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辛いバトルを乗り越えて

 カーティスさんのコンボは強力だ。破格のAPを持つジャイアント・アトラスで防御を固め、こちらの攻めを封じている間に常駐マジックの効果でこちらのライフを削る。基本的ながら確実なバーン戦術だ。

 この世界に来る前のデッキなら大苦戦していただろう。

 だけどいまの私ならそれを破れる!

 その手段はもう、手札に揃っている!


「メインフェイズ。私はコスト4のブレード・ドラゴンを召喚!」


 私は新たなモンスターを召喚する。うちのデッキの頼れるアタッカー、ブレード・ドラゴンだ。

 フィールドにアイリスがいるのでコスト軽減の効果は使えないけど、今なら正規のコストで召喚出来る。




・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 コスト4 AP2000




「ふん、たかがAP2000のモンスターを出したところで俺のジャイアント・アトラスには勝てんぞ」

「竜騎士アイリスの効果発動! ブレード・ドラゴンに重ねることで、そのAPとSPを加算する! ドラゴンライド!!」


 私はすかさずアイリスとブレード・ドラゴンを合体させる。カードを重ねるとアイリスがブレード・ドラゴンの背中に飛び乗り、新たなステータスが表示された。


・ブレード・ドラゴンwithアイリス:ドラゴン族 AP4500 SP1


「えっ、AP4500!? バカな! アトラスのAPを越えてきただと!?」


 驚愕するカーティスさん。周りの人達も驚いている。そんな中でエルちゃんだけが、ちょっと得意げな顔をしていた。エルちゃんは戦ったことがあるから、アイリスの効果を知ってるもんね。


「バトルだよ! 合体したブレード・ドラゴンでジャイアント・アトラスを攻撃!」


 ジャイアント・アトラスに向けて攻撃を宣言する。

 普通なら崩すのが難しいコンボでも、アイリスとブレード・ドラゴンが力を合わせれば打ち破れる。


「打ち破れ! ツインブレード・クラッシュ!!」


 ブレード・ドラゴンの剣のような鋭い角と、アイリスの剣がX字の軌跡を描いてジャイアント・アトラスを切り伏せる。 

 ジャイアント・アトラスの巨体が、光の粒になって消えた。


「アトラス!!」

「モンスター・ストライク! ライフをひとつ貰うよ!!」


 さらにSPの効果が発動してアイリスの剣から衝撃波が飛ぶ。その衝撃波を受けてカーティスさんが吹き飛ばされた。


「ぐわあああっ!!」


 カーティスさんのライフが4から3へ。


「これでターンエンド!!」


《ターン終了時》

リセ:ライフ4 チャージ2/6 手札2

《フィールド》

・ブレード・ドラゴンwithアイリス:ドラゴン族 コスト4(+4) AP4500 SP1 レスト状態


「ぐぐっ……なんて攻撃だ……! アトラスの防御をこうも簡単に突破してくるとは!」

「ふふん、みたか! これでその常駐マジックもただの置物になったね!」


 カーティスさんのチャージ値は4。チャージフェイズで追加しても5だ。この数値ではジャイアント・アトラスのような特別なモンスターでもない限り、AP3000以上ものモンスターを揃えるのは難しい。これでしばらくは安全のはずだ。

 ていうかまた虫に咬みつかれるなんて嫌だし!


「俺のターン。スタンバイ、ドロー! チャージフェイズで1チャージ追加! ……お前、アトラスを一体倒したくらいで安心してんじゃねえか? いっておくが、俺のコンボはこっからが本領だぜ?」


 カーティスさんがそんなことをいってくる。

 まさか、まだなにか手があるっていうの?


「俺は手札から新たなジャイアント・アトラスを召喚! さらにもう一体、ジャイアント・アトラスを召喚だ!」

「なっ!? 同名カードの連続召喚!?」


 前のターンに倒したジャイアント・アトラスが再びフィールドに現れる。しかも今度はそれが2体も!




・ジャイアント・アトラス:昆虫族 コスト2 AP3500

・ジャイアント・アトラス:昆虫族 コスト2 AP3500




「そんな……アトラスを2体も同時召喚なんて!?」

「ククク、残念だったな。そっちはわざわざ2体のモンスターを1体にまとめてまでアトラスを倒したのによ。俺の手札にはまだアトラスのカードが残っていたのさ!」

 

 ということは、カーティスさんは前のターンと合わせれば3枚のアトラスを握っていたことになる。

 普通手札事故じゃん、それ!? だけどこの場合は最高に強力なコンボとなる。


「さらに俺は残りの1コストでダークビートルを召喚!」




・ダークビートル:昆虫族 コスト1 AP300




 さらにダークビートルまで出してきた。

 まずいよ、これは。

 ダークビートルはジャイアント・アトラスと違って攻撃に制限はない。そして私の場には防御できるモンスターは残っていない。

 となるとやっぱり……


「バトルだ! ダークビートルで攻撃!!」

「き、来たっ!?」


 カーティスさんはバーン効果だけに拘るつもりはないようだ。攻められるときは着実に私のライフを狙ってくる。この攻撃は防ぎようがないのでそのまま受けるしかない。

 真っ直ぐ飛んできたダークビートルの角が私のお腹に突き立てられた。


「うぐうっ……!!」


 鳩尾に入った! 息が詰まる! 私は蹲ってお腹を押さえる。


「ターンエンドだ。痛ぇか、ざまあみろクソガキ」


 攻撃を終わらせてカーティスさんは早くもターン終了を告げる。痛がる私にもお構いなしだ。


《ターン終了時》

カーティス:ライフ3 チャージ0/5 手札0

《フィールド》

・ジャイアント・アトラス:昆虫族 コスト2 AP3500 スタンド状態

・ジャイアント・アトラス:昆虫族 コスト2 AP3500 スタンド状態

・ダークビートル:昆虫族 コスト1 AP300 レスト状態

常駐マジック:蟲毒の壺


 って、ちょっと待ってほしい。カーティスさんのフィールドにはスタンド状態のジャイアント・アトラスが2体もいて、私のターンを迎えるってことは……


「おら、お前のターンだ。早くしろ」

「うう、私のターン……ス、スタンバイ……」

「そこだ! 蟲毒の壺の効果発動! ジャイアント・アトラス2体のAPの合計値は7000! よってお前のライフを2つ頂く!!」


 やっぱり!

