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バトル開始

 クルスさんに連れられて、カードバトル修練場へと向かう。


「修練場は中庭にございます。ついてきてください」

「はーい」


 廊下を歩きながら、窓の外の景色を横目に見る。お城は丘の上に立っているらしい。起伏した丘陵の下に広がる林。その向こうに中世風というか、ファンタジー系のゲームや映画を思わせる石造りの町並みが広がり、そのさらに向こうに広がる緑の平原が目に入った。思えばこちらに来て外の景色をちゃんと見たのはこれが初めてだ。歩きながらつい目移りしてしまう。

 テレビや本でしか見たことのないような景色に、ここはやはり元の世界とは違うのだと改めて感じた。


「ひゃっ!?」


 よそ見しなから歩いていたら、床石の継ぎ目に躓いてしまった。

 転びそうになるけど、クルスさんが素早く駆け寄って支えてくれる。


「大丈夫ですか、リセ様。足元にお気をつけください」

「う、うん。ありがとう」

「礼などいいのですよ。あらゆる危険から貴女を守ることが、私の仕事なのですから」


 そういって優しく笑うクルスさんに思わず赤面してしまう。かっこよくて優しくて、きっとモテるんだろうなぁ。私の護衛なんか勿体無いよ。 


 そういえば、カードバトルをするのにどうしてわざわざ外に出なきゃいけないんだろう? カードスタジアムみたいな専用の施設が中庭に建てられてるのかな?

 なんて考えながら中庭に出ると、


「さあ、着きましたよ。ちょうどバトルを行っているところのようですね」

「えっ……」


 そこで目にしたものに、私は言葉を失った。


 青空の下、学校の運動場くらいの広さの敷地に、昨日祭壇で見た魔法使いっぽい服装の人達が集まっている。この人達がお城に仕えるカードバトラーだろう。二人一組で睨み合うように対峙していた。

 彼らの腕にはなにやら半円形の光の板のようなものが付いていて、そこにカードが乗せられている。そして何より目を引いたのは、彼らの周りには大小様々なモンスターが立っていたことだ。


「ゆくぞ、俺のターン! ファングウルフを召喚!!」


 一人の男性がカードを光の板に乗せると、また新たに狼型のモンスターが現れた。

 えっ、えっ!? 何あれ!? もしかして、カードの中のモンスターが出てきてるの!?


「ク、ク、ク、クルスさん! モンスターがいるよ!? なにあれVR!?」

「ぶいあ……? なんのことでしょう?」


 驚く私とは裏腹に、クルスさんは落ち着いた様子だ。

 元の世界でも、スタジアムで行う大きな大会とかでは、召喚したモンスターの映像を大型ディスプレイに映して演出するバトルがあった。だけどこれは次元が違う。

 本物のモンスターが、地面を踏みしめてそこに立っている。


「この世界のカードって、バトルするときにモンスターが本当に出てくるの!?」

「ええ。もしやリセ様は、バトルリングを用いた実体バトルを見るのは初めてなのですか?」

「当たり前だよ! こんなのアニメでしか見たことない! うわぁ、うわあ! 動いてる! 戦ってる!! すごい!! すごいよ!!」


 驚きは興奮に変わり、私は思わず跳び跳ねる。

 雄叫びを上げて、激しくぶつかり合うモンスター達。バトラーは手元のカードをタップしてモンスターに指示を出している。

 実体化したモンスターと一緒に戦うなんて、カードバトラーなら誰もが憧れる最高の夢じゃないか。この世界ではそれが叶うんだ。


「あっ、あのモンスター知ってる! あっちも! うわぁ、バーニングバイソンもいるよ!! かっこいい~!!」

「そこ、うるさいですよ! 先ほどから何を騒いでいるのですか」


 興奮してはしゃいでいると、他の人よりもちょっと豪華なデザインのローブを纏った、セミロングヘアーのお兄さんが、私達を睨んで注意してきた。

 いけない、つい騒ぎすぎちゃった。

 私が謝るより先にクルスさんが頭を下げた。


「失礼しました。こちらのリセ様が我が国のカードバトルに興味がおありとのことで、見学させてもらっています」

「むっ、その少女はもしや昨日召喚された……」

「はい。救世の聖女様です」


 二人に視線を向けられ、ぺこりとお辞儀する。


「えと、リセ・ツキハナです。騒いでごめんなさい。聖女かどうかは判らないけど、昨日ここに来ました」

「ほほう、それはそれは。よくいらしてくださいました。私はガルネシア王国カードバトル指南役、モランドと申します。歓迎いたしますので、どうぞゆっくりご覧になってください」


