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帝国を追放された第4王子、流刑地で無双しながらスローライフを送る  作者: 黒酢一杯
第二章 追放された王子はスローライフを送る
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第6話『村のお酒が足りません。だから働いてください』


 ──突然だが、この村には酒場がある。


 それはこの島での数少ない文化的な? 娯楽であり、酒好きな人間の憩いの場である

 そしてここで酒を飲むには、実はあるものが必要となって来る。


 この島ではお金というものは存在しないが、それに近いものはある。

 村長であるジードのところへ村人がその日の活動報告をしに行くと、一枚のチケットをもらえる。


 村人はそのチケットを利用して、自分の欲しいものを手に入れているのだ。


 リーゼやエミリアのような若い女の子は、仕立て屋や銀細工職人から服や髪飾りなどと交換。

 ちなみに鍛冶師のネクのところではネクご自慢の武器と交換できるが、今のところ交換する村人はいないらしい。


 チケットを作りすぎてインフレが起こらないようジードはいつも頭を悩ませているが、その話はまた別の機会にするとして……。


 最初に述べた酒場でもこのチケットは必要になって来る。


 チケット1枚でおつまみと魚料理+お酒3杯のちょい飲みプラン。

 チケット3枚でおつまみと魚料理とサラダとピッツァ&お酒5杯の晩酌プラン。

 チケット5枚で肉料理付き8品のフルコースとお酒2時間飲み放題プラン。


 見ての通りこのシステムはややタチが悪く、ネーフェの酒好き人間を悩ませている。

 なんせ、1枚あれば飲むには飲めてしまう。

 しかしおおよそ1週間近く仕事を頑張らないと飲み放題はできないのだ。


 だから我慢が効く人間はチケットを5枚貯めて豪遊する。

 我慢できない人間は、ちょい飲みしながら飲み放題プランの人間を憎々しげにみつめている。


 酒作り職人のところで直接チケットを交換すればもっとたくさん飲めるが、そこは酒場の雰囲気というものがあるし、ここで出てくる酒のアテも美味い。


 そういう訳で、いつも酒場は賑わっている。


 ちなみに俺という人間だけは、このルールから逸脱している。

 村を救った英雄かつ帝国の王子である俺はいつでも食べ放題、飲み放題。


 いつ行ってもみんなちやほやしてくれるから居心地がいいし、毎晩ニッキを連れて足しげく通っていた。


 ……そんな幸せな日々が、唐突に終わりを告げてしまった。


 「な、何ぃ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」


 「ももも、申し訳ありませんのう。しかし、村の総意でして……」


 ある日の夜、ジードが気まずそうな顔をして俺の家へとやって来た。

 また罪人が悪いことでも企んでいるのかと思ったが……話はもっと悪かった。


 「どういうことだよ、この俺が酒場出禁っていうのは!」


 「出禁ではありません。少し控えて頂くようお願いに上がったんですじゃ」


 「控えるって、どれくらい?」


 「そうですな。10日にいっぺんくらいにして頂ければ助かります」


 「少なっ!!!」


 なんなら今日もこれから行こうと思っていたのに。

 それがいきなり10日に一度しか行けないとは、寝耳に水にもほどがある。


 「本当に申し訳ありませんのう。ただ、決して王子に来てほしくないという話ではないのです」


 「だったらなんで」


 「このままでは村から酒がなくなりそうなんですじゃ。王子の飲みっぷりがあまりにも豪快すぎるゆえ」


 「フィーアさまは少し飲み過ぎです。体の事を考えればちょうど良い機会だと思います」


 「エミリアまで……」


 いつもフォローをしてくれるエミリアも今回は厳しかった。

 最近の俺は「何だか今日は食欲がないなぁ」などと言って、エミリアの作る晩御飯を残すことが増えていた。

 本当は酒場で飲み食いするために胃袋のスペースを確保しておきたいからだ。

 そんな魂胆はしっかりバレており、俺は彼女のヘイトを地道に稼いでいた。


 ジードが言うには、酒を造るのには種類にもよるが時間がかかる。

 この村ではほとんどの酒をコツコツと酒造り職人が作っている。

 設備も人もしょぼいので、あまり量は作れないらしい。


 「でも俺、そんなに飲んだか?」


 「飲んでるっス。そりゃ王子があれだけ毎晩飲めばなくなるっスよ。こりゃ仕方ないっスね〜……」


 「お前も俺の連れで飲んでたじゃねーかよ!」


 「俺の分は俺のチケットで飲んでるっス」


 「それ寄こせ。そのチケットで飲んでくるから」


 「い、嫌っス。俺だって頑張って働いて貯めてるんスから!」


