表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/29

淀みの魔力

「私のターン! スタンバイ、ドロー! チャージフェイズで1チャージ追加! メインフェイズ! コスト2のプチワイバーンを召喚!」


 戦いはまだまだこれからだ。

 スタンバイフェイズでモンスターとチャージゾーンのカードがスタンド状態に回復し、チャージゾーンにカードを追加してチャージ値を4に。


 さらに手札から新たなモンスターを召喚した。




・プチワイバーン:ドラゴン族 コスト2 AP800




 翼の生えたやや小振りなドラゴンが中空に現れる。大きさはピコドラより一回り大きいくらいだ。

 これで私のフィールドに3体のドラゴンが並んだ。


「このままバトルフェイズに入るよ!」

「おや、ブレード・ドラゴンの追加コストの支払いはよろしいので?」

「うん、ここはコストを温存するよ!」


 使えるコストはあと2つ残っている。ここでブレード・ドラゴンの追加コストを払っておけば、モランドさんのライフを一気に3つ削ることも可能だろう。だけど次のターンでのモランドさんの反撃のことも考えて、このターンはチャージゾーンのカードを残すことにした。


「ピコドラ、プチワイバーンはモランドさんを。ブレード・ドラゴンはキャットメイジを攻撃! ドラゴン軍団、いっけぇ~~~!!!」


 土埃を上げて駆けていく私のドラゴン達。

 ピコドラとプチワイバーンが連続してモランドさんに体当たりを食らわせる。ブレードドラゴンはレスト状態でお座りしていたキャットメイジに頭の角を突き刺した。


「うぐっ、ぐわっ!!」


 キャットメイジは光になって消滅し、二体の攻撃を受けたモランドさんは吹き飛ばされて仰向けに倒れる。やっぱりコストも身体も大きいプチワイバーンの方が、攻撃したときの衝撃が強いみたいだ。

 もっと大きなモンスターの攻撃だと、いったいどれくらい痛いんだろう? こ、怖いなぁ……


「モランドさん……大丈夫? 痛かった?」

「ええ、痛みや衝撃は感じますが、バトルで実際に身体に傷を負うことはありませんのでご安心を。それよりも全てのモンスターで総攻撃とは、いささか迂闊ではありませんかな? 聖女様」


 立ち上がりながらモランドさんはそういってくる。


「これが私のスタイルだもん。ターンエンドだよ」


 私のデッキは超攻撃型のビートダウンデッキだ。チャンスがあれば相手のライフを奪い、モンスターを破壊しにいく。この戦法はたとえ異世界でも変わらない。元の世界でもこの戦法でゴールドランクまで登り詰めたんだから。





リセ:ライフ4 チャージ0/4 手札2

《フィールド》

・ピコドラ:ドラゴン族 コスト1 AP500 レスト状態

・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 コスト4 AP2000 レスト状態

・プチワイバーン:ドラゴン族 コスト2 AP800 レスト状態





「私のターン、スタンバイ、ドロー。チャージ値を追加。……正直驚いています。救世の聖女とはいえ、貴女のような幼い少女がこれほどのバトルの腕を持つとは。しかし、この世界の未来を託すにはまだまだ未熟! それを今から私が教えてあげましょう。メインフェイズ!!」


 モランドさんは今までに無い気合の入った声でチャージゾーンのカードを一気に6枚タップした。

 ってコスト6!? 私のブレード・ドラゴンより高コストのモンスターが出て来るってこと!?


「眩き稲光とともに降臨せよ! コスト6、サンダー・マジシャン!!」


 バトルリングが強く輝き、稲妻のような光が迸る。その光の中から黒いローブを纏った魔法使い風の青年が現れた。その手には雷のような紋様の入った杖を握っている。実に強そうなモンスターだった。今までに召喚されたモンスター達よりも演出も派手だ。




・サンダー・マジシャン:魔導族 コスト6 AP2300



「いかがです。これが私のエースモンスター、サンダー・マジシャンです」

「うん……す、すごい……!」


 召喚の演出も表示されたステータスもすごい。エースというだけあってブレード・ドラゴンよりもAPが上だ。

 自信満々の様子だけど、これでモランドさんのチャージ値は残り1。

 いくらモンスターが強くたって、数の上では私のほうがまだ有利だ。


「私はサンダー・マジシャンの効果を発揮します! このモンスターが召喚された時、手札を2枚数捨てることで、相手のフィールドにいるコスト2以下のモンスターを全て破壊します!」


 やっぱりあったか特殊効果! しかもこっちのモンスターを複数破壊できる強力なものだ。

 サンダー・マジシャンが杖を空高く翳すと、先端から稲妻が迸ってピコドラとプチワイバーンを貫いた。二体のドラゴンはキャットメイジのときと同じように光になって消えた。


「ピコドラ! プチワイバーン!」


 フィールドのモンスターが消えたことで光盤の上のカードも捨て札となりバトルリングの中に帰っていく。

 本来のコストが4のブレード・ドラゴンだけは場に残ったけど、一気に盤面を五分と五分まで巻き返されてしまった。

 手札を温存していたのもこれが狙いだったんだ。やっぱり強いよ、モランドさん。


「サンダー・マジシャンの効果はこれで終わりではありません。この効果で相手モンスターを破壊したとき、その数だけ自分の捨て札の中からコスト2以下の魔導族モンスターをノーコストで召喚出来ます。甦れ、キャットメイジ達よ! サンダー・リザレクション!!」


