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第16話『村の改造計画』


 「昨日はよく眠れましたかのう」


 「ああ、おかげさんでな」


 ──翌日。


 俺は村長であるジードの家へと向かった。

 昨日約束した通りに俺の訪問を待ってくれており、そして何故か他にも歳をくった村人がちらほらと。

 ジード曰く、この村の幹部たちだそうだ。


 「大事な話し合いになりそうじゃから、勝手ながら声をかけさせてもらいました。同席させても良いですかのう」


 「俺は構わない」


 「みなさん、お茶をどうぞ。淹れたてですから美味しいですよ」


 エミリアが気を利かせてお茶を運んでくる。

 彼女はありがたいことに俺とニッキの朝食も用意してくれ、それがまた抜群に美味かった。

 一緒に住むのがアホのニッキじゃなくエミリアだったらどんなに楽しい生活になったかと悔やまれるが、もはやそれは言うまい。


 「それじゃあ、早速始めようか。まずはあんたたちの意思確認だ」


 「ワシらの意思確認……ですか?」


 「そうだ。あんたたちはもう罪人どもにいいように使われるのはごめんだ。今後一切の関係を断ち切りたい。それで間違いないか?」


 「えぇ。それができるのなら一番ですじゃ」


 誰もが深く頷き、異論はないようだ。

 しかし、そうなると色々と問題がある。


 「ニッキに聞いたんだが、向こうの首領のセトってやつはずいぶん無茶な奴らしいじゃないか。ほうぼうの村に力ずくで言うことを聞かせてるとか」


 「そうです。今王子が住んでいる家のもとの家主……テトラを殺したのもあやつですじゃ」


 「テトラはネーフェの村のため、セトに意見してくれたんです。貢物の量を減らしてほしいって、ただそれだけのことだったのに……!」


 エミリアが悔しそうに俯いた。

 まだ悲しみが生々しいようで、その眼にはうっすら涙が浮かんでいる。

 確か、幼馴染だと言っていたな。


 「本来、それは村長であるワシが言わなくてはならんことじゃった。テトラはこの老いぼれの代わりに命を失ったようなものです……」


 「貢がないって言ったわけでもないのに、セトっていうのは相当短気な奴なのか」


 「そうは思えません。あれはある種の見せしめだったのでしょう。自分の力を誇示し、ワシらに恐怖を植え付けるための……」


 その効果はてきめんで、力のないネーフェの村人はすっかり怯え切ってしまった。

 なんせ意見しただけで殺されてしまうんだから、いうことを聞くほかしようがない。

 短気を起こしてテトラを殺したわけじゃなく、むしろ冷静な判断で殺した。


 そう考えると……敵に回すと相当厄介な相手だと想定される。



 「そんな相手に今後のお付き合いのお断りを告げるわけだから、多少は面倒を覚悟した方がいいかもな」


 「はい。ワシらもすんなり物事が進むとは思っておりません」


 「しかも俺が向こうの罪人をもう6人殺して──ニッキも含めて一日で7人失っている。おそらく知らぬ存ぜぬは通らないし、すでに何らかの報復を考えているかもしれない」


 「むぅ……」


 「フィーア・ラズヴァート様……彼らはこの村を攻めてくるでしょうか?」


 「可能性はある」


 「まさか! 今まで我らネーフェがどれほど尽くしたか!」


 「そんな恩着せがましい話が通用する相手じゃなさそうだぜ」


 「しかし我らを殺して得るものもありますまい。貢物が減るだけです」


 「支配下に置いてるのはこのネーフェだけじゃないようだ。刃向かったものの末路として、それこそ見せしめとして今度はこの村を滅ぼすかもしれない」


 「なんと……!」


 「そのような恐ろしい事……いや、しかしセトなら考えられる……」


 「罪人め、調子に乗りおって……!」


 俺の言葉に老人たちの間にざわめきが広がった。

 別に不安をあおるつもりはないのだが、話を聞く限りセトって野郎はヤバい。

 考えられる限り最悪の事態を想定して動いていった方が安全だ。


 「王子どの、我らはやはり黙って従っておいた方が良いのでしょうか……?」


 「バカ言ってんじゃねえよ。また今までみたいな暮らしを繰り返す気か?」


 「しかし……」


 「安心しろ、そのための俺だ。俺がいる限り今後一切ネーフェには手を出させない」


 「フィーアさま……! なんて力強い言葉でしょう!」


 「むぅ〜頼もしい。頼もしいですぞ王子どの!」


 「とはいえ、備えはいる。これはセトだけじゃなく今後ネーフェの村が罪人だらけのこの島の中で、安全に暮らしていくためにも絶対に必要だ」

 

