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帝国を追放された第4王子、流刑地で無双しながらスローライフを送る  作者: 黒酢一杯
第二章 追放された王子はスローライフを送る
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第3話『帝都から来た女の子』


 こうして俺たちは、女たちを連れて故・セトの村を後にした。


 食糧は何度か往復しないと積み込めないほどの量があり、これは嬉しい誤算だった。


 畑には収穫が近い作物もあるし、村の男たちは毎日狩りや漁に勤しんでいる。

 奪い返した食糧と合わせ、実りの秋までじゅうぶんネーフェの村人の胃袋を満たすことができるだろう。


 しかし食糧問題は嬉しい誤算に終わったが、この女たちはただの誤算だった。

 もしかしたらジードはそういう決断をするかもしれない、とは思っていたけれど……

 まあ、大人しく暮らしてくれれば何も問題はない訳で。


 そんな俺の心持ちなどつゆ知らず、女たちは浮かれている。


 その高いテンションは、ハの門から村に入った時さらに爆上がりした。


 「さ、着いたぞい。ここが我らの村ネーフェじゃよ」


 「うわぁ〜……本当に、何もないところにこんな村を作ったのかい……?」


 「そうじゃが」


 「私には信じられないよ。まるでそっくりそのままどこかの村を持ってきたみたい!」


 「ふぉふぉふぉ、村人たちがよう頑張ったんじゃ」


 「みんな見てよ、ほら! まるで公園みたいな素敵な広場! 建っている家もとっても奇麗。通りには石畳が敷き詰められて、まるで本土に戻ってきたみたいじゃないか……」


 「感動屋さんじゃのう、クラウディアは」


 「こんなの感動するに決まってるよ! ねぇ、そうだよねみんな!」


 女たちは一様にウンウンと頷き、目を輝かせた。

 そして自分の住む村を褒められ、喜ばない村長はいない。

 ヒゲで隠れたジードの口元も皺だらけの目元もすっかり緩んでいた。


 「やっぱりここはセトの村とは全然違うね。それにとっても良い匂いがするよ」


 「そうかのう。別にワシはどうとも感じぬが……」


 「セトんとこは家畜のフンはほとんどそのままだし、人間の尿便もその辺にぶちまけてただろ。だから無臭のネーフェが良い匂いに感じられるんだ」


 「だって、その辺にぶちまけておけば豚が食べてキレイにしてくれるじゃないか」


 「なってなかっただろーが! 言っとくが、ネーフェでは絶対に同じ事すんなよな」


 「ネーフェではどう違うの? 用を足しても捨てないの?」


 「この村は水洗トイレだ。川から導水してるから、ヒモを引けば排泄物が流れてく」


 「家の外にウンチを流すなら同じじゃない?」


 「外じゃねーよ!」


 この村の暮らしで快適だなぁと思った事のひとつにトイレがあった。


 帝都では当たり前だったが、このネーフェでも水洗トイレが採用されている。

 防水加工を施した煉瓦を用い、座りながらとっても快適に用を足せる。

 川の水は飲み水としては適してなくても、トイレに利用する分には何の問題もない。


 流れていった汚水は配管を通り、川に流す前に村はずれに溜めておく。

 そのうわずみだけをネーフェのかなり下流に流し、沈殿物は分解させてから肥料として利用する。


 公衆衛生の観点からも理にかなっていて、実現したネーフェの村人には拍手を送りたい。

 俺はトイレだけは清潔じゃないと我慢ならないタチなので、これは大変助かった。


 「……という訳だ。どうだスゲーだろ」


 「……なんで王子様が偉そうな顔してるんだい? 作ったのは村人で、別に王子様の手柄じゃないだろう?」


 「うるさい」


 ジト目で王子の俺を睨むクラウディア。

 さすがセトの愛人だっただけあって、なかなか肝が据わっている。


 「でも、そう聞くとオシッコするのも楽しみになってきちゃった」


 「見ててやるから今ここでしていいぞ。あいさつ代わりに一発かましてやれ」


 「それじゃただのキチガイじゃないか! 敵の情婦(イロ)だったからって見下してんじゃないよ!」


 「あまり王子どのの話を真に受けん方が良いぞい。髪の毛がいくつあっても足りんからのう」


 「どうやらそのようだね。正直、私はまだこの人が王子ってのを疑ってるよ。だいたい王子が何でこんな島にいるんだい?」


 「るせーな。後でジードに聞いとけ」


 童話に出てくる白馬に乗った王子様と勘違いされては困る。

 歴史を紐解けば王子なんてのはたいてい根性がねじ曲がっており、俺のような美しい性分の王子は希少だと知るだろう。


