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帝国を追放された第4王子、流刑地で無双しながらスローライフを送る  作者: 黒酢一杯
第二章 追放された王子はスローライフを送る
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第13話『ミツバチの蜜を盗もう』


 欲しい物が見つかったパットは、翌日からより一層働くようになった。

 ネクのナイフを手に入れるためなら2日間だけ働けば済む。

 ただし、パットは二刀流なので計4日間の労働が求められる。


 だから4日間の労働を地道にこなし、1日休みを挟んだ5日目の朝──。

 もしかしたらそろそろサボり出すんじゃないかと思ったが、しっかり来てる。


 「パット、来たのか」 


 「来たに決まってるでしょ。チケットを稼がなくちゃいけないんだから」


 「それは先週稼いだだろ」


 「……足りなくなった」


 「何でだよ」


 別に欲しいものないって言ってなかったか?


 「エミリアの友達の、リーゼって人? あの人に昨日、チケット4枚でスイーツ1ヶ月食べ放題のとこに連れてかれて……」


 「まさかお前やったのか」


 「だって……リーゼってすごい強引なんだもん! 美味しいから絶対後悔しないとか、あそこで食べなきゃネーフェに住む意味ないとか、一ヶ月好きなだけ食べれてお得だとか、ぶわーーって捲し立ててくんの」


 「すげー想像できた」


 「『甘味処 懺悔』っスね。あそこは俺も通ってるっス」


 「そんな店あったか?」

 

 「最近できたんス」


 名前がどうかと思うが、ネーフェの甘党をうならせる店が開店したらしい。

 『甘味処懺悔』、覚えておこう。


 つまりパットはリーゼに誘われたせいで、せっかく貯めたチケットを無駄に消費したらしい。

 このひねくれ者すら手玉にとるとは、リーゼのコミュ力は計り知れない。


 「でも良かったな。どうせ休みの日はゴロゴロしてるだけなんだろ?」


 「おかげで疲れた。ずーっとリーゼとエミリアと3人で『懺悔』でお喋りして、お持ち帰りのケーキを持って広場でまたお喋り。どんだけ喋ることあんのよ」


 「まさに女子会スね」


 「来週はランチ会だって。リーゼの手伝ってる酒場で、これからお昼にレストランを始めるんだって」

 

 「へー、どんどん普通の村っぽくなってきたな」


 搾取がなくなり、村の食糧に余裕が出てきたためだろう。

 また1つ、ネーフェに娯楽の場所が増えるらしい。


 「またチケットが無くなるっスね。となれば、今日も頑張って働くっス」


 「誘われても断わりゃいいだろ。そうすりゃ簡単に貯まる」


 「……だって、開店記念にすごく豪華なランチが食べられるんだよ。絶対行かなきゃ後悔するってリーゼが口すっぱくして言うんだもん」


 リーゼの側にいたら一生チケットは貯まらないな。


 今行かないと損するとか、今買わないと後悔するとか今だけおトクとか、巧みに人の心理をついてくる。

 

 そして、誰とでもすぐ仲良くなれるという固有スキルを持っている。

 この世界が人と人のつながりで出来ている以上、ある意味最強のスキル持ちと言えるだろう。

 

 おかげで、この斜な少女とも友達になったようだ。


 「さ、おしゃべりはここまでにして働くッス。今日も水やり、それから草むしりッス」


 「ところで。俺のチケットは」


 「王子のぶんはエミリアさんが持ってるッス」


 「何でだよ」


 「王子が昨日エミリアさんの作ったご飯も食べずに酒場に行ったから、今日からこういう事になったっス」


 「エミリア、怒ってたもんねー」


 「マジか……」


 俺が稼いだチケットはパットと同じく4枚。

 昨日あと一枚の我慢ができず、ついついチケット3枚の晩酌プランを楽しんでしまった。

 その軽率な行動がエミリアの信用を失ったらしい。


 こうして俺が酒場に行けるかどうかは、エミリアのさじ加減ひとつになってしまったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 信用を失う俺とは正反対に、パットの頑張りは日々続く。

