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帝国を追放された第4王子、流刑地で無双しながらスローライフを送る  作者: 黒酢一杯
第二章 追放された王子はスローライフを送る
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第1話『食糧を取りに行こう』


 かくしてセトは滅び、ネーフェの村を苦しめていた存在は瓦解した。


 今回の戦争は俺の油断もあったし、向こうの策略もあったし本当にキツかった。

 俺自身のダメージで言うと、地面に叩きつけられた時に全身を打撲し、剣で腹部への刺し傷を受けた。


 その上ボコられた挙句、奥歯が一本折れた。


 ネクは敵の弓矢で全身傷だらけになったが、村人の懸命な治療で一命をとりとめた。


 そして戦いの日から5日間、俺は生死の境を彷徨う羽目になる。

 それはセトにやられた傷が原因ではなかった(それもあるとは思うが)。


 神獣を召喚した者は、何がしかの犠牲を払う。


 はっきりとは分からないが、今回俺が犠牲にしたのはおそらく『生命力』だ。

 生命力──体が生きようとする力、回復しようとする力を神獣が奪い、糧としているのではないかと思った。


 そう考えれば戦いの日の晩から原因不明の高熱が出て、すぐに治るはずの傷の治りが異常に遅いのも納得がいく。

 視覚や聴覚を奪われるよりもずっとマシだが、元来健康の塊であり、病気慣れしていない俺には大変な苦痛だった。

 もしかしたらセトとの戦闘よりもつらかったかもしれない。


 そんな俺を、エミリアがつきっきりで介抱してくれた。


 「どうしよう……フィーアさまの熱、まだ下がらないわ……」


 「エミ、リア……大丈夫だ……」


 「フィーアさま、今タオルを冷たいものに替えますから」


 「……あり、がとう……それより、尿瓶……」


 「はい、今やります」


 「……自分でや、る……」


 「いいえ、病人なんだから寝ていてください。大丈夫です、もう慣れましたから」


 「なら、任せる……」


 「王子様〜っ! そろそろ良くなった?」


 「きゃっ、リーゼ! 急に来ないでください!」


 「何よ、じゃあそろ〜り来ればいいっての?」


 「屁理屈はやめてください。それと、王子はまだ熱が高いんです。大きな声を出してはいけませんよ」


 「……まだ? だいぶムリしたんだね。村のために本当にありがとう。王子様……」


 「気に、するな……」


 「エミリアはもう休んでなよ。今度は私がそばで介抱してあげる」


 「まぁ! どうしてリーゼが勝手に決めるんですか!」


 「だってエミリア、全然休んでないじゃん。ムリしたら今度はエミリアが具合悪くなっちゃうよ」


 「別にこれくらい平気です。フィーアさまの看病は私に任せて下さい」


 「王子様だって、毎日エミリアの顔見てたら飽きるでしょ? いっつもカレーばっかじゃ飽きるしさ〜」


 「失礼ですね、人の顔をカレーと比べるだなんて!」


 「ただのモノの例えでしょ〜! ねぇー、いーじゃーん! 私だって王子様の看病したーい!」


 「結局リーゼはそれが目的なんでしょう? この役目は誰にも譲りません!」


 「エミリアだけずるいって言ってんの! それなら王子様に聞いてみようよ!」


 「そうですね。私が看病した方が良いと言うに決まってますからね!」


 「そんなことないよね。リーゼちゃんが添い寝してあげるから、私に看病させるって言ってよ王子様〜」


 「……お前、ら……」


 「おっ、喋った」


 「どっちですか? 私ですか? リーゼですか!?」


 「……二人ともうるさいから、向こう、行け……」


 …………。


 ……高熱ではっきり覚えていないが、こんな風なやりとりをした気がする。


 その後もどっちが着替えをさせるだの、いつ汗を拭くだの、ご飯はパンかお粥かパン粥かだの、くだらない喧嘩を何度もしていた。


 まぁ……心配してもらえないよりはずっと良く、そうした手厚い看護も俺の命を繋いでくれたに違いない。

 

 神獣がいつまでもちゅーちゅーと生命力を吸っているのに飽きたのか、これで代償が済んだのかは分からないが、瀕死状態が5日ほど続いたのちにようやく熱も下がり、体力の回復をしっかりと感じられるようになった。


