痛いとか聞いてないし
「私のターン、行くよー! スタンバイ、ドロー!」
再び私に手番が回って3ターン目。スタンバイフェイズにレスト状態だったチャージゾーンのカードがスタンド状態に戻り、デッキからカードを1枚ドロー。
アニメの主人公みたいに、ズバッと引き抜く感じでドローしてみた。くぅ~、気持ちいい!
「チャージフェイズで1枚チャージ。そしてメインフェイズ! 私は手札のブレード・ドラゴンの効果を発揮するよ!」
私は手札にあるモンスターの効果を使う。モンスターカードの中には特殊な効果を持ったものが存在する。それらを駆使することで、バトルを優位に運べるようになるのだ。
「ブレード・ドラゴンはコスト4だけど、自分フィールドにいるモンスターが合計2コスト以下のときは半分のコストで召喚出来る! 私のフィールドはコスト1のピコドラだけ。よって2コストでブレード・ドラゴンを召喚!!」
効果を使ったカードをそのままバトルフィールドに召喚!
短剣のような鋭い角が生えた首の長いドラゴンが、ピコドラの隣に現れた。
・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 コスト4 AP2000
「先攻3ターン目にしてコスト4のモンスターを召喚だと!?」
「これが聖女様のお力か……!」
見物している人達が、現れたブレード・ドラゴンを見てざわめいている。
愛嬌のあるマスコット的なピコドラと違って、ブレード・ドラゴンは身体も大きく、まさしくドラゴンらしい勇猛な出で立ちだ。APだって桁違い。それがこんな早いターンが出てくるなんて、そりゃ驚くだろう。
対戦しているモランドさんだって感心した様子だ。
「これほどのモンスターをもう召喚出来るとは。さすがは聖女様ですな」
「えへへ~、それほどでも!」
「しかし、その手のコスト軽減効果を持ったモンスターには、なにかしらの制限が付くもの。そのドラゴンにもなにかあるのではございませんか?」
「そうだね。ブレード・ドラゴンはこの効果で召喚した場合、残りの2コストを追加で支払うまで相手のライフを減らすことが出来ないんだ。それが制限だよ」
強いモンスターをただコストを減らして呼び出せるだけじゃ、ゲームバランスが崩れてしまう。だからブレード・ドラゴンにもそれを補うような制限がついている。
それを一目で見抜いてくるなんて、モランドさんの洞察力もなかなかだ。
「ライフは減らせないけど、モンスター同士のバトルなら出来るよ! いくよバトルフェイズ! 私はブレード・ドラゴンでキャットメイジに攻撃!!」
バトルフェイズに入り、私はモンスターへの攻撃を宣言する。
カードをタップするとブレード・ドラゴンが咆哮を上げてキャットメイジへと突進していった。圧倒的な体格差で迫るドラゴンを前に、キャットメイジは怯むどころか牙を剥き出しにして立ち向かっていく。
シャアア! と唸り声を上げてブレード・ドラゴンに飛びかかるものの、ブレード・ドラゴンは頭の角を振り下ろしてキャットメイジを一刀両断!
うわっ、スプラッタ!? と思いきやキャットメイジは光の粒になって消えた。血が出たりとかはしないみたい。良かった、グロテスクな映像は見ないで済むなら、安心してバトル出来るね。
「続けてピコドラもいくよ! モランドさんに直接攻撃!」
モランドさんのフィールドが空になったので、ピコドラはモランドさんを直接狙う。
短い足でトコトコと走っていき、モランドさんに飛びかかって頭突きを食らわせる。モランドさんは「うぐっ!」と呻いてよろめいた。
「えっ、どうしたの? 大丈夫!?」
「ええ、平気ですよ。聖女様の攻撃、お見事でした」
心配して声をかけると、モランドさんはなんでない風に笑って答えた。
モランドさんの頭の上にもステータスが表示され、ライフの値が5から4へと減る。
「ライフの減少によりチャージ値を1追加します」
さらにリングから無地のカードが現れてチャージゾーンに置かれた。
グランデュエラーズではライフが減らされるとその分チャージゾーンにカードが追加され、使用コストを増やすことが出来る。チャージ値が増えれば使えるカードも増えるので、ライフが減ることは必ずしも不利に働くわけじゃない。
それにしても……さっきのモランドさんの動きって演技じゃないよね? ちょっと嫌な予感がしてきたんだけど……
「どうしました、聖女様」
「う、ううん、なんでもないよ。ターンエンド!」
疑念を振り払うように私は頭を振って答えた。
リセ:ライフ5 チャージ2 手札3
《フィールド》
・ピコドラ:ドラゴン族 コスト1 AP500 レスト状態
・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 コスト4 AP2000 レスト状態
フィールドのモンスターの数は私の方が有利だけど、モンスターもチャージゾーンも全てレスト状態だから次のターンはがら空きに等しい。……さあ、モランドさんはどう攻めてくるかな?
「いきますよ私のターン! スタンバイ、ドロー! チャージフェイズで1チャージ追加! メインフェイズに……私は二体目のキャットメイジを召喚します!」
第4ターン。モランドさんが召喚したのは、さっきのターンと同じ猫ちゃんだった。
ルール上、同名カードはデッキに3枚まで入れられる。
「行きますよバトルフェイズ! 私はキャットメイジで聖女様にダイレクトアタック!!」
まだ使えるコストは残っているのに、モランドさんは追加のモンスターは出さずにすぐさまバトルフェイズに入った。
手札に出せるモンスターがいないの? それともなにか狙いが? どちらにせよ私にこの攻撃を防ぐ術はないのでそのまま受けるしかない。
前のターンのピコドラと同じように、走ってきた猫ちゃんが私のお腹に目掛けて飛びかかった。
「うぐぅっ!」
ドシンとお腹に衝撃を受けて私は思わず尻餅を付いてしまう。
思った通り、モンスターに攻撃されると、本物の衝撃が襲ってくるらしい。やっぱりさっきのモランドさんは演技じゃなかったんだ。思えばピコドラに触ることが出来たんだから、モンスターの攻撃を受ければこうなることは当たり前か。
それにしても結構痛いよ、これ!? 体育のドッジボールで男子にぶつけられた時くらい痛い!
「いたた……痛いよぉ……」
「ふふふ、それが実体バトルの痛みですよ。この痛みを味わってこそ真のカードバトラー。いわば洗礼のようなものです」
お腹を擦っているとモランドさんがそう言ってくる。
周りで観戦している人達を見れば、誰も私のことを心配している様子はなかった。むしろカードバトラーの人達は懐かしそうな視線を向けながら「俺も始めた頃はああだったなぁ」なんて話している。
いや、一人だけ、クルスさんが心配そうに見ていた。
なるほど、クルスさんはこれを知っていたから、私がバトルするのを止めようとしていたんだね。やっぱり優しい人だ。
「さあ、私はターンエンドです。次は聖女様のターンですよ。まさかこの程度でバトルを中断したいとは言いますまいな」
モランド:ライフ4 チャージ3 手札4
《フィールド》
・キャットメイジ:魔導族 コスト1 AP400 レスト状態
手番を回されて私は立ち上がる。
正直痛いのにはびっくりしたし、ちょっと怖くなってきたけど、彼の言うとおりここでバトルを中断するなんてことはあり得ない。ダメージは受けたけど、まだライフは互角だし私の方が盤面も有利だ。
私は気を引き締めてカードを構えた。