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帝国を追放された第4王子、流刑地で無双しながらスローライフを送る  作者: 黒酢一杯
第二章 追放された王子はスローライフを送る
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第4話『帝国の王子、釣りにハマる』


 「平和だなー……」


 「そうっスねー……」


 ある日の俺とニッキは、川べりで惚けていた。


 今の季節は夏の一歩手前。

 やや(あつ)な日差しが水辺では少し冷まされる気がして、それがとても心地よかった。


 「村の仕事、手伝わなくていいんスかねー……」


 「いいだろ別に……おっ、釣れた釣れた」


 「オイカワっスね。これで王子が4匹、俺と並んだっス」


 ここは村の南にある『二の門』から少し離れた場所の、実績のある良い釣り場だ。


 ネーフェで過ごす毎日は、今では嘘みたいに平和だった。

 死に物狂いで戦ったのはほんのひと月前の出来事だが、今ではそれも夢幻の如くなり。


 罪人から解放された村人たちは一生懸命働き、村は活気に溢れている。


 新たな脅威が生まれる様子もなく、その予感もない。

 おかげで全くすることのない俺はニッキを連れ、今日も川で釣りをしていた。


 村の仕事は決して手伝わない。

 なぜならそんなのとても面倒くさいし、帝国王子のすることじゃない。


 真面目なニッキは毎日のように手伝いに励み、村人の好評を博している。

 その上がった評判を下げるべく、こうして釣りに誘った。


 言っとくが、決して寂しいからじゃないぞ。


 「来たっス! ……っしゃ、こいつはヤマメっス!」


 「ややレアモノだ。これで総ポイントはニッキが12ポイント。俺が6ポイント」


 「へっへっへ。きっと今日も俺の勝ちっスよ」


 「そうはさせるか。まだ勝負は始まったばかりだぜ!」


 「かかってるっスよ王子!」


 「おっしゃ。……って、これはハヤかな?」


 「タカハヤっスね。1ポイントっス」


 「そろそろイワナでもかからねーかなぁ」


 帝都にいた頃には全く興味のない娯楽だったが、釣りは奥が深く、面白かった。

 そして自分で釣った魚を料理してもらって食べるとこの上なく美味い。


 俺たちは食べて美味しいと思った順に高いポイントをつけ、その総ポイントで勝敗を決している。


 不思議と良く釣れる魚ほど大した味じゃなく、なかなか釣れない魚ほど味が良い。


 この川ではマスやヤマメやイワナ、オイカワやハヤ、フナやナマズが狙えた。


 ヤマメとイワナは風味が強く小骨も多いが、調理次第でとても上品な味になる。

 だから2ポイント。


 オイカワとハヤは淡白で、ほぼ同じ味。

 釣りに詳しいニッキが言うにはそもそも同じ魚で、珍しくもなんともない。

 よってどっちも1ポイント。


 フナやナマズは論外。

 そのまま素焼きで食おうものなら、臭くてとても飲み込めない。

 そのため、こいつらは0ポイント。


 一番おいしいと思ったのはマスで、これは3ポイント。


 まだ釣ったことはないが、この川にアユが遡上しはじめているらしく、もしも釣れたら5ポイントという事にした。


 もう少し上流に行くと大きな湖があって、そこではウグイが集団で泳いでいるのだが、ネーフェの漁師の邪魔になるので行かないことにした。


 ちなみにニッキ曰くウグイもオイカワもハヤも同じ魚らしいので、何が何だか俺にはもう分からない。


 「おっ、またかかった!」


 「フナっス。残念っスね」


 「っかー、この外道が。リリースだ」


 「こっちも来たっスよ! これは……うっほ、良型のサクラマスっス〜!」


 「むむむ……!」


 またポイントが開いた。

 都会っ子の俺と違って、田舎育ちのニッキはこうした遊びに慣れていた。

 