 俺の回復を確信したエミリアは飛び上がって喜び、ニッキは男泣きをし、リーゼはまだ看病し足りないと不満げな顔をした(オイ)。


 そして戦いの後始末に追われていたジードが村の幹部を連れて俺の家へ現れたのは、戦いが終わってから6日目の朝の事だった。


 「ようジード。久しぶりだな」


 「王子どの……お体の方はどうですじゃ?」


 「すっかりいい」


 「王子どのの活躍はネーフェの村人たちの間でいつまでも語り継がれる事でしょう。心からの感謝にたえません」


 「あなたは、我らの救い主です。英雄です。神が遣わして下すった正義の使者です!!」


 「ありがたやありがたや……!」


 「どうか今後とも、愚かな私たちを導いてください!」


 「フッフッフ。任せとけ任せとけ」


 いやあ、いい事をした後ってのは気分が良いな。

 全員が俺に向かって頭を下げ、数珠を握って拝んでいる年寄りもいる。

 正直言っていくら感謝されても足りないほど苦しめられたが、相手がネーフェの村じゃ何を要求しても何も出てこないし、これで満足するほかない。


 「村の方はどうなった? 死体の片づけ、大変だっただろ」


 「えぇ、まぁ。しかし全ての遺体は火葬し、弔わせていただきましたゆえ」


 「スゲー臭かった日があったもんな。ありゃ死体を燃やす匂いか」


 「村の建物がいくつか壊れもしましたが、活気の戻った住民たちによる修復が進んでおります」


 「ああ、それは悪かったな」


 「王子どのが召喚したあの巨大な騎士……神獣、というのですか? あれが剣を振るった痕は、悪への戒めとして残しておこうかと思います」


 「ふーん。ま、好きにしてくれ」


 「魔法を使えるだけではなく、あのような神の遣いを呼び出せるとは……まっこと驚きですわい。長生きはしてみるもんじゃて。ふぉっふぉっふぉ」


 「残党はどうだ? 村を襲ったりしてはいないな?」


 「ええ、ですのう。セトの村のものは全員王子どのがうち滅ぼしたようじゃし」


 「そいつは何よりだ」


 万が一にもセトの残党には残っていて欲しくなかったが、どうやらあれで本当に全部だったらしい。

 それも俺が回復した今は何も問題なく、リベンジマッチに来たら返り討ちにしてやるだけだ。


 「王子どのが休まれていた間は、全くもって平和でした。ご心配をおかけして申し訳ありませんのう」


 「まだ心配はある。村の食糧はどうなった?」


 「むぅ……そのことなんですが」


 「無いんだろ。セトに全部貯えを焼かれちまったもんな」


 「はい。当初の予定では、戦いの終わった後にセトの村に赴き、食料を確保する予定でしたが……」


 「まあ、無理ないか。罪人がもしも残ってたらって思うと、行く気にならないのは分かる」


 「そうなのですじゃ。村の男どもを引き連れて向かうつもりではいますが、やはり王子どのにご同道していただくのが良いという話になりまして……」


 「いいぜ。今から行ってみよう」


 「い、今からですか? それはしかしあまりにも……」


 「何か都合が悪いのかよ」


 「い、いえ。ワシらは特に問題ありません。しかし王子どのの体力が心配です」


 「問題ねーよ。ゆっくり休ませてもらったおかげですっかり回復した」


 「だ、ダメですフィーアさま! ようやく熱が下がったばかりなのに、そんなのお体に障るに決まってます!」


 「エミリア、いたのか」


 「もうっ! 私は最初からいました!」


 同席していたエミリアはぷりぷりと怒る。

 その気持ちは嬉しいのだが、村の現状を考えるとそうも言ってられない。


 「おじいさまも副村長たちも! 一体どこまでフィーアさまひとりに負担をかければ気が済むのですか! 恥を知ってください!!!!!」


 「し、しかしのうエミリア。セトの配下は滅んでも、その仲間たちはまだまだおる……あの戦でも村に来たじゃろう?」


 「ダメと言ったらダメです! そんなのおかしいです! フィーアさまが見せてくれた勇気を私たちは見習って、食糧はネーフェの村人たちが取りに行くべきです!」


 「エミリア、無茶言うなよ。セトが死んでも罪人の脅威がなくなった訳じゃないんだ」


 「だって、もしもまた戦いになったらどうするんですか!? もう、苦しむフィーアさまを見るのは私は嫌なんです……!」


 「……エミリア」


 「ふぇっ!? ふわぁ……」


 その頭をぽんぽんと撫でる。

 キーキー怒鳴っていたエミリアは、それだけで顔を赤くして固まってしまった

 そんなつもりもなかったが、彼女は頭を撫でられるのに弱いようだ。


 「戦いになったら、必ず勝つ。こないだ見たばかりだろ?」


 「は、はい。でも……」


 「セトの野郎はデタラメに強くて卑怯だった。それでも勝った。俺は、誰よりも強い」


 「わわ、わかります。それは分かりますけど……」


 「エミリアの看病のおかげですっかり良くなった。罪人村まで歩いていくくらいなんでもない」


 「……でも」


 「あそこに食い物が残ってても、持て余して腐らすだけだ。村人が食いきれないくらいの食糧を取ってくるから、大人しく待ってろ。な?」


 「……はい」


 「ふぅ〜、決まりじゃのう」


 話せばわかる、エミリアは本当にいい子だ。

 さすがこの5日間、動けない俺のちんちんを嫌な顔一つせず尿瓶に突っ込んでくれただけはある。

 そのうち約束通り、俺がエミリアに突っ込ん……いや、とりあえず今はやめておこう。


 「この村に食糧の猶予はない。人を集めてすぐに行くぞ、ジード」


 「まこと、何から何まで申し訳ありません……」


 「どうってことねーよ。そもそもあの村はもう無人になってるから、心配無用……」


 「王子どの?」


 「あ」


 「フィーアさま?」


 「……忘れてた。まだまだ10人以上はいるかもなぁ」


 「えぇっ!? じゃあやっぱり危険です!」


 「いや、ぜんぜん危険はないんだが……」


 「危険はない……本当ですか?」


 セトは戦えるものを連れて来はしたが、罪人村にはそうでない人間もいた。

 もしも逃げ出してなければ、あそこには女がたくさんいるはずだ。


 意のままに男たちに奉仕させられた、哀れな女たちが。


 「ジード、村長として今から考えとけよ。不幸な人間をさらなる不幸に叩き落すかどうか」


 「どういうことですかのう?」


 「行けばわかる。エミリア、俺の剣を」


 「はい」


 「ふぅむ、何のことやら」


 ジード次第では、食糧以外にもやっかいなものを村に持ち帰ることになる。

 この人の良い村長は、徹底して村の秩序を尊重するだろうか、それとも……。


 「王子どの、なぜさっきからワシを見つめとるのですかな?」


 「眩しいんだよハゲ。こっち見んな」


 「ふぉーーーっふぉっふぉ! 本当に元気になりましたのぉ王子ぃっ!!」


 どうなる事か、今は全く分からないのであった。


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