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帝国を追放された第4王子、流刑地で無双しながらスローライフを送る  作者: 黒酢一杯
第二章 追放された王子はスローライフを送る
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第8話『オオカミと少女』


 あー、ムカつくなぁ。あのババアたち……。


 ちょっと村に住まわせた程度の事を(しかも、村とも言えないようなキッタナイ場所に)、恩着せがましく言ってくれちゃって。


 だけど夜の森の空気は涼しく良い匂いがして、イライラを少しだけ落ち着かせてくれた。

 夜空にはきれいな星がまたたいていて、樹上には大きな満月が浮かんでいる。


 帝都ではこんなきれいな夜空は見られなかったなぁ。

 あそこの貧困街に住んでいた頃は夜空どころじゃなかった。


 勤労少女のアタシは毎晩盗みを働いていて、稼ぎを増やすことに躍起になっていたから。


 ちなみに一番楽な盗みは、スケベそうなオジサンに『売り』をもちかけ、隙を見て財布を奪って逃げるというものだった。


 クラウディアみたいに本当に『売る』だなんてバッカみたい。

 逃げ足の速さに自信があって、盗む気さえあればもっと簡単に楽に稼げるのだ。


 もちろん捕まった時のリスクは特大。

 黄色い鑑札(売春の許可証みたいなヤツね)も持たず、売春するフリをして金品を盗んでいたアタシの罪は重かった。


 他にも傷害とかいろいろ嫌疑が重なって、更生の余地なしとみなされこんな島に流されてしまった。


 あーあ、本当についてない。


 そして、これからどうしよう。


 ネーフェの村というところは前の村よりずっと住み心地が良かったけれど、みんな真面目で、すごく退屈。

 退屈しのぎの盗みをしてたらめちゃめちゃ怒られるし(ちゃんと遠慮してすごく高価なものは盗らないようにしてたのに、だ)、出てきたのは正解だと思う。


 もちろん、腕が落ちないように鍛えてたってのもある。

 アタシはこの島でも盗みで生きていくつもりなんだから。


 真面目に働けって言われたって、真面目に働いたことのないアタシにそれは無理がある。

 衣食住が提供されるのは魅力だけど、この島にはもっとアタシに向いた場所があるはずだ。


 罪人だらけの島って言うのは考えようによっては面白いし、もしかしたらそういう人がいるところに住んだ方が楽しいかもしれない。

 同じ犯罪者なら、アタシとも気が合いそうだよね。


 クラウディアたちはダメ。

 罪人のくせにいい人になろうとして、そんなの嘘っぽいし、馬鹿馬鹿しい。


 頃合いを見計らって女だけの盗賊団を設立しようと思っていたのに、なんだかそういう感じじゃないのがすぐに分かってとてもガッカリした。


 でも他にも似たような人たちはいるだろうし、アタシはそこで新しい仲間を見つけようと思っている。

 罪人島の女盗賊団って、何だか超カッコいいし。


 問題は人間がこの島のどこに存在していて、どうやってそこまでたどり着くかという事なんだけど……。


 ま、ここまで危険な事もなく何とかなったし、何とでもなるっしょ。


 アタシはこう見えて過酷な環境に慣れている。

 ご飯は何日も食べなくたって動けるし、不潔な状態も耐えられる。

 

 戦災孤児だったアタシは施設育ちで、幼少期のほとんどをそこで過ごした。

 環境はお世辞にも良いとは言えず、10人以上が同じ部屋に寝泊まりし、お風呂に入れるのは週に一回だけ。


 食事の量も十分じゃなく、回数も多くて1日2回。

 周りの大人たちは孤児に対して無関心で、一向に改善されることはなかった。


 そりゃ、どっかで何か盗んででも飢えをしのごうとするっての。


 って考えたら、アタシがこんな風になったのって国が悪くない?

