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第4話『想像以上の無法地帯』



 「あー……マジ、腹減ったなぁ……」


 何という事でしょう。


 王子という身でありながら流刑と言う憂き目に遭い、もうかれこれ4日。

 俺は星や太陽の位置をもとに方角を定め、道なき道を歩き続けていた。


 しかしどうやらここはかなり広い島のようで、すでにいくつもの山と谷を越えていた。

 空腹が過ぎて飢餓状態となった俺は、昨日から目につく食べられそうなものを何でも食べることにした。

 川魚はどうあがいても素手では獲れなかったし、罠を仕掛ける気力も道具もなかったので諦めた。


 昨日の昼は石をひっくり返したらヤモリがコンチニワしたのでそれを食べた。

 言うまでもなく、グニグニ、コリコリとした不快な食感はいつまでも尾を引いた。


 それでも空腹が収まらず、木の()()にいたコオロギを食べた。

 言うまでもなく外殻がカリっと硬く、中はトロリとクリーミー。

 尖った足が舌や頬の内側に突き刺さり、その不快な食感はいつまでも口の中に残った。

 それでもまだまだ空腹な俺は、川にいた大量のオタマジャクシをすくって食べた。

 このオタマジャクシが曲者で、コオロギよりもヤモリよりも激マズ、最低最悪な地獄の味だった。


 魚肉に近い味を期待した俺だが、口に入れた瞬間に察した。

 オタマジャクシの体はほとんどがハラワタでできており、つまり体中に糞が詰まっていると考えて良い。

 それでも何らかの栄養になると考え、吐き出したいのを我慢して必死に飲み込んだ。


 おかげで、今日もこうして惨めに生きながらえている。


 「クソぉ、見てろよ。俺は絶対に死なないからな……!」


 口をつく言葉は威勢のいいものだったが、正直言って気力も体力もそろそろ限界が近い。


 早く人里にたどり着き、何か食べ物を分けてもらわないといけない。


 ……つーか、犯罪者どもの集落にたどり着いたとして、そこの住人が快く食べ物を分け与えてくれるだろうか?

 その点においてはかなりの疑問を感じたが、深く考えないことにした。

 今は気力と体力が続く限り一歩でも前へ進もう。

 それとも最初の海辺に戻り、巻貝でも拾って食べた方がいいだろうか?


 しかし、戻るにしてもここへ来るまでと同じ時間がかかる訳だし……。


 あー、……ヤバ。

 栄養が足りなすぎて頭が回らない。

 回らないどころか、クラクラしてきた。

 まだ昼前だと言うのに視界も暗くなってきた気がする。

 自分の体が自分の体じゃないように重い。


 「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと休憩……!」


 ついに俺は、歩みを止めてその場に座り込んだ。

 座り込んだが最後、もう2度と立ち上がりたいとは思えないし、立ち上がれる気がしない。


 ……これ、マジでヤバいんじゃないか?

 帝国の第四王子として生まれた俺が、こんな森の中で野垂れ死んでしまうのか?


 残念ながら、このままだと俺の人生は本当にここまでなのかもしれない。


 何だか、幻聴まで聞こえてきた気がするし……。


 …………。


 ………。


 ……。


 ……いや、違う。


 「……っ……! ……だな……!」


 「っっ……っ……。……でしょう……!」


 「ひ、人だっっ!」



 向こうの藪の方から確かに人の声が聞こえる。

 しかも複数の……つまり、この近くに集落があるのだ。


 た、助かったぁ。


 「……っしゃあああああああああ! このゴミ犯罪者ども、今すぐ帝国のイケメン王子、フィーア・ラズヴァート様をレスキューする栄誉を与えてやるからなっっっ!!」


 現金なもので、助かると分かると急に元気が沸いてきた。

 我ながら不遜かつ無礼、そして頭の悪さ全開なセリフを吐きながら──俺は声のする方へと駆け出して行った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 「だからよぉ、えっへっへ。こんなんじゃあ交換できねぇよ」


 「話が違います! 村人が命がけで捕らえた猪の肉なんですよ!」


 「どう見ても少ねえし、この肉にこの麦と同じ価値は無ぇ」


 「そんな……!」


 声のする方角に辿り着いてみると……やはり、いた。

 最初に俺の目についたのは悪そうな顔をしたガタイのいいおっさんだった。

 うーん、いかにもザ・犯罪者って感じだな。


 そのおっさんと向かい合って言い争っているのは、俺とそう年も変わらなそうな女の子だった。

 ……彼女も、何かの罪を犯してここへ連れてこられたのだろうか。

 身なりからしてかなり貧しいようだが、顔立ちは善良そうでとても流刑になるような犯罪者には見えない。


 しかも善良そうなだけじゃなくとても可愛いらしい。

 あの可愛さは、帝都でもちょっと見たことがないレベルだ。


 「あなたたちが食べたいと言うから、無理して取って来てもらったんです。猪と対峙した人の中にはけが人もいます」


 「んなこたあ聞いてねーよ。半身の半身にも満たねぇ肉とじゃ交換できねぇって言ってるんだ」


 「私には重すぎて、これだけしか持って来れなかったんです」


 「いーや嘘だな。この程度で済むってハラだったんだろ? へっへっへ」


 「嘘じゃありません……」


 …………。


 状況がよく分からないが、つまり物々交換の最中か?

