワラって知ってる?


 ハイハイワロスとかいう帝都の俗語(スラング)じゃないよ。


 野菜の下にワラを敷いて、雨の跳ね返りで泥が付着するのを防ぐの。


 土には野菜の病原菌がたくさんいるから、泥がいっぱいついたままだとレタスが病気になっちゃう可能性があるんだって。


 もしも王子のレタスが病気になって、アタシのレタスにまで病気が広がったらどうすんのよ。


 王子のエリアにはそもそも生えている数が少ないので、そんなに時間はかからないだろう。


 時間がかかってもやるしかないけどね。


 いい加減な育て方をしているとはいえ、せっかく育てた作物が枯れたら王子も凹むだろうし。

 やる気をなくして仕事しなくなったらエミリアが嘆くだろうし(彼女は王子が好きみたい。変わってるよね)。


 アタシってマジ天使。


 暗いけど月明かりのおかげでなんとか見える。


 あー、早く終わらせて帰って寝よ。

 もちろんこのことはジード村長に報告して、王子の労働加点から減算させてもらうからねー。


 そんな事を考えながらもくもくと一人で作業をすすめた。


 そんな時、暗がりのどこかから声が聞こえた。


 「お前ら、俺の言うことが聞けねえのかっっ!!」


 「しかし……もう言われた通り、二度も盗んできたじゃないですか……」


 「足りねえ。あんなんじゃシノギとは言えねえ」


 なぬっ。


 盗むだのシノギだの、この村では聞きなれない不穏な言葉が耳に入った。


 声のする方向は……あっちの林?。

 アタシは作業を中断し、声のする方へ向かった。


 足音なんて当然立てないよ。

 ちょうどいい藪を見つけたアタシは、その陰にコソッと身を潜めた。


 「俺たちの仲間になったなら、しっかりやれや。風呂桶だの包丁だの、くだらねえものばかり盗んできやがって……舐めてんのか? あぁ?」


 「で、でもですよオズマさん。ここの村の人が困るでしょう」


 「何でもいいから盗んで来いって言われたから……」


 「てめえら、それでも罪人か? あぁ!?」


 「僕らは罪人ですが、決して犯罪を生業にしてきたわけじゃないんです」


 「知るかよんなこたぁ。ここまで来ちまったんだから、腹ぁくくれや」


 …………。


 ふむふむ。


 なるほどなるほど。


 アレはつまり、アタシと同じく島流しにあった罪人ね。

 どんなきっかけでネーフェに目をつけたか知らないけど、どうやら彼らはこの村で盗みを働いたらしい。


 しかも、オズマっていう男に無理やりやらされたっぽいなぁ。


 カタギかそうじゃないかは、匂いで分かる。


 アタシと同じ匂い……根っからの裏社会の人間は、あそこの集団の中ではオズマと呼ばれるいかついオッサンだけだ。


 察するに新しく島流しにあった人の、悪の新人研修ってとこね。


 「昨日はお店から砂糖や絹や、いくらか食糧を……」


 「だから、足りねぇって言ってんだ! ぶち殺すぞてめえ」


 「それに高価な銀細工や首飾りや腕輪も! これでもう充分でしょう」


 「あんなもん、この島じゃ何の役にも立たねえんだよ。お前よりもな」


 「ひぃっ、すいません……!」


 むむっ。


 デルフィネスさんのとこも被害に遭ったみたい。

 砂糖がたくさんあるところと言ったらエルドナートさんの甘味処?


 アタシの関わり合いになっているとこが次々やられてる。

 そして、もしかして今日もこれからやる気なの?


