裏庭のバトル
カードショップの裏手には広い庭があって、そこで実体バトルを行えるらしい。お店がバトルリングの貸し出しをしていて、今日も何組かのお客さんが庭でバトルをしていたそうだ。
それを聞いたあと、先に出ていったカーティスさんに続いて私も出ていったのだけど……
「なにやってるの!?」
店を出てすぐに目に入った光景に、私は思わず声を荒げた。
先に出たカーティスさんが、外にいた人達に暴力を振るっていたのだ。
「ああん? ここにいた野郎共が、なにがあったんだとかさっきの音はなんだとかぎゃーぎゃーうるさく聞いてきたから黙らせただけだよ。邪魔くせえったらありゃしねえ」
「ひどい……大丈夫ですか!?」
私は倒れている人達に声をかける。
きっと中の騒動に気付いて、事情を尋ねただけなのだろう。それなのに店内のお客さん達みたいにやられてしまったんだ。痛そうに呻いている。
「うぅ……なんなんだ、奴は……」
「詳しいことは後で話すから、今は安全な場所まで離れてて。大丈夫。あの人は私が止めるよ」
「君のような幼い子が……!? む、無理だ……危険だ……!」
「大丈夫、私に任せて」
店内から出てきたエルちゃん達に介抱をお願いして、私は悪びれもせず立っているカーティスさんと対峙する。
ちょっと目を離しただけでこんなことになるなんて。やっぱりこの人は私が止めなきゃ駄目だ。
「ククク、ぴいぴい泣かせてやるぜ? 聖女ごっこのお嬢ちゃんよ」
「ごっこじゃなくて本物だよ。さあ、バトル開始だよ!」
「望むところだ! バトルリング、起動!!」
「グランデュエラーズ!」
「スタンバイレディ、ファイト!!」
リングからバトルフィールドが展開して、私はバトルローブを身に纏う。
私とカーティスさんの戦いが始まった。
リングからバトルボードを展開し、6枚の手札を手に対峙する私達。それをお店から出てきたエルちゃんやクルスさん、ゴウシさん達が見守る。
始まってしまったバトルはもう周りの誰にも止める権利はない。対戦者である私達のどちらかが降参するか、決着をつけるかだ。
「先攻は貰うよ! 私のターン、チャージフェイズで1チャージ! メインフェイズにドラゴロンを召喚!」
私はチャージゾーンに置いたカードをタップして、1ターン目からモンスターを召喚する。
デッキに入りたてほやほやの新モンスター、ドラゴロンのゴロンだ。早速手札に来てくれた。
「よろしくね、ゴロン!」
「ぎゃう!」
呼び掛けると、ゴロンは丸い身体を奮わせて雄々しく吠える。ちっちゃくても、バトルフィールドに立てば頼もしく見える。。
・ドラゴロン:ドラゴン族 コスト1 AP100
ドラゴロンのステータスが表示される。
それを見てカーティスさんは不快そうに眉を潜めた。
「なんだぁ? そいつは俺が捨てたクズのコモンカードじゃねえか? そんな雑魚モンスターをデッキに入れてるなんて、舐めてんのか?」
「舐めてないよ。レアリティは関係ない。ゴロンは私のデッキにとって本当に必要な仲間だから入ってるんだよ」
「けっ、きれいごと抜かしやがって! おら、ターンエンドしろよ! もうなにも出来ないだろうが!」
「言われなくても。ターンエンド」
先攻1ターン目はバトルは行えないし、チャージゾーンのコストも残っていない。
このターン、私にやれることは残っていないけれど、そんな風に急かされるとムッとしてしまう。私は不愉快な気持ちでターンを終えた。
《ターン終了時》
リセ:ライフ5 チャージ0/1 手札4
《フィールド》
・ドラゴロン:コスト1 ドラゴン族 AP100 スタンド状態
「俺のターンだ! スタンバイ、ドロー!」
カーティスさんのターンだ。果たしてどんなモンスターを出してくるんだろう?
