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第3話『辺境からの手紙』


……拝啓、父上様。


そして三人のお兄様方。

俺ことフィーア・ラズヴァートがこの罪人島へやってきて早くも3日が過ぎました。

皆様いかがお過ごしでしょうか?


俺は罪人島という名前と、父上様のお話から犯罪者で賑わうカオスを想像しましたが、決してそんな事はありません。

むしろ逆です。


ここは非常に寂しい島です。

なんせ、この3日間というもの一人の人間にも会っていません(笑)


転移石によって飛ばされた俺は、気づけば美しい砂浜に放り出されていました。

遠くからはうみねこのなく声が聞こえます。

あとはさらさらと吹く爽やかな風の音、寄せては引く波の音。


まかりまちがって近くを漁船が通りかかったら救助を求めようと半日ほどその砂浜で過ごしました。

んが、当然そんな幸運は起こりませんでした(笑)


そのうち俺は耐え難い喉の乾きを覚えたので、砂浜に流れ着いていたヤシの実を割って飲むことにしました。

この島のヤシの実ジュースはとてもおすすめです。


なんせ、この暑さで全部が全部めちゃくちゃに腐ってましたから。

おかげでひどい下痢をしてしまい、おまけに尻を拭く紙もありません。


仕方なくフルチンで海に入り、海水でケツを洗いました。

餌を求めて肛門に魚がよって来たときの気持ち、理解できるでしょうか?

ぜひともグルメなモノ兄貴様にたらふく飲んでいただきたいものです。


さて、下痢の収まった俺はここで救助を待つというプランを諦め、いったん島の内部を探索することにしました。

喉の乾きだけではなく、猛烈な空腹を感じたからです。


罪人たちは島民としておそらく漁や狩り、あるいは田畑を耕してほのぼのスローライフを送っているはず。


ま、要するに人のいるところにいけば食いもんがある、と思ったわけで。

だから俺は体力のあるうちに移動しようと考え、森の中に入って行きました。


しかし今思うと、この考えは少し間違っていたような気がします。


海岸沿いに歩いたほうが、いつしか漁村的な囚人の集落にたどり着いたのではないでしょうか?

その時の俺は真水の確保が急務だと考え、緑が深く、水源がありそうな方を優先したというわけです。


嬉しいことに、真水の流れる小川はすぐに見つかりました。

俺は喜び勇んで顔を突っ込み、泥で濁った川の水をたらふく飲みました。


そのドブ臭い味と言ったら、格別です。

父上様の口臭と全く同じ腐臭がした、といえばわかりやすいですか?

敬愛する父上を思い出した俺は、危うくむせび泣くところでした。


とはいえ、水は水。

そして水の流れるところに人あり。

この川を辿っていけばきっと人の住む集落が見つかることでしょう。


そう思って歩き続け、いつしか3日間という月日が流れました。

俺は、まだ誰とも会ってません。

この島の正確な広さも場所もまだわかりませんが、植物を見る限りルネッサ地方と推測します。


ルネッサ地方であるとすれば、おそらくトゥールーズ諸島の中のどれかでしょう。

流刑地に明るくないのが悔やまれますが、ずいぶん俺の居た帝都からは遠いですね。

絶対もっと近い流刑地あったでしょ(爆)


ま、それはさておき。

俺はまだここでまともな食料も得ていません。


今の所この島で口にしたのは渋くてエグい木の実、川で捕まえた小さなカニ、そして水だけです。


カニなら美味いんじゃないか、と思うかもしれませんが決してそんな事はありません。

生で食べるカニの肉はドロドロしていて生臭く、それでいて旨味のようなものも感じません。


真水に住むカニだから、寄生虫も心配です。

俺は炎系魔法が得意な方ですが、体力が無くなりすぎてマッチ棒ほどの火も出ませんでした。


トロイス兄貴は、カニを生で食べたことはありますか?

いつか必ずごちそうする機会を作ってあげますから、楽しみにしていてくださいね。


そうそう。

まだ人間には会っていないけど、この島には動物がたくさんいるようです。

俺は気配に敏感だから分かったのですが、昨日くらいから四足獣が静かに俺の後をつけてきています。

他にもギャアギャアうるさい鳥が上空を舞っています。


襲ってきたら返り討ちにして食料にしようと思っているのですが、賢い獣のようでむやみには襲ってきません。

おそらく、俺が力尽きて動けなくなるのを待っているのでしょう。


ドゥーエ兄貴は動物が好きでしたね。

今ここにいるのが俺じゃなくドゥーエ兄貴だったらと思うと本当に残念でなりません。


と、まあ長くなりましたが、ここまでの俺の暮らしぶり(この状況を『暮らし』と言えるかは不明ですが)は以上。


帝都にいた頃は当たり前のように旨い酒を飲み、当たり前のように旨い飯を食い、当たり前のように女を抱いてきた俺ですが、ここに来るとその全てが当たり前ではなかったという事実に気付かされました。

代わりに残りの生涯をこの島で暮らすという代償を支払うことになりましたが、良い学びになりました。


こんな素晴らしい環境に送り込んで頂いたことには、本当に感謝しないといけませんね。


俺は何年かかっても、必ず父上様と兄貴たちにお礼したいと思ってます。


幸いにもポケットにブランデーの小瓶、そして本当なら来週行く予定の風俗店の割引チラシがありました。

見ればわかると思いますが、ペンがなかったので木のトゲと自分の血で書いてます(爆)

どうしても俺の気持ちを伝えたかったので。


この瓶は海に流します。

皆様のもとに届く可能性は万に一つもないでしょうが、今は万に一つの可能性に賭けてみようと思います。


それくらいの強運がないと、俺が皆さんに復讐を果たすことなどできないでしょうから。


いつか必ずお礼します。

皆様をこの島に招待し、俺と同じ目にあわせて差し上げます。


なあ、おい。


いいか、このクソッタレども。

絶対に、絶対に、絶対に絶対に俺はやってやるからな────。



                  ヴァート・ウルガン帝国第四王子 フィーア・ラズヴァート



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