 それはこれまでの釣果が歴然と物語っていた。

 釣った数は同じくらいでも、釣った魚種によって差が開く。

 同じ竿で同じ餌なのに、どうしてもこうも差が出るものか。


 「ニッキ、竿を交換しろよ。そっちの竿、実は良い匂いとかさせてんじゃねーのか?」


 「どんな竿っスか!? これは腕の差っス。経験値の差っス」


 「クソ。今日こそ勝ってやるからな」


 「まだ釣るんスか? そろそろ戻った方が良くないっスか?」


 「なんでだよ。お前も俺も特に用事ねーだろ」


 「そうっスけど、みんな忙しそうっスから」


 「いいんだよ。たまには俺の相手しろ」


 「王子は家で一人でいるのが寂しいんっスね。かといって、俺以外に声を掛けられる人もいない……プッ」


 「火弾(ファイアボルト)ッッッッ!!」


 「危ないじゃないっスか!!! 今ちょっと掠ったっスよ!!!??」


 火球は川に着弾し、じゅうううと音を立てて鎮火した。

 もうちょっと真面目に狙えば良かったな。


 「ま、俺で良かったらいつでも付き合うっスけど。ただ、ちょっと村の手伝いが足りてるか気になっただけっス」


 「足りてるだろ。あの女ども、よく働くみたいだし」


 「そうみたいっスね……意外っス」


 クラウディアをはじめとして、セトの村から連れて来た女たちは非常によく働くと評判だった。


 彼女たちは、ジードができるだけ希望に沿い、村のいろんな職業の助手として配置されることになった。

 みんな、こちらから何も言わなくても仕事を見つけ、黙々とこなす。

 村の中で会えば礼儀正しく挨拶をする。


 おまけに、女狂いのセト選抜なだけあって美人ぞろい。


 性的虐待と言っても過言ではない扱いを受けていたことも知られているが、それもまた村人の同情を買い、汚らわしいとさげすむ人はいなかった(少なくとも表には決して出さなかった)。


 そしてその容姿のおかげで、特に村の男たちからの同情は強く──。


 何と言うか、辛い目に逢った女を慰めてやりたいとか、自分が守ってやりたいとか、そういう感情が美人だと余計に沸きやすいんだろうな。

 すでにカップルが成立したとか、求婚された女もいるとか、そんな気の早い話も聞いている。


 だから今のところ、ジードの救いの手は正しい事だったと言えそうだ。


 家があり、食べ物があり、仕事があり、恋人ができ、誰にも支配されることのない幸せな暮らしを彼女たちはこのネーフェで取り戻すことができたのだ。


 「しかし……なんか、全然釣れなくなってきたぞ」


 「王子が魔法なんかぶっ放すからっスよ。場所を変えてみるっスか?」


 「着弾したのは向こうだし、魚がここにいないってことはないだろ。餌をもっと別のにする」


 「テロスさんに作ってもらったルアーでアユ狙いとかどうっスか? 高ポイントっスよ」


 「アユか。どうやって釣るんだ」


 「アユには自分の縄張りってのがあるっス。気が強くって、他の魚が近づくと喧嘩になるんスよ。きれいで美味しい魚っスけど、その中身は王子みたいなもんっス」


 「余計な話はいい。それで、喧嘩になってどうなる?」


 「トモ釣りって言って、ぶつかってきたところに針が引っ掛かって釣れるんスよ。コツさえわかれば良く釣れるっス」


 「お前、本当に詳しいな」


 「オヤジに教わったんス。ガキの頃はよく連れてってもらいました」


 「……」


 「何スか?」


 「何でもない。テロス自慢のルアーをつけてみてくれ」


 「はいっス」


 何気なくオヤジの話が出たが、ニッキの口から聞くのは出会った時以来な気がする。

 コイツの心の傷も、少しずつ癒えているのかもしれないな。


 それは俺がこうして毎日構ってやってるからに違いないな、うんうん。


 「まだかニッキ」


 「あれ、おかしいっスね。忘れてきたかもしれないっス……」


 「忘れねーだろ。もらってからその釣り具箱の中に入れっぱなしだったんだから」


 「う〜ん、そのはずなんスけど……」


 先日テロスという漁師が『王子が最近釣りにハマっている』といううわさを聞きつけ、それはそれは見事なルアーを作成してくれた。

 それを使う前に無くしてしまったら、さすがにバツが悪すぎる。


 「もっとよく探せよ。絶対どっかに入ってるだろ」


 「いや〜、無いっスね……家まで戻って取ってくるっスか?」


 「そこまでしなくていい。後で探してみよう」


 「そうっスね」


 「フィーアさま〜! ニッキ、お昼御飯ですよ〜〜ッ!」


 「終〜〜了〜〜っっス! ってことは、今日も俺の勝ちっスね」


 「ちっ、エミリアめ……」


 「早く早く〜、美味しいスープが冷めますよ〜〜っ!」


 「分かったよ! 今行く!」


 今日もニッキごときに負けてしまったか。

 負けは仕方ないとしても、アユのトモ釣りもしてみたかったなぁ。

 明日こそニッキにきちんと教わろう。


 こんな風に、新たな趣味を見つけた俺の毎日はとても充実している。

 

 やっぱり世の中、平和が一番だ。


 ……ちなみに昼食を食べた後もルアーを探したが、どこからも出てこなかった。

 テロスに謝りに行ったら、ルアーは消耗品だし、もう一度作りますから大丈夫と笑顔で言ってくれた。


 残念ながら、トモ釣りは当分お預けだ。



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