 「備え、ですか……はて」


 「万一攻めてこられても太刀打ちできるようにしておくってことだ」


 「それは王子どのがバッタバッタと敵を倒してくだされば良いのではないですかのう」


 「んな簡単にできるか!」


 「フィーアさまならできそうですけど……」


 「今のままじゃ、四方から攻めてこられたら確実に死人が出る。それを避けるためにこの村の守りを強固にしたい」


 「ふむ、この村の守りを」


 「ラズヴァート様、具体的にはわしらは何をすれば良いのでしょうか?」


 「そうだな……まず、見張りの高台は必須だ。面倒でも退屈でも毎日一人は異常を知らせる人間を置け」


 「分かりました。急ぎ大工に言って作らせます」


 「後は村を囲む外壁を作れればこの上なく有利だが……これは時間も手間もかかりすぎるし、ネーフェで実施するには現実味がない」


 「確かに、狭い村とは言え何年かかるか分かりませんのぅ……」


 「幸い、ネーフェの村は広場を中心として円形に設計されている。その一番外周の家を有事の際には外壁代わりにできるよう話をつけておけ」


 「おぉ、なるほどです」


 「あとは村の外に出るよっつの道のすべてに門を作れ。北から右回りで『イの門』『ロの門』『ハの門』『ニの門』とする。門があると、どんな状況でも人は不思議と門から入ろうとする」


 「ふむ。それならすぐに作れそうですじゃ」


 「村の西側と南側半分は川が流れていてまだ安全だろうが、問題は北だ。平地に畑が広がり、見通しが良くて攻め入りやすい。手前の畑を潰して、堀を作って川の水を引き込め」


 「堀ですか。おおがかりな工事になりそうですな……」


 「深さはそれほどなくていい。そこにははた目には分からないようにネクに頼んで剣山でも作らせて設置しておく」


 「ほほ〜、水の中に罠を仕掛けておくのですか」


 「うまいこと敵に刺さりますかのう」


 「刺さらなくても動きが鈍ればいい。そしてこちらにしか分からない、水深のない安全な道を作っておく。そうすりゃ、敵が攻めてきても俺たちは自由に動き回れる」


 「な、なんだかすごいです。フィーアさまってそんな事を勉強していたのですか?」


 「要塞づくりの基本だ」


 戦争になったら必ず拠点が必要になるし、拠点はどこよりも安全でなくてはならない。

 子供の頃から叩き込まれたこの知識が、今になって流刑地で役立つとは思わなかったが。


 「これで北側の守りは安心だ。残るは東だが……」


 「はい。東側には何を仕掛けておきましょう?」


 「何もしなくていい。東側だけは手を加えずがら空きにする」


 「そ、そんなことをして大丈夫なのですか?」


 「それでは村を攻めてくる敵が集中してしまいます!」


 「エミリア、分かってるじゃないか」


 「ふぇっ!?」


 「敵が1か所に集まる。どこから来るか分からないより、こちらはずっと対応しやすくなる」


 「ほぉ〜……なるほどですじゃ!」


 「東から入る道は4本のうちで特に狭く、家が密集してる。狭い路地を通る敵に、屋根から熱湯をぶっかけたり、石を投げつけたり、弓を射ったり、うんこ投げつけたり、好き放題できるぜ」


 「ふぉっふぉっふぉ、それは楽しそうですのう」


 「ラズヴァート様はたったの1日で村を見て回っていたのですか!」


 「さすがは帝国の王子です。戦いの術を熟知してらっしゃるのですな!」


 「まーな。他にもいろいろとあるが、今はざっとこんなところだ」


 「承知いたしました」


 「ラズヴァート様がこの村にいる限り、罪人どもも遅るるに足らずです!」


 「うむ。なんだかやれそうな気がしてきたわい」


 「よし、その意気だ。ネーフェの村の未来を俺たちでつかみ取ろう!」


 罪人に怯えていた村の幹部たちに、少し活気が戻ってきた。

 これらを実行するには想像以上に苦労もするだろう。

 しかしこの村の改造は必須だ。


 「では王子どの。今から大工や職人たちに声を掛けますので、彼らに直接ご指導を頂いても良いでしょうか?」


 「ああ、分かった……」


 「た、大変です! 王子、村長、や、ヤバいっス……!」


 「あぁ?」


 大慌てで駆け込んできたのはニッキだった。

 家で大人しく留守番してろと言ったのに、一体何なんだ。


 「なんじゃニッキ。一体どうしたんじゃ」


 「お前、家にいたんじゃないのか?」


 「えーっと、それが……リーゼロッテさんが王子とお昼ご飯を一緒に食べたいって言って……」


 「全然大変じゃねーじゃねーか」


 「ニッキ、それは断ってください。フィーアさまは忙しいんです!」


 「えー」


 「お昼ご飯なら私が作ります! ってゆーかもう作ってあるんですっ」


 「いやそれがっスね、リーゼさんに肉の風味付けに紫蘇の葉を取ってきてくれって頼まれて……」


 「まあ、リーゼったら」


 「いいようにパシられてんな」


 「ニッキよ、ワシらは忙しいんじゃ。紫蘇の葉なら裏の山にいくらでも生えとるわい」


 「だ、だから裏山に行ったんスよ! そしたら、いたんです」


 「この島、熊がいるのか?」


 「私はまだ見たことはありませんね」


 「違います! セ、セトさんっス。首領のセトさんが、大勢部下を連れてこっちに向かってるんです!」


 「何ィ?」


 風雲、急を告げるとはこのことか。

 どうやら思ったよりも早く向こうのボスとのご対面になりそうだった。




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