 「ま、その辺の話はおいおいじゃ。それより、お主たちの寝泊まりする場所へ案内しよう。空いている建物は村の教会しかないが、しばらくはそこで辛抱しておくれ」


 「どこでもいいよ。この村に住めるなら」


 「いずれはお主たちの働ける場所も探そう。パン職人に仕立て屋、銀細工職人に彫金職人、機織り職人、農家に漁師に大工、酒場での働き手も欲しいしの」


 「鍛冶師の手伝いは募集しないのか?」


 「ふぉっふぉっふぉ。ネクに人を使うのは無理でしょうな」


 「確かに」


 「という訳じゃ。お主ら、ひとつこの村の一員として頑張ってくれんかのう」


 「……聞いたかいみんな。私たち、ようやく人間らしい暮らしができるんだよ!」


 えいえいおー! と女たちが拳を突き上げる。


 これだけやる気に満ち溢れていれば、この村に溶け込むことも不可能じゃないだろう

 実際にネーフェの村はとても暮らしやすいし、退屈することはあっても幻滅することはないはずだ。


 だが、一人だけその輪に加わらない女がいた。


 その女の事は、実は初めから気になっていた。

 ここに来るまでの間も、ほとんど無表情。

 セトにひどい目に逢わされて心を閉ざしてるのかと思ったが、何だかそういう感じでもない。


 憧れのネーフェへの移住にも、あんまり関心を持っていないように見えた。

 よせばいいのに、俺は何となく話しかけてしまった。


 「なあ、お前」


 「……アタシ?」


 「名は何て言う」


 「パティリッツァ。パットでいいよ」


 「ファミリーネームは?」


 「知らない」


 「……あっそ」


 話しかければ、ちゃんと受け答えはする。

 他人を拒絶しているって訳ではないようだ。

 ただし、愛想は全然良くない。


 そうして俺とパティリッツァが話しているのに、ジードとクラウディアも気付く。


 「なんだい、王子様はその子がお気に入りかい?」


 「そういう訳じゃない。あんまりにも若いから、少し不思議に思っただけだ」


 「まーね。アタシ、まだ15だし」


 「じゅ、じゅうご……お主、そんな年でこの島へ流されて来たんかい……」


 「何? 詮索しないって話でしょ? 村長が言い出しっぺだよ」


 「い、いや。詮索したつもりは無かったんじゃが……」


 「パット、やめな! 村長、この子はまだここに来たばかりで荒んでるんだ。許してあげて」


 「ほほう。そうか、そうか」


 クラウディアがすかさずフォローする。

 パットの態度に面食らったジードも気を取り直し、気にしない素振りを見せる。

 さすがの大人の対応だ。


 「パットはここへと来たばかりか。それは大変じゃったのう……」


 「しかも、ほんの数日前にね。セトたちに弄ばれなかったのはラッキーだったと思うよ」


 「うむ、それは何よりじゃな」


 「パットのその恰好。帝都から来たんだろ」


 「ん? そうだけど」


 「よく分かりますのう」


 「今の帝都の流行だからな」


 「ふ〜ん、こんなのが帝都でねぇ……私にはよく分からないよ!」


 女子だからと言ってスカートを履くというのは遅れていて、今の帝都ではレギンス女子が増えている。

 大胆に下半身のシルエットを露出し、上半身は優美な飾り付きのブラウスを合わせるのが主流だ。


 はしたないと顔をしかめる年配女子もいるが、お尻の形がよく分かるので男からすると大変喜ばしい流行と言えるだろう。


 パットの出で立ちは、まさに帝都の流行の最先端だった。


 「あとで帝都の話でもしようぜ。俺もこの間まで住んでたんだ」


 「王子様の事、知ってるよ。『麗しき蜜壷亭』で衛兵に引きずられていったの見てた。その場でお父さんに勘当されてたよね」


 「ぷっ……あっーーーーーーはっはっは! 王子様、そんなことがあったのかい?」


 「ほほぉ〜、こりゃ面白い話じゃのう! ふぉっふぉっふぉ!!」


 「お前ら笑いすぎ」


 パットの奴、あの時の哀れな俺を見てたのか。

 帝都と言っても広いはずなのに、まさか行動範囲まで被っているとは。

 コミュニケーションを図ろうと思って話しかけたのに、早速後悔した。


 「つーかお前、15で盛り場に通うんじゃねーよ」


 「アタシはフツーにご飯食べてただけ」


 「ああそうかい」


 「思い出したらお腹空いた。何か食べたい。それと、早く休ませて」


 「う、うむ」


 「パット! ごめんね、ジード村長」


 「良い良い。では行こう」


 たしなめられてもどこ吹く風。

 これが世に言うイマドキ女子という奴だろうか?


 このパティリッツァという少女がこの村に馴染む姿は、どうにも想像がつかなかった。


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