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カーティスの恨み

今回はサブキャラ視点です。

 俺の名はカーティス。この王都に住むカードバトラーだ。といってもバトルで食っているわけじゃない。カードバトルが出来るってだけの、ごく一般的な労働者だ。

 もちろんカードバトルだってただの趣味でやってるわけじゃない。俺の夢はこのバトルの腕で、いつか城仕えの王宮カードバトラーや貴族や商会に雇われる専属カードバトラーになることだ。

 いまはただ運が悪くてそれらの仕事に就けず、食っていくために仕方なく別の場所で働いているに過ぎない。

 いわばカードバトラーの予備軍なのだ。


 そんな俺だが、近頃はどうも調子が奮わない。

 カードショップに通ってバトルをしてみても勝率が上がらないし、デッキを強化しようと魔法石を買ってみてもいまいち良いカードは手に入らない。故郷の村では一番の強者として幅を効かせていた俺だが、この町ではどうも平凡かそれ以下の腕でしかないように見えてしまう。


 原因はだいたい判っている。それはレアカードが無いからだ。

 俺も以前はデッキのエースモンスターと呼べるレアカードを持っていたんだが、酒場へのツケを払うために泣く泣く売ってしまった。それ以来、負けが増え始めた。


 レアカードなんか無くても構築やプレイングをしっかり練っていれば勝てる。そう考えてたのが甘かった。

 所詮カードバトルは強力なレアカードを持っている奴が強いんだ。レアカードを失って、そのことを思い知った。

 だけど金も運もない俺にはレアカードなんてもう一枚も手に入りはしない。シングル売りのカードは高すぎて手が出せないし、魔法石からもレアカードは一向に出ない。ゴミみたいなコモンやダブりのアンコモンのカードばかり増えていく。

 所詮俺みたいな貧乏人じゃ、レアカードをたくさん持ってる金持ちのデッキには勝てないんだ。

 そんな厳しい現実にイライラが積もって、俺は荒れていた。

 今日も朝から酒に浸り、カードショップを訪れては馴染みのカードバトラー達にくだを撒いていた。


「所詮カードはレアリティが全てなんだよ! レアカードを持ってるかどうかで勝負が決まるんだ」

「そんなことないだろ。落ち着けよカーティス。ほら、デッキの構築を見直してみようぜ」

「うるせぇ! カスカードを抜き足ししてなんになる! なにも変わりゃしねえよ!!」


 バトルスペースの片隅で知り合いのバトラーに当たり散らしていると、新たな客が店に入ってきた。

 地味だが高そうな服を着た女のガキが二人と、いけすかない長身の男が一人。どっかの金持ちの娘とそのお守りってところか。


「すごい! 本当にカードショップだ! バトルスペースもある!」


 どうやらカードショップを初めて訪れたらしく、どこか田舎者くさいガキが浮かれた様子でキョロキョロと店内を見渡している。

 ショップの店員もそいつらに目を着けたらしい。俺達貧乏人には決して取らないような丁寧な態度で店の案内をし始めた。

 恐らく金持ちの娘が道楽でカードバトルを始めようとしてるとか、そんなのだろう。見ていて腹が立つ。


「けっ、金持ちのお嬢様かよ。いいよなあ。シングルでカードが買えて。こっちはなけなしの金で安いクズ魔法石からカードを漁ってるってのによ」


 腹に渦巻く黒い感情を言葉にして吐き出す。それを聞いたら、騒いでいたガキはしゅんとなって大人しくなった。いい気味だ。

 そこで大人しく帰っていればいいものを、そいつらは魔法石も買っていきやがった。しかもそれからハイレアカードが当たったとはしゃいでいやがる。


 ハイレアだと!? 俺が何度魔法石を買っても出なかったハイレアカードを、たまたま気まぐれで買っただけのガキが一発で引き当てたというのか!? 


 憎々しげに視線をやれば、はしゃぐガキにつられて店内にいた他の連中も楽しげに騒いでいた。


 なにやってるんだ、あいつら! 金持ちのガキにせっかくのハイレアカードが取られちまったんだぞ!! 喜んでどうする!!