 サンダーマジシャンの掲げた杖が光り、私が倒したはずのキャットメイジ二体がモランドさんのフィールドに現れた。



・キャットメイジ:魔導族 コスト1 AP400

・キャットメイジ:魔導族 コスト1 AP400




「ちょっ……それ強すぎない!?」


 あまりの事態に思わず声を上げてしまう。五分五分どころか一気に形成逆転だ。

 サンダー・マジシャンは元の世界では見たことのないモンスターだったけど、まさかこっちの世界にはこんな強力な効果を持ったモンスターがいるの!?


「ふふふ!!! 見ましたかこの力!! これこそ我がカードに宿りし究極の力!!! 恐れおののけ! 救世の聖女よ!!!」

「モ、モランドさん!?」


 盤面が覆った途端、モランドさんがいきなり テンションを上げて高笑いをしだした。

 えっ、急にどうしたの? と思ったら、なんだか様子がおかしい。今まで無かったどす黒い霧のようなものが、モランドさんの腕のバトルリングの周りにどんよりと渦巻いている。

 な、何が起こってるの!?


「あれは……いかん! モランドは淀みの魔力に侵されている! すぐにバトルを中止するんだ!!」


 観戦していた王様が声を上げた。

 あれが昨日いってた淀みの魔力ってやつ? モランドさんはそれにとり憑かれておかしくなってるってこと……?

 今までそんな素振りなかったのに、一体どうして? そう思っていたら、フィールドにいるサンダー・マジシャンからもモランドさんと同じ黒い霧が出ているのに気付いた。

 もしかして、サンダー・マジシャンを召喚したことが原因なの?


「リセ様!」


 唖然としている私に、クルスさんが駆け寄ってきて庇うように前に立つ。他の兵士さんたちは、モランドさんを捕まえようと彼に向かっていく。

 しかし、モランドさんから見えない衝撃波のようなものが放たれて、その足を止められた。


「邪魔をしないでいただこう! カードバトルは神聖なる儀式! それを続けるも止めるも、決める権利があるのはフィールドに立つ二人のバトラーのみ!! 無関係な者達は下がっていろ!!!」


 ものすごい威圧感で兵士さん達を圧倒するモランドさん。私のプレイのひとつひとつを丁寧に誉めてくれていた、優しい面影はそこには無かった。

 こ、怖い……こんなに人が変わっちゃうなんて……。たまにショップにいる、負けそうになると不機嫌になるお兄さん達より怖いよ……

 私はどうしたらいいの……?


 戸惑う私に、お姫様が声をかけてくる。


「聖女様、こうなればバトルに勝つ以外、モランドを止める手段はありません。どうかこのまま戦ってください」

「ええっ、戦うのぉ!?」


 お姫様にそう言われて、情けない声を出してしまう。

 いきなりこんなことになって混乱しまくっているのに、戦えっていわれたって……。私は助けを求めるようにクルスさんを見上げる。クルスさんなら守ってくれるかも。


「クルスさぁん……」

「リセ様……ここは私も手出し出来ません。どうかご武運を……!」


 だけどクルスさんも心苦しそうに引き下がっていった。駄目だった。もう戦うしかないらしい。

 こんなことになるなんて……本当に勘弁してよ。


「さあ行きますよ! バトルフェイズ、私は二体のキャットメイジで攻撃!」


 嘆きたい私の気も知らず、バトルを再開するモランドさん。

 甦ったキャットメイジ達が、私目掛けて突進してくる。


「ちょっと待っ……がふっ! ぐがぁ!!」


 待ったをかける間もなく、お腹と胸に体当たりを食らって仰向けに倒れる。さ、さっきより痛い……!?


「そしてサンダー・マジシャンの攻撃! こちらはブレード・ドラゴンを指定しましょう」


 モランドさんは続けてサンダー・マジシャンでも攻撃を仕掛けてくる。狙いはレスト状態で伏せているブレード・ドラゴンだ。


「ってまずい!」


 私は慌てて起き上がった。

 私のライフは残り2だから、サンダー・マジシャンが私を攻撃しても全てのライフを削りきることは出来ない。そこでモランドさんは私のライフではなく、戦力を削っておこうとしているわけだ。

 今の私にとっては、ライフを奪われるより致命的な攻撃だ。ここでブレード・ドラゴンがやられたら、勝ち目が無くなってしまう!


「消え去れ、ブレード・ドラゴン! サンダー・マジック!!」


 サンダー・マジシャンの杖がバチバチと帯電し、ブレード・ドラゴンに向けて翳される。

 これは本気でまずい……! ここでブレード・ドラゴンまでやられてしまったら、勝ち目がなくなる。

 どうする、私!?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