 「いいか、良く聞けよ! この村にゃあ阿呆みてえに強いヤツがいる。奴に見つかったら最後、命がねえと思え!」


 「そそ、そんなの危ないじゃないですか!」


 「だから、この村での盗みは今夜が最後にする。今夜、俺自ら出向いて根こそぎ持って行く! そうしなきゃこの罪人島じゃ、俺たちが生きられねえ」


 「……真面目に働けば、暮らせるのではないでしょうか? この村の人々は、島流しにあってもそうして生きているのでしょう?」


 「てめえ、新入りのくせにこの俺に説教すんのかっ!?」


 「ぐぁっ!!」


 あ、正論を言った人が殴られた。


 かなり痛そうで、立ち上がりはしたけれど鼻血がダラダラ流れてる。

 何だか、ちょっぴり可哀そうかも。

 何かの間違いで罪を犯したのだろうけど、あの人たぶんただの一般市民だよ。


 カッとなってやってしまった系よね。


 「俺ぁ生まれてこの方、働いたことなんざねえんだよ。盗むだけだ。だから、この島でもそうやって生きていく」


 「す、すみません……」


 「盗みに行くぞ。気合い入れてけよお前ら」


 「はい……」


 盗人集団はぞろぞろと村へと向かった。

 村人が寝静まった頃合いを見て、ネーフェで盗みを働くつもりなんだ!


 「待っ……!」


 待ちなさいと言おうと思ったけど、ふと思う。


 アタシはこの集団を止めるべきだろうか。


 別にアタシはネーフェの村人って訳じゃないし。

 今、たまたま厄介になってるだけだし。


 これからもずっとここにいるとは限らないし。


 それに、どっちかというと、アタシもあっちよりの人間だし……。


 「……」


 でもさ。


 なんかヤダ。


 この村の人たちが一生懸命作ったものを持って行かれるのは嫌だ。


 デルフィネスさんの作るアクセは超ダサいけど、いつも一生懸命だ。

 ゼスさんの作った絹がなくなったら、服だって作れない。

 甘味処から砂糖がなくなったら、休日の女子会がなくなっちゃう。

 酒場の開店が遅れたら、アタシのレタスが仕入れてもらえない。


 それに。


 それにだよ。


 あのオズマって言う人、キライかも。

 アタシと同類で、おんなじこと言ってるのに、キライかも。


 だけどアタシは誰かに盗みを強要したりしない。


 リスクも、リターンも、全部この体ひとつで請け負ってきた。


 手下を使って人様のものに手をつけたことは一度もない。


 おいしいところだけを独り占めしようとしたことなんて、一度もない!


 仁義を欠いてるよね、あのオズマって男は。


 そうと決まったら話は早い。


 「見ろよ。まずはこの畑のものを頂いちまおう」


 「……はい」


 「レタスか。へへへ、野菜不足だから助かるぜ……」


 「()ぁあああ〜〜〜〜〜てぇええええ〜〜〜〜〜っっっっ!!!」


 「な、何だぁっ!?」


 こともあろうにアタシの作ったレタスに目をつけたか。

 育ち切ってないから、まだ味が良くないよ。


 ってそうじゃなく、アタシのここまでの努力をそんな簡単に盗っていかれてたまるか!


 「アタシのレタスに手を出すなっっっ!! レタスだけじゃない、この村の物に手を出したら、タダじゃ置かないからねっっっ!!」


 「な、なんだ……ただの娘っ子か。あのバケモノかと思ったぜ……」


 「諦めてさっさと帰れっ……じゃダメだ! 昨日まで盗んだ分をキッチリ返してよっ!」


 「お、オズマさん……まずいですよ」


 「逃げましょう!」


 「なぁ〜にをビビってやがる、相手は子供じゃねえか!! やっちまえ!」


 「や、やっちまえって……女の子じゃないですか」


 「っと、そうだな。動けない程度に痛めつけて、攫っちまおう。チト色々と足りない体だが……この際しかたねえ」


 「何ぃ〜〜〜っ!」


 なんか今、すごくひどい事を言われた気がする。


 言っとくけど、アタシの体はこれから育つんだ。

 エミリアみたいな早熟型じゃなく、きっと大器晩成型なんだから!


 「攫うって……そんな事できませんよ。それに、痛めつけろだなんて」


 「できねえなら今、俺がお前を殺す。早くしねえかっっっ!!!」


 「ひっ、わ、分かりました」


 腰の引けた男たちが数人、アタシを取り囲んだ。


 手には何の手入れもされていない短剣がある。


 なるほどねー。


 ネクみたいな人がいないと、この島ではこんな武器を使わなくっちゃいけないんだ。

 対するアタシはナイフは所持しておらず、完全に手ぶらだった。


 だけど特に心配はしていない。

 徒手空拳でも、アタシは強い!