 女の子の足元にある、それなりに大きな肉片。

 それとおっさんが背負っている、大した量も入ってなさそうな麦袋。

 帝都の市場価値的に換算すると──どう見ても猪肉の方が価値が高い。


 端的に言って、いちゃもんをつけているように感じられた。


 「お願いします。村にはお腹を空かせた子供たちがいるんです。どうか交換に応じてください」


 「シシ肉を食わせたらいいじゃねぇか。どうせまだ余ってるんだろ?」


 「お肉だけでは栄養が偏ります。子供の成長には、たっぷりの穀物が必要なんです」


 「なら、耕せばいいじゃねえか。えっへっへ、俺たちみたいによぉ」


 「っっ! その畑はもともと私たちが苦労して開墾したものじゃありませんかっ!」


 「おーっと、今更文句は言いっこなしだぜ。村の長同士で話し合って決めたことなんだからな!」


 「くっ……!」


 女の子は、怒りからかその美しい顔を青ざめさせている。


 それはさておき、新たな情報その①。

 この島には子供もいるらしい。

 両親の罪の連座か、あるいは村ごとの連座も考えられる。

 そうなってしまう事例に思い当たる節がない事もないが、今は保留。


 そして新たな情報その②。

 女の子の村では畑を耕して暮らしていたが、何らかの交渉によって奪われたらしい。

 つまり、この島には無茶な交渉を成立させるヒエラルキーが存在する。

 もともとこの島で人々が仲良く暮らしているとは思っていなかったが、思ったより闇が深いかもしれない。


 「なぁエミリアちゃんよ。どうしてもっていうなら、その肉と麦と交換してやってもいいぜぇ?」


 「ほ、本当ですか?」


 「ああ。俺の言った通り、お前は一人でここへ来た。その素直さに免じてな……」


 「あ、ありがとうございます。では、こちらの猪肉をお持ちください」


 「ただし、ひとつだけ条件がある。ひっひっひ」


 「条件?」


 新たな情報その③。

 あの可愛い女の子の名前はエミリアという。

 彼女に似合った良い名前だと思う。


 しかし、何だか話の雲行きが怪しくなってきたように感じられるのは俺だけだろうか?


 「教えてください。条件とは一体何ですか?」


 「そりゃあ、ひとつしかねえだろ……こうするんだよっ!!!!」


 「きゃあああああっ!?」


 おぉっ、やはりそう来るか。

 小汚いおっさんがエミリアを組み伏せ、地面に押し倒してしまった。

 エミリアは抵抗するが、体格が違いすぎてどうにもならない。


 あっという間にびりびりとエミリアの衣服が破かれ、身に着けている下着が露になった。

 形のいい胸がはみ出し、思わず俺はつばを飲み込んだ。

 間違いなくエミリアは蜜壷亭のミナと同等か、それ以上に良いモノを持っている。


 「やめてください! 一体どういうつもりですかっ!?」


 「どうするもこうするも、分かってただろぉ? こんな人気のねえとこにノコノコ現れやがってよぉっ!?」


 「あ、あなたが来いって言ったからです! その汚い手を放してっっ!!」


 「へっへっへ。たとえ今ここで俺にヤられなくたって、いつかは無理やり誰かにヤられちまうんだ。この罪人島は、そういう場所なんだよっっ!!」


 「いやああああああああああああっ!!!」


 「大人しくしろ! さもなきゃ、お前をぶっ殺してから犯してやってもいいんだぜ……!」


 「ひぃっ……!?」


 エミリアは恐怖に顔を引きつらせ、抵抗をやめてしまった。

 それを見て取ったおっさんが悠々とズボンを下ろし、汚いケツがむき出しになった。


 全く、ここは想像以上の無法地帯だな。

 ……って俺は、この事態を藪の中からヒキガエルみたいに見ているだけなのか?


 正義の味方を気取るつもりはないが、さすがに女の子が手籠めにされるのを見過ごすほど堕ちてはいなかった。

 それに、この島の話を詳しく聞くなら悪党のおっさんよりもエミリアに聞いた方が楽しい。


 俺はそっと腰に手を当て、剣の柄をしっかりと手に馴染ませた。


 「お、お願い……許して……他の事なら何でもしますから……!」


 「だめだ。俺はエミリアを初めて見た時からなぁ、ずっと犯してやるって決めてたんだ。いいか、動くんじゃねえぞ……」


 「……そこまでだ。動くな」


 「あぁっ……!?」


 「えっ……?」


 おっさんの首にぴたりと剣先を当てた。

 ここまで藪を切るのにしか役に立たなかったが、この剣は王家特注のなかなかの業物だ。


 その切れ味を試すには、こんな小悪党ではもったいないほどに。


 「いいか。少しでも動いたら、その首たたっ斬る」


 「な、なんだてめぇ。一体何だってんだ……!」


 「はい残念、動いた」


 「あぁ? ……っぎゃああああああああああああああああああああああっっ!!」


 「きゃーーーーーっっ!!」


 「あ、ごめん。切れちゃった?」


 おっさんの右耳がボトリと落ちて、耳のあった場所から噴水みたいに血が噴き出した。




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