 つまり、あの偉そうな王子にも責任があるはずだよね。


 ルアーだかなんだか知らないけど、あんなおもちゃを大切にしてる時点で大した人間じゃないって事よ。


 でも、私の友達にはフィーア王子のファンが多かったなぁ。

 みんな騙されてるけど、私は本物を見抜く女だからね。

 

 次に会った時は、あの王子の高価そうな剣を盗んでやろうかな……。

 アタシは今後の事に色々と思いを馳せながら、夜の森を闊歩した。


 そんな時。


 ふと目の前に、うごめく物体があった。


 「……グゥウルルル……」


 「……なぁんだ。オオカミかぁ」


 物ではなく、生き物だった。


 数は暗くて見にくいけど……4、いや5、か。

 血走った眼を見たところによれば、決して友好的干渉ではないことは確実。

 お腹を空かせて辺りを彷徨い、このアタシに目を付けたってトコか。


 アタシは腰から二本のナイフを取り出し、身構えた。


 「ウゥウウウウ……バウ、バウッ!!!」


 「あんまりお肉は美味しそうじゃないなぁ。でも、まいっか。この状況じゃ贅沢言ってらんないしね」


 「ガウッッッッ!!」


 一匹のオオカミがアタシに向かって突進してきた。


 甘い甘い。


 そんなスピードじゃあアタシを食べることはできないよ。

 こっちだって伊達に帝都のスラムで何年も暮らして来た訳じゃない。

 殺されそうな目にだって何度もあっている。


 アタシはこのナイフと盗みの腕で、今日まで独りで生き抜いてきたんだ!


 「グァッ……!」


 「さあ次ッ! この勝負、ワンちゃんたちには分が悪いと思うよ!」


 飛び掛かってきたオオカミの喉元をナイフで一閃。

 暗くったって、鍛えられたアタシの目は急所を見逃さない。


 どさっと地に落ちた仲間を見てもオオカミたちはひるまずに一斉に飛び掛かってきた

 どれだけ数が多くったって、ケモノの動きは単調で読みやすい。


 地面に転がって牙を避け、柔らかな腹部を切り裂いた。


 「あーもう、泥で服が汚れちゃったじゃん」


 「ウ、ウゥウウウウ……!」


 「ま、仕方ないね。肉のほかに毛皮も頂こうかな。誰かとなんかの取引に使えるっしょ〜!」

 

 「ガアアアアッッッ!!」


 「ハッ!」


 服の替えが無い今は、この一張羅を大事にしなくっちゃね。


 アタシはなるべく服を損耗しないよう──返り血も浴びないように、慎重な足運びでオオカミと戦った。


 戦いって言うか、ほとんど一方的にアタシが斬りつけてるだけだけど。

 オオカミごときがいくらいたって物の数にはならなかった。


 最後の一匹は、情けなく鳴き声を漏らして逃走。

 そうして、アタシの足元には計4匹のオオカミの死体が転がっていた。


 「終〜了〜! ん〜、やっぱりアタシって強いッ」


 腕が鈍っていないことに満足し、夜の森の中で高らかに叫んだ。


 さっきクラウディアに一発叩かれてたくせにって?


 あれはアタシも人の子だし、ちょっとは悪いと思ってたからもらってあげだだけ。

 正直、ここまで大人しく村で過ごしてたことに感謝して欲しいくらい。


 まあそんな昔の話は置いといて、さっさとこの戦利品を捌かなくてはいけない。


 とはいっても、こんなに一度に運べないよなぁ……。

 ひとまず、持てるぶんだけって事にしておこう。


 毛皮も大事だけど肉だけは多めに頂かなくっちゃ。

 味はともかく、今のアタシの貴重なたんぱく源になるはずだ。


 孤児院にいた頃は、お腹が空いたら虫だって食べてた。

 それに比べたら、どんな味でもずっとマシだと思う。


 「オオオオ……!!」


 「……るっさいなぁ。これだけやられて、まだやる気?」


 「ガゥオオオオオオァアッ!!!!!」


 「って、ちょっと……?!」


 またオオカミたちが戻って来たのかと思っていたら、全然違った。


 振り向いた先にいたのは……毛皮の塊。

 その生物は大きすぎて、オオカミの比じゃなかった。


 「ひ、ヒグマ……? 嘘でしょッ!!」


 目の前にはいつの間にか巨大なクマがいた。


 これってさ。


 ……かなりヤバいよね。


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