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灼熱の咆哮 デッドヒート・ドラゴン

 リセとカーティスの戦い。それを遠くから眺めているものがいた。


「いやー、中々強力なカードを生み出してくれたね。やるじゃないか、彼。魔法石を預けた甲斐があったってもんだ」


 カードショップの裏庭が覗ける宿の部屋。その窓枠に頬杖をついて呟いているのは、先日カーティスに魔法石を渡した者であった。

 深く被ったフードに目元が隠されているが、その口許は楽しげに笑っていた。


「このまま勝ってくれたらそれはそれで楽だけど、予定とは違っちゃうんだよね。ここは聖女ちゃんに頑張ってほしいんだけど……おっ、立った」


 戦いはまさに佳境。カーティスに追い詰められていたリセがボロボロの身体を震わせながら立ち上がり、バトルを続行する。

 その姿を見てフードの人物はさらに機嫌を良くする。


「へえ、あんなんなってまで戦うんだ? 聖女ちゃんはちっこいくせに勇敢だねえ。いいよいいよ、そんくらいでなきゃ張り合いがない。 聖女ちゃん頑張れー」


 リセがボロボロなのは、元を辿れば誰のせいなのか。

 そのことを全く悪びれもしない無責任なエールは、誰にも聞かれることなく乾いた空に融けていった。

 

 


 

 カーティスさんの苛烈な攻撃で一度は諦めかけた私。

 だけど聖女として、ううん、一人のカードバトラーとしての意地でなんとか立ち上がった。


「リセ嬢ちゃん、まだ戦う気か……!?」

「あんなボロボロなのに……」


 立ち上がった私の姿に周囲がざわめく。

 ほんというと全身がズキズキ痛い。怖くて足が震える。だけど私はまだ戦える。苦しい状況だけど、負けると決まったわけじゃない。ひとかけらでも希望がある限り、最後の最後まで諦めない! それが真のカードバトラーなんだ!

 バトルリングに手をかざす私に、カーティスさんが呆れたような声を上げた。


「けっ、無駄な足掻きを。往生際が悪いのは見苦しいぜ」

「無駄かどうかはまだ判らないもん! ドローフェイズ、ドロー!」


 これが運命のドロー。これでなんとか出来るカードを引けなかったら、本当におしまいだ。

 私が引いたカードは――


「っ!?」


 カードを見て私は思わず顔を強張らせる。


「……っふふ、あはははは!」


 そして笑いが込み上げてきた。

 そんな私をカーティスさんは怪訝な目で見てくる。


「なにを笑ってやがる? 追い詰められて、ついに頭がおかしくなっちまったか?」

「あはは、違うよ。こんなことってあるんだなぁって思って。こうゆうの、デスティニードローっていうんだろうね」

「わけの判らないことを。いいからさっさとターンを進めろ! 遅延行為で反則負けにするぞ!」

「いわれなくても! チャージフェイズ。1チャージ追加! そしてメインフェイズ! 新たなモンスターを召喚するよ! 召喚コストは6!」


 2コスト分のゴロンを含めてチャージゾーンに配置された5枚のカードを、私は一気にタップする。

 そして先程引いたカードを意気揚々と掲げ、フィールドに召喚する。


「灼熱を纏いて来たれ、煉獄の竜! 熱気渦巻く戦場に、熾烈なる嵐を巻き起こせ!! 召喚! 燃え上がれ!! デッドヒート・ドラゴン!!!」


 フィールドに真っ赤な炎が立ち上り、渦を巻いて燃え広がる。炎は天を突く竜巻となり、その中から深紅の鱗を携えた巨大な竜が現れた。

 鋭い鈎爪の脚で大地を踏み締め、空に向かって咆哮を上げる。

 この凛々しく力強いドラゴンこそ、今の私が待ち望んでいた最高のモンスターだ。


「コスト6の大型モンスターだと!? まさか、この土壇場で引き当てたってのか!?」


 デッドヒート・ドラゴンを見上げて、カーティスさんは驚愕の表情を浮かべる。逆に私は歓喜の笑みをデッドヒート・ドラゴンに向けた。


「やっと会えたね! デッドヒート・ドラゴン!」


 本来ならもっと早くにデッキに入っていたはずだったモンスター。それがまさかこんな場面で来てくれるなんて、運命めいたものを感じてしまう。

 ずっと考えていた召喚台詞もバッチリ決まった!