 口には出さなくともリーゼたちと過ごした休日が楽しかったのだろう。


 スイーツは盗めたとしても楽しい女子会の時間は盗めないし、仕事を続ければ盗むまでもなく手に入る。


 今日はジードが行っているという養蜂の仕事を手伝いに来た。

 粉挽きの仕事を紹介した反省を活かし、パットには色々な仕事を経験させてみようと考えたらしい。


 当然俺も初めてであり、畑仕事よりマシだと思ったのでついてきた。


 「ジードって、村長以外の仕事してたのか……」


 「村長というのは役職であって労働ではありませぬゆえ」


 「ねー、養蜂って何?」


 「ミツバチの世話じゃ。そこらじゅうを飛び回ってるじゃろ」


 確かにこの辺を大量のミツバチがぶんぶん飛び回っている。

 もちろん俺たちは防護服を着ていて刺される心配はないが、何の装備もなくこのエリアに来るのは危ない。

 小さいくせに刺されると痛いし、なぜか不明だがまれに人が死ぬこともある。


 ちなみに俺に養蜂の経験はないが、知識としては知っていた。


 「この細長い木の箱はな、5つに分かれるようになっておる。中身はみっちり蜂の巣じゃ」


 「要するにミツバチが集めたハチミツを盗むんだろ。盗賊のパットに向いてる仕事だ」


 「なんかその言い方、ムカつくなぁ」


 「それは違いますぞ王子どの。確かに、ミツバチが集めたハチミツを頂くことに変わりはありませんが……」


 「違うのか?」


 「ミツバチはとても弱い生き物ですじゃ。スズメバチなど敵も多い。我々人間は、ミツバチが暮らしやすいよう環境を整えているのです」


 「例えばどんなことをするの?」


 「ミツバチが蜜を集めやすいよう、このあたり一帯に花を植えておる。スズメバチなどの巣を駆除する。病気が流行らぬように、毎日巣箱の点検をする。そうすることで、これだけ多くのミツバチが元気に暮らすことができるんじゃよ」


「ふーん……結構たいへんだね」


 「その報酬として、ミツバチの暮らしが壊れぬ程度にハチミツを頂いておる、というわけですじゃ」


 「なるほど」


 そういうことであれば、一概に搾取しているとも言えないか。

 ジードの管理のおかげでミツバチはこの地で繁栄を遂げる。


 それはひとつの国を運営することと変わらなかった。


 「このあたりの花はジードが植えたの? どーりでいっぱい咲いてるよね」


 「うむ。だが何でもかんでも植えるだけでは駄目なんじゃぞ。花の種類によってハチミツの味が変わるんじゃ」


 「わあ、なんだかそれって面白い」


 「思ったよりも奥が深くて面白そうだ。俺もやってみようかな」


 「アタシも!」


 「ええ、ええ。興味があるなら巣箱を譲ります。もちろん、パットのぶんもな」


 「やったー!」


 「それよりまずは、ハチミツを頂くとするかのう。箱は蜜蝋でくっついてしまっておるから、ナイフでゆっくり、巣を壊さんように切断していくんじゃ」


 「ナイフと言ったらアタシだよね。アタシが先にやる!」


 俺がやりたかったのに、張り切ったパットに先を越されてしまった。

 ナイフの扱いが得意というだけあって、箱の隙間にスイスイと苦もなく刃を通す。

 

 そうして分割された箱には蜂の巣がみっちりと詰まっていた。

 その蜂の巣には、溢れんばかりのハチミツだ。


 ……ついでに、逃げ遅れたミツバチの姿も。


 「ミツバチは傷つけんよう、慎重に払ってやってくれ」


 「うん。うじゃうじゃいるね」


 「ちょっとキモいな」


 「そう? ちょこちょこもぞもぞ、かわいいじゃん」


 「これが全部ゴキブリだと想像してみろ。ぶん投げたくなるだろ」


 「やめてよね! あ、ここの子はハチミツ吸ってる……」


 「ミツバチ自身もハチミツが好物じゃからのう」


 「なんだか悪い気がするよ。せっかくミツバチが一生懸命集めたのに」


 盗人だったくせに殊勝なことを言い出すパット。

 いや、盗人だったからこそか。

 あからさまに人間より弱く、小さな存在のミツバチ。

 そこからなにか奪うことにパットは罪悪感を感じている。

 

 「ミツバチとわしらは持ちつ持たれつで、共に生きておるんじゃよ。決して一方的に奪う関係ではない」


 「うん、それは分かったけど……」


 「その気持を忘れず、ありがたく頂くんじゃ」


 「ありがたく盗め。それでこそパットだ」


 「っ! ……っっっ!!!!」


 「せめて何か言ってから蹴れ!!」


 「こりゃパット! 暴力はいかん」


 「だって王子がムカつくことばっか言うんだもん!」


 「年に5分くらいしか真面目におれんだけで、決して悪気はないんじゃ」


 「いいから代われよパット。次は俺にやらせろ」


 「やだよ! 次のハチミツも私がやる! 王子がやったら巣がめちゃくちゃになってハチさんが困る!」


 「やれやれじゃのう……」


 ため息をつくジードをよそに、ギャーギャーと言い合い順番争いをした。

 こういう日々を繰り返しているうちに、少しずつパットは普通の女の子になれるんじゃないか。


 俺はなんとなくそんな風な希望を感じていた。


 だけど、そんな日々を繰り返していた矢先──。


 ジードのもとに不穏な知らせが入った。

 複数の村人の家から、物が盗まれたという話だった。


 真っ先に疑われたのは誰か、言うまでもない。






明日の更新は夜になります。

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