第24話『標的は女の子』
東にある『ロの門』へと駆ける。
セトが他の罪人村の人間にまで声を掛けるとは想定していなかった。
無関係の人間にとって、この戦いは大してメリットがないはずだからだ。
なら、なぜ彼らはセトの誘いに乗ったのか。
セトが怖いからただただ命令にしたがった?
それもあるだろうが、おそらくは物資の略奪や女子供の誘拐──いわゆる『乱取り』が目的と考えるのが一番しっくりとくる。
俺がいる限り、そんなことをさせてたまるかよ。
この村の酒も可愛い女の子も、すべては俺のものなんだ!
っと、それよりもまずはニッキに連絡をしておかなければ。
この日のために用意した、ちょっとした細工が今は役に立つ。
俺はその辺の道端に捨て置かれている──かのような、ブリキの缶を手に取った。
「ニッキ、見張り台のニッキ! 聞こえるか!」
『……あ、はい、王子。聞こえるっス! 無事っスか!』
「悪いが、この通信が終わったらすぐに北の『イの門』を閉じてくれ。あそこでの戦いは済んだ。20人は殺ってやった!」
『うわ〜、マジで離れた場所にいるはずの王子の声がめっちゃ良く聞こえるっスよ! 何スかね、まるで魔法っスよ魔法〜!』
「このクソバカ! はしゃぐのは後にしろ」
『す、すみませんっス』
このブリキの缶はネクに作らせた針金のような糸で繋がっている。
しっかりと張っていれば距離は関係なくはっきりとクリアに聞こえる。
つなぎ方を工夫すれば二方向だけじゃなく、三方向、四方向と、離れた場所にいる様々な方角の人間と会話をすることができる。
正式名称は共通語でティン・キャン・テレフォンと言ったか。
子供の遊びにも使われるが、ここでは非常に役に立つ簡易式通信機だ。
ニッキには俺の目になってもらうことで、遠い場所で起きることも把握できるし、簡単な命令もこなしてもらうことができる。
「ロの門の方角から敵が来てるんだろう? 数はどれくらいだ」
『あ〜、そうなんっスよ! 数は……ちょっと数えてみるっス。一人、二人……三人……』
「……」
遅い。
イライラするなぁ、もう。
『ん〜、動いてるからよく分かんないっス。結構いるし、一塊になってるし、全部数えるのは時間がかかるっス』
「だーーーーっ、バッッッカ野郎!!!!!! それなら集団を等しく九つに分けろ!」
『こ、九つっスか?』
「縦に3、横に3、その中の一つのブロックの人数を言え」
『え、えっとっスね。多分、7人か8人くらいかと……』
「それに9をかけりゃ、だいたいどれくらいの手勢かすぐ割り出せるだろ」
『あー。王子、頭いいっスね! なら、だいたい60から70人ってとこっス』
「任務ご苦労。セトの言ったことがブラフじゃないことが分かった」
『急に罪人が増えたんスかね……。あの村にいた人の数よりはるかに多いっスよ』
「細かい話は後だ。通信終わる。死ぬなよニッキ」
『逃げ足は速いっスから。じゃ北門を閉じたら戻ってくるっス!』
あのセトの性格上、堀を突っ切って靴を濡らし、泥まみれになって来る可能性は薄い気がした。
それに戦力の集中は戦いの鉄則だ。
その鉄則に乗っ取り、ロの門で他の村の罪人たちと合流して一気に攻めかかられたら厄介だ。
通信を終え、再び駆け出した俺の背中に、幼い子供の声が飛んできた。
「王子〜! が〜ん〜ば〜れ〜! 負けないでー!!!!」
「んあぁ?」
「こらッッッ!? 危ないでしょう! 戦争が終わるまで窓を開けちゃダメ!」
木窓を開け、小さな女の子の姉妹が顔を出していた。
当然こんな非常事態だし、母親にこっぴどく叱られている。
叱られた幼女が顔をひっこめる前に、目と目があった。
可哀そうに、ひどく不安げな顔をしている。
俺は安心させるように、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
心が通じたらしく、幼女たちの顔が輝いた。
二人とも美人になりそうだから、もう10年もしたら、3Pしような。
それまで処女を守っておけよ。
それは幸か不幸か、おそらく伝わる前に窓を閉められてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いーかオメーら、セトの旦那の許しが出たんだ! 何と、今日は俺たちゃこの村から好きなもんを好きなだけ持って行っていいんだとよ!」
「おおーっ!!」
「酒だの食い物だのは後回しだ! まずは女! 抱ける年齢の女は根こそぎアジトにかっさらっちまえ!!」
「うおおおおおおっ!」
「オズマさん、抱けないくらいのオボコはどうするんですかい?」
「そいつも無論、連れて帰るさ。穴は狭くて使えねえにしても、アレをくわえさせることくれえは仕込めるだろうからなぁ」
「ヒヒヒ、俺は使いますよ。狭くて小さな穴が大好物でさぁ」
「よっしゃ、行くぞロクデナシども! 禁欲生活とも今日でおさらばだぁっっ!!!」
「あれ……でも、誰か駆けて来ますよ?」
「剣を持ってる! セトの旦那ですかい?」
「いや、ありゃ違ぇ……?」
あまりにも声がでかすぎるものだから、奴らの下卑た野望をすっかり聞いてしまった。
おそらく女はこの罪人島で全体的に数が少なく、その少ない女をセトの村で独占している。
彼らには女は何よりも貴重な獲物であり、この日にかけるモチベーションは高そうだ。
──だが、やらねーよ、一人たりともな!