 「フィーアさま、それはニッキの日々の努力を台無しにすることですよ」


 「うむ。少し感心できませんのう」


 「むううう……!」


 なんで俺が真顔で説教されなくっちゃいけないんだ。

 軽くへこむじゃないか、畜生。


 「村の恩人である王子どののために酒の増産を考えておりますゆえ。今しばらくご辛抱くだされ」


 「はぁ〜、マジか。毎日の楽しみがいきなり10日にいっぺんかぁ〜……」


 「王子も働けばいいんスよ。そうすれば5日に一回は飲み放題ができるっス」


 「働くだぁ?」


 「そうっスよね、村長」


 「う、うむ……まあ、飲み放題とは言え2時間という制限もあるし、村人と同様の扱いで良いなら拒む謂れはないのう」


 「働くのは良い事ですね。きっとお酒の味も変わってきますよ」


 「きっとタダだと思うからガバガバ飲んじゃうんスよ。ありがたみが分かるっスよ」


 「う〜ん……」


 働かずして飲む酒が一番うまいと思っている俺が労働かぁ。

 しかしそうしなければ10日に一度しか酒場に通えない。

 働きさえすれば、それは半分のペースになる。


 「う、う〜ん……悩むなぁ。働くのは面倒だし」


 「わしも時々飲みますが、仕事のあとの自分へのご褒美の一杯は最高ですぞ」


 「そうなのか?」


 「うむ。それは間違いありません」


 「飲まないのが一番だとは思いますが……お仕事を頑張るのは良い事です。フィーアさまも経験してみてはどうでしょう」


 「ちょい飲みプランだったら毎日行けるっスよ。働きさえすれば……ッス」


 「ちっ……わーったよ。俺に何か村の仕事を紹介しろ」


 「分かりました」


 結局、こういうことになってしまったか。


 王族の俺が村人と共に汗水たらして労働とは、ラズヴァート家始まって以来の一大事だ。

 ご先祖さまに申し訳がたたないが、俺はなぜか肖像画のご先祖さまの顔を全く思い出せなかった。


 ……あ、ちゃんと見たことなかったわ。



 「ふふふ。フィーアさまがこの村で働くなんて、ちょっと面白いです」


 「俺は面白くない」


 「ではニッキ、王子どのを頼んだぞい。そういう訳で明日から一緒に畑仕事じゃ」


 「俺っスか!?」


 「他におらんじゃろうが。他の村人じゃ、王子どのが真面目に働くか監視しきれんわい」


 「ひどい言い草だな」


 「俺も監視しきれる自信ないんスけど……」


 「ふん。サボり切ってやるぜ」


 「こんなこと言ってるっスよ! チケット欲しいんじゃないんスか!?」


 「家でも一緒。仕事でも一緒って、本当に二人は仲良しですね」


 「王子どのがサボったぶんはニッキ、お前が頑張るんじゃ」


 「えええええ……」


 ニッキはかなり嫌がってるが、ジードなりに俺が働きやすいように考えてくれたんだろうな。

 その気遣いはありがたいが、家でも外でもコイツと一緒って鬱陶しすぎるな。


 明日からの日々を思い、俺はため息が出た。


 そのため息と同時に、家のドアがコンコンとノックされた。


 「ジード村長、いるかい……?」


 「む?」


 「クラウディアだよ。王子、ジード村長は来てないかい?」


 「来てるぜ。入ったらどうだ」


 セトの支配していた村から来た女、クラウディア。


 元・娼婦であるという彼女はすっかり村に溶け込み、真面目な働きぶりで村人の評判もいい。

 村の中で会うといつも明るい表情をしていて、この村の生活を楽しんでいるのがよく分かった。


 しかし、入ってきた彼女の顔は暗い。


 「こんな夜にごめんね。でも、緊急で話したいことがあるんだよ」


 「どうしたんじゃ?」


 「パティリッツァの奴が大変で……いや、とにかくすぐ教会に来て欲しいんだよ!」


 「む……分かった。では王子どの、今夜はこれで」


 ジードはクラウディアに連れられて家を出た。

 教会では、まだ家をもたない女たちが共同生活している。

 神父が常にいるわけではないので、俺とニッキよりは広くて快適なシェアハウス生活を送っていると予想。


 俺もこの家を出て、女だらけの教会に住もうかな。


 「何が起きたんだろうな」


 「さぁ……でも、パティリッツァの事を話してましたね」


 「ああ」


 「あの子、最近全然村の仕事をしてないんです。何があったんでしょうか……」


 「……俺たちも行ってみようか。野次馬根性だけど」


 「いいんスかね? めちゃくちゃ気にはなるっスけど」


 「確かに気になりますね。コッソリ行ってみましょうか?」


 「よーし、行こう!」


 平和な毎日の中じゃ、ちょっとした事件でも大事件。

 どんなことでも暇つぶしは大歓迎だった。


 刺激に飢えている俺たち若者3人は、コッソリと教会へ向かった。

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