・デッドヒート・ドラゴン:ドラゴン族 コスト6 AP3000




 デッドヒート・ドラゴンの頭上に、そのステータスが表示された。

 それを見てカーティスさんは強張っていた表情に笑みを浮かべる。


「ははっ、どんなモンスターかと思えば、たかがAP3000のモンスターじゃねえか。そんなモンスターじゃあ、俺のジャイアントアトラスには敵わないぜ。お前の敗北はこれで確定したな!!」

「確かにデッドヒートだけじゃ無理だね。だけど、私のフィールドにはデッドヒートだけじゃない。一緒に戦う仲間がいる!」


 高笑いするカーティスさんに、私は強い口調で返す。

 すでに勝利の道は見えていた。そう、切り札はここに揃っている。


「私は竜剣士アイリスの効果を再び発動! 効果の対象をブレード・ドラゴンからデッドヒート・ドラゴンに変更するよ!」

「な、なんだと!?」

「アイリス、もう一度あなたの力を貸して! ドラゴンリライド!」


 私はブレード・ドラゴンに重ねられたアイリスのカードを、デッドヒート・ドラゴンの上に乗せかえる。

 アイリスはその瞳に光を強い灯すと、ブレード・ドラゴンの背中から跳躍して、デッドヒート・ドラゴンの背中に飛び乗った。

 アイリスの力の全てが、デッドヒート・ドラゴンに託される。




・デッドヒート・ドラゴンwithアイリス:ドラゴン族 コスト6(+4) AP5500 SP1




「エ、AP5500だとぉ!? ば、馬鹿な、そんなことが……」

「さあ、今までのお返しだよ! バトルフェイズ! 私はデッドヒートドラゴンで、ジャイアント・アトラスに攻撃!」


 バトルフェイズに入り、攻撃を宣言すると、デッドヒートドラゴンはその大きな翼を広げて空に舞い上がった。上空で輝く太陽を背に大きく旋回し、勢いをつけてジャイアント・アトラスに迫る。


「煉獄のォ……デッドヒート・フレアァァァァァ!!!!」


 大きく開いた口から灼熱の火焔が放たれ、ジャイアント・アトラスを焼き尽くした。


「ジ、ジャイアント・アトラスゥゥゥ!!」

「モンスターストライク! ライフをひとつ貰うよ!」


 続けて背中に乗ったアイリスが剣を十字に振るう。

 その切っ先から放たれた衝撃波が、カーティスさんに襲い掛かった。


「ぐっ、ぐわあああああ!!!」


 吹き飛ばされたカーティスさんは地面を転がって悲鳴を上げる。ライフが3から2に減った。


「がはあっ……な、なんて攻撃だ……! だが、これでお前のフィールドに残っているのは雑魚だけ。俺のフィールドにはまだもう一体のアトラスが残っている。次のターンを迎えれば、やっぱり俺の勝ちで……」

「それはどうかな!」


 よろめきながらも立ち上がり不敵に笑うカーティスに、私は切り捨てるようにいい放つ。

 そう、私の攻撃はまだ終わりじゃない。


「デッドヒート・ドラゴンの効果を発動! このモンスターは相手のモンスターを破壊したとき、自分のチャージゾーンのカードを3枚破壊することで、スタンド状態になり、もう一度相手に攻撃出来る!」

「な、なんだとぉ!?」


 デッドヒート・ドラゴンも強力な効果を備えている。ビートダウン主体の私好みな豪快な効果だ。

 私はチャージゾーンのカードを3枚を捨て札にして、デッドヒート・ドラゴンの効果を発動した。

 デッドヒート・ドラゴンは野獣のように鋭い目付きで、もう一体のジャイアント・アトラスに狙いをつける。


「デッドヒートでジャイアント・アトラスに攻撃!」

「ひっ、ひいい! や、やめてくれ! お助けぇぇぇ!!!」


 情けない悲鳴を上げるカーティスさんを無視して、高らかに攻撃を宣言する。


「煉獄のォ……デッドヒート・フレアアアアァァァァァ!!!!!」


 デッドヒート・ドラゴンが吐いた火焔が、カーティスさんのフィールドに残っていたもう一体のジャイアント・アトラスを消し炭に変えた。

 


「モンスターストライク! さらにライフを貰うよ!」


 デッドヒート・ドラゴンの背中からアイリスが飛び降りて、カーティスさんに斬りかかる。

 

「うぐうううっ!!」


 これでライフは残りひとつ。

 最後は頼むよ! ブレード・ドラゴン!


「ブレード・ドラゴンでラストアタック! いっけえええ!!」

「ば、馬鹿な……そんな……この俺が!? ぐわああああああ!!!」


 ブレード・ドラゴンの突進を食らい、カーティスさんは勢いよく吹き飛ばされた。

 そしてライフが1から0になり、勝負が決した。


「やったァ! 私の勝ちィー!!」


 私は高らかに勝利の声を上げる。

 その声に合わせてデッドヒート・ドラゴンとブレード・ドラゴンも嬉しそうに咆哮を上げて、アイリスは剣を空高く翳して勝鬨を上げていた。



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