 カーティスさんのフィールドにある蟲毒の壺が大きく揺れて、再び中から虫達が飛び出してきた。

 対象のモンスターが増えて効果が強化されたためか、今度は虫だけでなく、蛇やトカゲみたいな爬虫類までいた。


「う、うあ……きゃああああ!!」


 来ると判っていても、やっぱり怖い。たじろぐ私に毒虫達は一斉に食らいついてくる。

 たちまち私は全身虫まみれ。

 毒の牙が、針が、爪が全身に突き立てられて、前のターンより遥かに激しい痛みが襲ってきた。


「いぎゃあああ!! あぐあああああ!!!」


 まるで全身を突き刺されるような痛みが身体中に走る。

 さらに酸のような体液をかけられ、焼けつくような痛みも加わった。

 虫達の容赦ない攻撃の前に、私は泣きじゃくって悶え転げる。

 そして、そんな苦しみの中、最大の痛みが襲い掛かる。


「っあああ!! ぐぎゃあああああ!!!」


 ガツンと殴られるような痛みが連続してふたつ。

 効果によってライフがふたつ減らされた衝撃だ。ライフが3から一気に1に減った。


「あぐ……うっ、あううぅ……」


 蟲毒の壺の効果が終わり、虫達は壺の中に戻っていく。

 私は倒れたまま、地面にぐったりと身体を横たえていた。身体が傷つかないのは同じだけど、魔力で形成されているバトルローブは虫達の攻撃でボロボロに破れている。

 全身が痛くて動かない。ライフふたつ分のダメージは刺激が強すぎた。涙が溢れて止まらない。


「い゛いぃ……うあああ……痛いよぉ……!」

「ふふふ、辛いか? 苦しいかぁ? もう降参したらどうだ? どうせ次のターンが回ってくれば、お前の敗北は確定だ。無駄に痛い思いをするくらいなら、さっさと諦めてちまいな!」


 カーティスさんが私を見下ろしていってくる。

 確かにこのターン、ジャイアントアトラスを一体でもフィールドに残してしまえば、次の私のターンのスタンバイフェイズで、再び蟲毒の壺の効果によってライフを奪われて私の負けだ。

 だけどジャイアント・アトラスを破壊することは生半可なモンスターじゃ出来ない。アイリスの効果を使っても、今のままじゃ1体を倒すのがやっとだ。

 カーティスさんのいうとおり、このまま続けても痛い思いをするだけかもしれない。

 痛いのは……やっぱり怖い。


 痛みの恐怖に震えていると、周りから声が上がった。


「もう見てられねえ!! こんなひどいバトル降参しろ、リセ嬢ちゃん!」

「そうだ! あとは俺達大人が戦ってやる!!」


 ゴウシさん達だ。エルちゃんやクルスさん達が宥めて止めているけれど、今にも乱入して来そうな勢いだ。


「カーティス! てめえこんな女の子をいたぶって、恥ずかしくねえのか!!」

「そうだ! 前からひでえやつだったが、ここまでとは思わなかった! さらに見損なったぞ!!」


 カーティスさんを責め立てる声も多く響く。

 だけどカーティスさんは平然としていた。


「ふん、騒ぎたきゃ騒いでろ! だいたい俺はただバトルをしているだけだぜ? きちんとルールを守ってな! それなのにてめえらは俺の何を批判しようってんだ!? あァ!?」

「!!」


 カーティスさんの言葉に私はハッとする。

 ひどい態度や暴力行為はあったけれど、確かにカーティスさんの戦い方自体はルールに則った正式なものだ。痛いのは淀みの魔力のせいだ。


 私はカードバトルが好きだ。この世界に来てからも、バトルは楽しいものだと思ってる。エルちゃんやゴウシさん達とやったような、みんなでわいわい笑っていられるような楽しいバトルをこれからもやりたい。

 だけど淀みの魔力は、バトルをこんな風に痛くて苦しいものにしてしまう。ルール通りに戦っているだけなのに、戦っている私も、見ているみんなも、泣いたり怒ったりして、誰も笑っていない。

 もしも淀みの魔力がここだけじゃなく世界中に広がって、全てのバトルがこんな風になってしまったら? 

 これからバトルする人みんなが、今の私みたいに辛い気持ちになるとしたら?

 そんなのは……嫌だ!


 私は痛みが残る身体を叱咤し、ぐっと足を踏ん張って立ち上がった。


「リセ嬢ちゃん……!?」

「……ありがとう、みんな。もう大丈夫だよ。最後のライフが尽きるまで、絶対に諦めないんだから……!」


 私は強く目を見開いてカーティスさんを見据える。

 そんな私を見て、みんなが固唾を飲んでいた。いや……エルちゃんとクルスさんは最初から変わらない瞳で私を見つめている。ずっと信じてくれてるんだね。私が勝つことを。

 大丈夫、淀みの魔力になんか負けない。このバトルに勝って、楽しいバトルを続けるんだ!

 

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