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蟲毒の恐怖

「俺のターンだ! スタンバイ、ドロー! チャージフェイスで1チャージ!」


 着実にチャージ値を増やしてくるカーティスさん。だけど前のターンに削ったライフの分と合わせてもチャージ値はまだ3。こちらがリードしている。

 そのチャージ値ならアイリス以上のステータスを持つモンスターが出される心配はないだろうし、このターンはまだ安全かな?

 そんな風に楽観的に考えている私に、カーティスさんは不敵な笑みを浮かべて見せた。


「その竜騎士アイリスとやら。確かにすごいモンスターだ。やはりモンスターはレアリティが全てだな」

「むっ、そんなことないよ! こうして早いターンにアイリスを召喚出来たのは、コモンカードのゴロンのおかげ。カードは組み合わせの相性が大事なんであって、そこにレアリティは関係ないよ!」

「ふん、ほざけ! その台詞、俺の最強の切り札を見てからでも吐いていられるか!?」


 カーティスさんが一枚のカードを高く掲げる。そのカードからはどす黒い煙が垂れ流れていた。

 淀みの魔力に侵されたカードだ。まさか、もう出せるの!?


「メインフェイズ! 2コストで俺はジャイアント・アトラスを召喚!!」


 召喚されたのは金属質の赤い外甲を持つ、トラックみたいに大きなカブトムシ型のモンスターだ。

 その巨体を前に私は思わず鳥肌を立てる。ダークビートルも大きかったけど、あれは桁が違う。本当にこんな虫がいたら、私なんかぷちっと踏み潰されてしまいそうだ。


・ジャイアント・アトラス:昆虫族 コスト2 AP3500


 表示されたステータスを見て、私はさらに仰天した。


「コ、コスト2でAP3500!? なにそのインチキモンスター!?」


 アイリスの半分のコストでAPを一回りも上回るなんて!? そんなモンスター今まで見たことないよ!? 

 ゲームバランスが崩れるなんてレベルじゃない!!


「ふふん、驚いたか。俺が新たに手にした切り札のハイレアカード、ジャイアント・アトラスだ。お前のちんけなモンスターなんか軽く踏み潰してやるぜ」

「くっ!」

「と、いいたいところだが。ジャイアント・アトラスには制限効果があってな。このモンスターはスタンド状態でも攻撃宣言を行うことは出来ない。よってこのターン、バトルフェイズは行わない。」

「つまり防御にしか使えないモンスターってこと?」

「ああそうだ。命拾いしたな、小娘」


 だったら一安心。せっかく召喚したアイリスが1ターンでやられちゃうのかと思ったよ。

 だけどホッとしている私にカーティスさんが呼び掛けてくる。


「安心するのは早いぜ! 俺はさらに常駐マジック、蟲毒の壺を発動だ!」

「常駐マジック!?」


 エルちゃんの使っていた幻惑の妖光と同じ、フィールドで効果を発揮し続ける常駐マジックだ。そんなものまで使ってくるなんて!?

 カーティスさんのフィールドに、禍々しい装飾をされた身の丈ほどもある大きな壺が現れる。


「そのカードはどういう効果なの?」

「今に判る。ターンエンドだ」


 尋ねたのに効果を教えてもらえなかった。そういうのはマナー違反なんだけどなぁ。




《ターン終了時》

カーティス:ライフ4 チャージ0/3 手札3

《フィールド》

・ジャイアント・アトラス:昆虫族 コスト2 AP3500 スタンド状態

常駐マジック:蟲毒の壺




 アイリスでも突破出来ない強力な防御モンスターに、未知の常駐マジック。油断の出来ない展開になってきた。

 それでも私は怯まずターンを進める!


「私のターン! スタンバイ、ドロ……」

「おっと待て! お前のスタンバイフェイズで蟲毒の壺の効果が発動だ!」


 バトルリングからカードをドローする寸前、カーティスさんが声を挟んできた。

 ここで発動する効果だったの!?


「蟲毒の壺の効果は、俺のフィールドにいるスタンド状態の昆虫族モンスターの合計AP3000につき、相手のライフをひとつ奪う! 俺のフィールドにはAP3500のジャイアント・アトラスがいる! よってお前のライフをひとつ奪うぜ!!」


 効果の発動と共にガタガタと壺が揺れて、その口からなにかが飛び出した。

 それは虫の大群だった。蜘蛛に百足、蠍に蜂といった毒々しい姿をした虫達が群れを成して私に向かってくる。


「きっ、きゃあああああ!!!」


 そのおぞましい光景に私は思わず悲鳴を上げた。


「ぎゃうぎゃう!」

「ゴロン!」

「ぎゃいん!」


 隣にいたゴロンが勇ましく吼えて追い払おうとしてくれたけれど、あっけなく弾き飛ばされてしまった。うん、ゴロンには虫達を止めるような効果はないもんね。知ってた!