 俺は思わず叫んだ。

 

「けっ! なに喜んでやがるんだ! そいつが来なかったら、いまごろ俺達がそのハイレアを引き当ててたかもしれねえんだぞ! 金持ちのくせに魔法石なんか買いやがって! 金があるならシングル買いしてろってんだ!!」


 俺の声にガキどもや客達が注目する。一緒にいたやつが俺を宥めてくるが、俺の怒りは収まらない。


「俺が汗水垂らして働いた金で当てたのなんてこんなクズカードだぞ!? 結局金持ち以外はカードバトルするなってことかよ! くそっ!!」


 俺はポケットに入れていたカードを取り出して、床に投げ捨てた。なけなしの金で買ったレガシィ魔法石から出てきた、ただのコモンカードだ。持って帰ることすら癪なのでここで捨ててしまった。

 すると騒がしいガキが駆け寄ってきた。


「なんてことするの!?」


 ガキは俺が捨てたカードを拾って丁寧に埃を払う。

 その姿にまたイラッときた。


「なんだぁ? 金持ちのガキがそんなカードを欲しがるのか? くれてやるよ。ありがたく拾いな、オラッ!」

「きゃっ!」


 しゃがんでいたガキの背中を軽く蹴飛ばしてやる。ガキは転んで悲鳴を上げた。

 へへっ、いい気味だ。

 すると護衛の男が俺に詰め寄ってきた。


「貴様、なんということを!!」


 男はものすごい形相で俺の胸ぐらを掴んできやがる。引き剥がそうにも凄い力で離れやしない。

 男の怒りっぷりからするに、このガキはかなり身分の高いお嬢様だったらしい。

 今にも殺さんばかりの男に俺が怯えていると、なぜか蹴飛ばしたガキがその場を取り成して助かった。

 しかし男の怒りは収まらなかったので、俺はすたこらと逃げるようにカードショップを後にした。




  カードショップを出た俺は、すっかり意気消沈してとぼとぼと家に向かった。冷や汗か、それとも少しちびってしまったか、なんだか湿っぽい気がする股ぐらを気にしながら歩いていると、次第にみじめな気持ちになってきた。


 どうして俺がこんな目に? 俺がなにをしたというんだ!?


 俺はなにも悪くない。悪いのは俺にレアカードを与えないこの世界だ。

 貧乏人が負け続け、金持ちだけが勝ち続ける、そんな世界の在り方が間違ってるんだ!


「レアカードさえ……レアカードさえあれば……!」


 俺はうわごとのように呟く。

 そんな俺はよほど不気味に見えるのだろう。周りにいる奴らはこぞって俺を避けるように歩いていた。

 そんな中、俺の前に何者かが立ち塞がる。


「……なんだぁてめえ! どきやがれ!」

「兄さん、レアカードが欲しいのかい」


 外套に身を包み、フードを深く被ったそいつは、男とも女とも取れない声でそういった。

 

「んだと?」

「レアカードが欲しいならついてきな。とっておきがあるんだ」


 そいつは路地裏へと歩いて行く。実に怪しい雰囲気だったが、俺はなんだか興味を惹かれて、そいつについていった。

 人目につかない位置まで来ると、そいつは懐からなにかを取り出した。

 それは魔法石だった。それも見たことのない黒い魔法石だ。


「なんだ? モダンでもレガシィでもない。こんな魔法石があったのか?」

「とっておきだっていったろ。他じゃお目にかかれない代物さ」

「面白そうだが……生憎と金がねえ。カモにするなら別の奴を探しな」

「金なら要らないよ。その魔法石があんたをどんな運命に導くのか。それを見せて貰えれば十分だ」


 そいつは俺に魔法石を強引に押し付けると、そのまま路地裏から出て町中へ去っていった。本当に金もなにも受け取らなかった。

 なんだったんだ……? まるで白昼夢でもみたような感覚に陥ったが、俺の手には魔法石が確かに残されている。

 怪しげな奴だったが、とりあえず魔法石は魔法石だ。くれるというものなら、ありがたく貰ってしまおう。


「期待はできねえが、とりあえず開封っと」


 魔法石の中身を確認してみる。すると中から出てきたのは、4枚全てがハイレアカードだった。


「な、なんだこれ!? すげえ! ハイレアカードが4枚も!! しかも俺のデッキにぴったりのカードばかりじゃねえか!!  はははっ! すげえ!! すげえっ!!」


 俺は歓喜に震えた。これだけのハイレアカードがあれば誰にも負けやしない。

 きっとこれは頑張っている俺に神様が与えてくれた贈り物だ。俺にやっと運が向いてきたんだ!


 俺はカードを懐に入れた。持って帰ってデッキに組み込むんだ。一瞬、カードから黒い霧のようなものが出ていた気がしたが、恐らく気のせいだろう。

 レアカードさえあれば俺は最強だ。なんだか気分が昂って、胸の中に自信が満ち溢れていく。今なら誰にも負ける気がしない。俺を馬鹿にした金持ちどもも、暴力を振るってきたあのいけすかない男も軽くぶっ倒せそうだ。

 今まで見ていた世界が、すごくちんけなものに見えてきた。


「待ってろ金持ち共! それに貧乏人のクズバトラー! 目にものみせてやるぜ。俺様の本当の力でよ! はっはっは!!」


 暗くて狭い路地裏に、俺の笑い声が響いた。



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