「おい、誰だてめえ! 止まれ! 近づくんじゃねぇ!!」
「このお方をオズマ様と知ってんのかぁ? ああ?」
「っ、あいつキチガイか? 来るぞっ!!!」
「と、止まれって言ってるだろ!? お、おい……ぎゃあああああああっっ!!!?」
止まるはずねーだろ。
全力で駆けた勢いのまま、俺は罪人の集団へと飛び込み、斬り捨てた。
剣技大会じゃあるまいし、戦いの前の礼も会話も必要ない。
相手が誰であろうが、俺が誰であろうが関係ない。
目についたものから、ただ殺す。
こいつらは犯罪のプロではあっても、戦いのプロではない。
突然現れて縦横無尽に剣を振るう俺に対し、心の準備のできていない罪人たちは明らかに狼狽した。
「クソが、ガキのくせに強ぇじゃねえか……!」
「セトの旦那が言ってた奴ですよ! 剣の腕がたつのが一人、村にいるって……!」
「あぁ!? 腕が立つって、こっちに何人いると思ってんだっっ!! さっさとたたんじまえっっ!!」
ボスと思しき人間が喝を入れ、次々に襲い掛かってくる。
しかし、このロの門から入る道はとても狭く、民家が密集していて、集団戦闘に全く向いていない。
俺と同時に対峙できるのは一人、多くても二人。
全部で敵がここに60人いるとして、60対1じゃあさすがにキツい。
だが、1対1を60回繰り返すだけなら、結構やれる。
そして敵の中に本格的な剣の稽古を積んだ者は一人もいなかった。
「そもそも、剣の持ち方がなってねーんだよ、オッサンたちは。肘をもっと柔らかく使え」
「はぁっ!?」
「剣の切っ先は、腕じゃなく肘で操作する。眉間を狙う時は、こう」
「がっ……!?」
「目玉を狙う時は、こう」
「んぁああああああああ目が、目があああああああああっっ!!!」
「あ、もうエロ本読めねーな。この島には多分無いけど」
眉間に剣を突き刺したのち、隣の男の両の目を一閃。
狭くても、こうして肘の使い方次第で自在に剣を振れる。
狭い路地は血の海になり、ただの肉塊となった罪人が次々に転がっていく。
──いける。
この分なら、ここで全員殺せる。
これなら体力を残したまま、俺はセトと戦うことができるはずだ──。
「やべえっすよ、あのガキ、鬼みたいに強ぇっ……!」
「くそおおおおおおっ、せっかく美味い話があるって聞いてきたのによぉ〜……」
「もうあきらめてオッサンたちで掘りあえよ。男同士で新たな地平線を見に行ってこい」
「なめんじゃねえぞ、このガキがぁっ!」
口はまだまだ達者だが、弱気なのは明らかだった。
全員殺すのもダルいし、ここらへんで撤退してくれるとより助かる。
そして、それがもうすぐ現実になるような気がした……のだが。
「お〜う〜じ〜さ〜ま〜~~~~~!!」
「ああ?」
この場に似合わない、すっとんきょうな声が響いた。
民家の窓から、おさげの女の子がひょっこり顔を出している。
……リーゼロッテだった。
そして、その後ろからおずおずとエミリアまで顔を出す。
「すっごいじゃーん!! やっぱりめっちゃくちゃ強い! 余裕だねっ!」
「バカッ! リーゼ、顔出すな!」
「そうですよ、リーゼ。フィーアさまの邪魔になります……」
「エミリア! 何してんだ、二人でそんなとこで!!」
「リーゼが怖いから来てほしいって頼むから、それで……はい」
「いいから窓を閉めろ!!」
「応援してやってるのに何よ。戦うのは王子様で、村の人は狙わないってルールなんでしょ?」
「いや、それは少し事情が……」
「お、女……」
「ふえッ!?」
「っ、エミリアッ! リーゼを連れて逃げろっっっ!!!!!」
「はい?」
ヤバい。
この島に来て何年か分からないが、その間ずっと禁欲を続けてきた罪人たち。
そんな人間が、このお年頃で、出るとこ出てて、美しい女子二人を目にしたら……。
「女ぁああああああああああああああああっ!!!!」
「攫って逃げるぞっっっ!!!!! 窓を壊せ、ドアをぶち破れ!」
「きゃあああああああっっ!!! 何ぃいいいいい何なのぉおおおっ!?」
「だから言っただろうが〜〜〜っっ!!!!」
標的があっさりと変わってしまった。
この状況は……非常にまずい。
続きは明日か明後日に。