 仰向けで目を回しているゴロンをよそに、虫達は私を取り囲み、足元から身体の上に這い上がってくる。私の全身はあっという間に虫達によって真っ黒に埋め尽くされてしまった。


「きゃあああ! うぐっ、痛いっ! やだ、噛まないでえ! ああああっ!!」


 虫の牙が、針が、一斉に突き立てられる。

 素肌を晒した箇所だけでなく、服の上からでもお構いなしに咬みつき、針が突きたてられる。まるで本物の毒虫に咬まれたみたいに、ジンジンとした痺れるような痛みが全身に走った。


「あぎっ、ああァ……うぐうう……!」


 痛みに耐えかねて、私は地面を転げ回る。手足をばたつかせて必死に虫達を振り払おうとするけれど、そんなことでは虫達は離れない。

 これはカードの効果によって生まれた幻なのだ。だからいくら暴れて逃れようとしても、カードのエフェクトが続く限りは無駄な足掻きなだ。

 それが判っていても、虫が肌を這うおぞましさと噛み付かれる痛みで、身体は勝手に悶え続ける。


「ふふふ、いい様だ。さあ、ライフを貰うぜ!」


 瞬間、私の身体を激しい衝撃が襲った。


「あぐうぅぅぅぅ!!!」


 まるでバットで殴られたような痛みが身体を突き抜けた。私は仰け反って悲鳴を上げる。

 ライフを奪われた衝撃だ。私のライフが5から4に減った。


「あっ……かはっ……!」


 ライフが減ると、虫達は去っていく。蟲毒の壺の効果がようやく終わったようだ。


「うぐぅ……ぐすっ……うぇぇ……痛いよぉ……っ」


 全身の痛みに私は涙を流してしまう。

 カードの効果だから実際に傷を負うわけじゃない。だけど身体の芯から響くような鈍痛があちこちに残っていた。

 これはモランドさんと戦ったときと同じだ。淀みの魔力に侵された相手とのバトルで与えられたダメージは、通常のバトルで受けるものよりも遥かに痛くて後を引く。たったひとつライフを減らされただけで、立ちあげるのも辛いほど身体が悲鳴を上げていた。


「リセ嬢ちゃん……」

「ひ、ひでえ……あんな小さな子に……!」


 周りで見ていた人達が心配そうに呟いている。そんな中で一際大きな声を上げる人がいた。ゴウシさんだ。


「おいエルお嬢さん! リセ嬢ちゃんを助けなくていいのかよ!? さっきのカーティスの力といい、こんなの普通のバトルじゃねえぞ!」

「私だって助けてあげたい気持ちは山々です。ですがバトルが続いている以上、私達には手出しをする権利はありません。リセさんを信じて応援するしかないのです」

「……くそっ! なにも出来ないっていうのかよ!」

「大丈夫です。リセさんの力はこんなものではありません。真の実力を見せないうちに諦めて倒れてしまうことはないはずです」


 エルちゃんの言葉が胸を打つ。

 そんなこといわれたら、へこたれてなんかいられない。まだまだ手札もライフも残ってるもんね。


「うぅ……ま、負けない……! ドローフェイズ、ドロー! 1チャージ追加!」


 私は痛みを堪えて立ち上がり、ターンを進める。

 起き上がったゴロンが私のことを心配そうに見上げてくるから、にっこり笑いかけて安心させた。この子だってまだ一緒に戦ってくれるもんね。そう思うとちょっと元気が湧いてくる。

 メインフェイズに入る前に、私は改めてカーティスさんのフィールドを見据えた。


「あなたのその戦術……ロックバーン使いだったんだね」

「ああ、その通りさ。俺のデッキはカード効果によって相手のライフを奪うバーン型だ。お前の攻撃を凌ぎつつ、これからもネチネチとライフを削ってやるぜ」


 ロックバーンとはカードゲームにおける戦術のひとつで、防御を固めて相手の動きを封じつつ、戦闘を介さないカード効果によるダメージで相手に勝利する戦法だ。

 カーティスさんはAPは強力だけど攻撃は出来ないジャイアントアトラスと、本来なら効果の使用に高コストのモンスターが必要な蟲毒の壺とを上手く組み合わせて、最大の効率で私にダメージを与えてきた。

 このコンボを崩すのは普通だったら容易ではない。

 普通だったらね。


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