 モランドさんは怒った顔から一転して、柔らかな笑顔を浮かべて私を招き入れる。

 モランドさんがここの責任者らしい。怖い人かと思ったけど、案外優しそうだ。 


「いかがですかな、聖女様。我が国のバトルは」

「すっごい! ものすっごいよ! 本物のモンスターが出てくるバトルなんて初めて見た! もうすごすぎてやばい!」


 私は再び興奮して答える。難しい言葉を選ぶ余裕もないくらい感動している。

 モランドさんはそんな私に意外そうな目を向けてきた。


「おや、聖女様は実体バトルの経験は無いのですかな?」

「うん。私がいた世界では、カードバトルはテーブルの上でやるものだったから。あんな風にモンスターを本当に召喚なんて出来なかったの」

「それでは体験してみますか? この世界の実体カードバトルを」

「いいの!?  やりたいやりたい!!」

「ええ。是非腕前をお披露目ください」


 モランドさんの勧めで実体バトルとやらをやれることになった。

 私のデッキのモンスター達に会えるんだ。やったね!

 だけど喜ぶ私とは裏腹にクルスさんは心配そうに声をかけてきた。


「お言葉ですが……大丈夫なのですか、リセ様。初めてでいきなり実体バトルとは」

「何かいけないの?」

「ええ、実体バトルには……」

「兵士殿。ここから先は我々カードバトラーの領分です。後のことは私にお任せください。さあ聖女様、こちらへ。バトルの準備をしましょう」


 クルスさんの言葉を遮り、モランドさんが私の手を引く。


「ごめんね、クルスさん。ちょっと待ってて」

「あっ、リセ様……」


 私はうきうきした気持ちでモランドさんについていった。

 この後私は、なぜクルスさんがあんなに心配そうにしていたのか、その身を持って知ることになるのだった。




 周囲の人々が見つめる中、私はモランドさんと対峙する。ここに来て初めてのバトルということで、責任者であるモランドさんが相手をしてくれるそうだ。

 

「それではリセ様、用意はよろしいですね」

「うん! バッチリOKだよ!」


 左腕に着けた金の腕輪を掲げてにっと笑って見せる。

 これがモンスターを実体化させるのに必要な魔法の腕輪で、バトルリングというらしい。こちらの世界ではこのリングを用いた実体バトルを行うことで、一端のカードバトラーとして認められるのだそうだ。さっき使い方を教えて貰った。


「救世の聖女のバトル。とくと見せてもらおう」

「楽しみですわね、お父様」


 聖女がバトルを行うと話題になり、お城の中にいる人達もたくさん観戦に来ていた。王様やお姫様まで、誰かが持ってきたクッション付きの椅子に座り私達を見守っている。

 こんなに注目されるなんて、なんだか恥ずかしいなぁ……。元の世界で去年出場した全国大会ではもっとたくさんの観客がいたけれど、そのときとはまた違った緊張感だ。


「実体バトルは初めてとのことですが、手加減はいたしませんよ」

「もちろん! こっちも全力でいくからね!」

「それでは始めましょう。グランデュエラーズ!」

「スタンバイレディ……ファイト!!」


 向こうの世界でも共通だったバトル開始の掛け声を上げると、バトルリングの中央の宝石から半円型の光の板が現れた。これはバトルボードと呼ばれ、ここにカードを乗せてプレイするのだ。

 同時に私の服も何故か変化する。元々着ていたワンピースとカーディガンは、胸元に大きなリボンをあしらったケープ付きのドレスに、スニーカーは皮のブーツになった。

 いきなりの変化に私は思わず戸惑う。


「ええっ! なにこれ!?」

「バトルローブです。バトルリングの起動と共にバトルに適した魔法衣を纏うよう設定されています」

「そ、そうなんだ? いきなりだったからびっくりしたよ」


 変身するなんて魔法少女にでもなった気分だ。異世界なんだから、こういうファンタジーにも慣れていかないとね。

 とにかくバトル開始だ。この世界で初めてのバトル、楽しめるといいな!



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