そんな場合じゃないのは判っているけれど、ちょっとワクワクしてしまう。
「チャージフェイズで1チャージ追加! そして……ダークビートルを召喚!!」
カーティスさんが繰り出したのは、バレーボール大の大きなカブトムシのモンスターだった。
ブーンと羽をはためかせ、空中に浮遊している。
・ダークビートル:昆虫族 コスト1 AP300
「昆虫族モンスター! 虫使いだったの?」
「そうさ。そんなカスドラゴンなんざ、俺の昆虫モンスターで食らいつくしてやるぜ!!」
カーティスさんの声に応えるように空中を旋回するダークビートルの姿に、私はちょっとだけ悪寒を感じた。
実体化した昆虫モンスターって、ちょっと不気味かも……。いやいや、今はバトル中だ。そんなこと気にしてなんかいられない。
「バトルだぜ! ダークビートルで攻撃!!」
バトルフェイズに入ってカーティスさんは私に向けて攻撃してくる。黒光りする角を向けてまっすぐ飛んでくるダークビートル。
私はドラゴロンのカードをタップした。
「ドラゴロンで防御! 守って、ゴロン!!」
フィールドに立っていたゴロンがダークビートルの前に立ち塞がる。
ゴロンは大きく飛び上がってダークビートルに激突した。だけどAPは向こうが上。あっけなく弾き飛ばされてしまう。
「はははっ! 勝てねえ勝負を挑ませるとは! そんなにライフを減らされるのが嫌か!! それともお嬢様は虫が嫌いだったかぁ?」
カーティスさんが勝ち誇ったように笑う。
ゴロンで防御したのはライフを守るためだけじゃない。虫が怖かったからでもない。ゴロンの力を活かすためだ。
「ドラゴロンの効果! バトルフィールドで破壊されたこのカードはチャージゾーンに置かれる! さらにこの効果によってチャージゾーンに置かれたこのカードは、モンスターを召喚する際2コスト分として扱う!」
私は手元のドラゴロンのカードを捨て札にはせずチャージゾーンに移動させる。
するとダークビートルにやられて目を回していたゴロンもハッと目を覚まして起き上がり、トコトコ駆け寄って私の隣にお座りした。
「ゴロン、まだまだ一緒に戦ってくれるよね?」
「ぎゃう!」
バトルでやられてもフィールドに残り、共に戦ってくれる。とても頼もしい子だ。
「コモンのクズカードにそんな効果があっただと!? くっ、くそう!」
「レアリティやAPの高さだけがカードの価値じゃないよ! 見ての通りゴロンはすごいんだから!」
「うるせえ! ターンエンドだ!!」
吐き捨てるようにターン終了を宣言するカーティスさん。ここにきて初めてくやしそうだ。
《ターン終了時》
カーティス:ライフ5 チャージ0/1 手札5
《フィールド》
・ダークビートル:昆虫族 コスト1 AP300 レスト状態
お互いのターンを終えて、周りで見ていた人達がざわつきだした。
「おい……これどっちが優勢なんだ?」
「モンスターのバトルはカーティスが勝ったが、それもリセ嬢ちゃんの手の内みたいだったぜ」
「あの子本当に聖女様なのか……?」
戦いはまだまだ序盤。勝負はこれからだね。
「私のターン! スタンバイ、ドロー! チャージフェイスで1チャージ追加!」
二回のチャージフェイズで配置した2枚と、ゴロンの効果で私のチャージ値は合計4。
これだけあれば早速このカードが出せる!
「メインフェイズいくよっ! 竜の御霊をその身に宿し、白刃閃き闇を断つ! 顕現せよ神の力! 竜騎士アイリス、召っ喚!!」
私が呼び出したのはゴッドレアカード竜騎士アイリスだ。
白銀の鎧を纏った少女騎士が、今日も優美なオーラを纏って舞い降りる。相変わらず惚れ惚れするような神々しさだ。
・竜騎士アイリス:戦士族 コスト4 AP2500 SP1
ゴロンの効果のおかげでわずか3ターン目からコスト4のアイリスを出すことが出来た。私のデッキの速効性が上がっている証拠だ。
召喚されたアイリスの姿を見て、カーティスさんは目を見開いて驚愕していた。
「竜騎士アイリスだと……!? こんなカード見たことねえぞ!? ハイレア……いやそれ以上か!?」
「そうだよ! アイリスは神様が授けてくれた世界にたった一枚のゴッドレアカード! このカードの力で、あなたの暴走を止めて見せる!!」
「ちっ、なるほど。聖女ってのはフカシじゃなかったってことか……!」
どうやら私の言葉を信じる気になってきたみたい。
カーティスさんは悔しそうに歯噛みした。
「バトルフェイズ! 竜騎士アイリスでダークビートルに攻撃! ドラゴニック・ソウル・スラッシュ!!」
攻撃宣言をすると、アイリスが剣を抜いてカーティスさんのダークビートルに飛びかかる。閃光が走ったような鋭い斬撃で、ダークビートルを真っ二つに切り捨てた。
「ダークビートル!!」
「モンスターストライク! SPを持つアイリスがモンスターを破壊したことで、カーティスさんのライフを一つ貰うよ!!」
そしてSPの効果でカーティスさんにもダメージを与える。アイリスの剣から衝撃波が飛んでカーティスさんの身体を貫いた。
「ぐわあああっ!!」
カーティスさんは悲鳴を上げて膝をつく。ライフが5から4に減った。
「おおっ! リセ嬢ちゃんがリードしたぞ!!」
「ゴッドレアカードだって!? あんなすげえモンスター見たことねえ!?」
「とにかくこの調子なら勝てるぞ! がんばれリセ嬢ちゃん!!」
アイリスの活躍に周りの人達も興奮気味だ。私はピースサインで応える。
「私はこれでターンエンドっ! さあ、次のターンどうぞ!」
《ターン終了時》
リセ:ライフ5 チャージ0/4 手札3
《フィールド》
・竜騎士アイリス:戦士族 コスト4 AP2500 SP1 レスト状態
アイリスの効果でモンスターもライフも奪い、盤面は私がリードした。だけどカーティスさんもまだまだ手の内を見せてはいない。さあ、どうくるかな?