 「わわ、悪く思わないでくれ……! 命令なんだ」


 「……アンタたち。こんな島に流されて、こんな男の言うこと聞いて、それでいいの?」


 「何……」


 「やり直したいなら、最後のチャンスがもらえるかもよ。この村でなら」


 「ほ、本当なのか?」


 「でもさ、それはそれとして。村の物を盗んだことはキッチリ反省してもらうよっ!!!」


 「うわっ!?」


 懐に飛び込んで、みぞおちに肘鉄を一発。


 うずくまる男の人を飛び越え、今度は右ナナメっ!


 「ま、待ってくれ。我々の話を……」


 「そういや今日、エルドナートさんの店が閉まってた。アンタたちが砂糖を盗んだからっ!」


 「すまん、しかし……」


 「後でちゃんとお詫びして、返せっ! 分かったかっっ!!!!」


 「分かっ……ぐはっ!」


 胴回し回転蹴りが面白いように決まった。

 ちゃんと鼻を避け、大怪我にならないように気を使っている。

 カタギの衆に本気を出すほど、アタシは腐っちゃいないんだ。


 格闘技の手ほどきを受けたことはなく、戦い方はアタシの自己流だ。


 だけど、格闘というのはいかに自分の体を上手く操作するかという事。

 そしていかに人体を効率よく破壊するかという点に尽きると思う。


 長年の実戦経験の中で、アタシはそれを体得していた。


 「そこっ! アタシの作ったレタスを踏むなっっ!!」


 「は、はいっ! すみませんっ!」


 「あーもう、ここまで育てるのにどんだけ苦労したか分かってるっっ!?」


 「うあっ! 痛っ……!?」


 「レタスはもっと痛かったんだよ!」


 「ごめんなさい……! きゅう……」


 延髄に踵回しを一撃を貰い、一人はあっけなく気絶した。

 だから、レタスの上に倒れんなっつーの!


 全く……よいしょ、よいしょ。

 よし、これでOK。


 「な、なんだこの村ぁ……! あのバケモノしか、戦える奴はいねえって話だったのによぉ……!」


 「逃げましょう、オズマさん……」


 「ふざけんな。小娘ひとりに逃げるってのはどういう事だ!! お前も行けっ!!」


 アタシは大立ち回りを演じ続け、次々に盗人集団を殲滅していく。

 ……殲滅って言うほどのモノじゃないか。


 あからさまにビビってるし、武器を使う事すら躊躇っている。

 彼らを倒すのは畑仕事よりもよっぽど楽な仕事だった。


 気付けば、残ったのはオズマという男一人。


 「さぁさぁ、どうするの? 言っとくけど、アンタだけは手加減してあげないよ!」


 「んだとぉ?」


 「ついでに逃がす気もないからね。村に迷惑かけた罰として、ボッコボコにしてやるんだから!」


 「ちっ……!」


 「あ、待てっっっっ!!!」


 逃がさないって言ったのに、背を向けて逃げた。


 このアタシから走って逃げるだなんて無謀にも程がある。

 韋駄天パットちゃんの速さを見せてやる。


 と、その前に。


 「アンタたち! 悪いと思ってるなら、このまま村に行けっ! 村長を呼んでもらって謝って来〜〜いっっ!!」


 「わ、分かった……」


 アタシにノされた男たちに声を掛けておく。


 この人たちは、罪人であっても悪党ではない。

 戦いだって言うのに、アタシに刃を向けることをしなかった。

 戦い方すら知らない一般人なら、ジード村長だったら救ってくれるかもしれない。


 「縛り首とかに……なるのでは……」


 「なるもんか! それとも、あっちのオズマって男を追って、罪に塗れて生きる? 村に行って許しを乞う?」


 「……」


 「王子だけは怒らせないように気を遣うんだよっ! じゃーねッッッ!」


 「お、王子? ……待っ……!」


 これ以上遅れたらオズマという男を見失ってしまう。


 どうあっても、アイツにはオトシマエをつけてもらうからね。





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