ドラゴンライド
私の反撃もかわして、万全の態勢でターンを終えたエルマ姫。だけどその表情はなんだか悔しげだった。
「このターンで決めるつもりだったのですが、凌がれてしまいました。聖女様は本当にお強いのですね」
「それはお互い様だよ。私もアイリスのバトルで勝てると思ったのに、あれに対応されるなんて思ってなかった」
「対抗マジックを運良くドロー出来たおかげですわ 」
「運を呼び込んだのは、サラマンドラとティターニアの効果を上手く使ったお姫様のプレイングだよ」
「お褒めに預り光栄ですわ」
まさに一進一退の攻防。エルマ姫とのバトルは本当に心が燃える。
エルマ姫も同じ気持ちみたいだ。その表情は優雅な笑みからわくわくと楽しげな笑顔になっていた。
「私、こんなに楽しいバトルは初めてです。もっと楽しみたいのですが、次のターンが勝負の分かれ目でしょう。さあ聖女様、どうぞおいでくださいまし」
「うんっ! 私のターン、スタンバイ、ドロー!!」
私はドローしたカードをゆっくりと確認する。
このカード次第で勝敗が決する。さあ、なにが来てくれた?
「っ……よし!! 最高のカードだよ!! お姫様、悪いけどこのバトル勝たせて貰うよ!!」
「あらあら。バトルの前に勝利宣言ですか。一体どんなカードを引いたのですか?」
「いま見せてあげるよ!」
私はカードを高らかに掲げて使用する。
「マジック、竜魂乱舞を使用! この効果で捨て札にいるドラゴンを一体、フィールドに復活させる!! 私はブレード・ドラゴンを甦らせるよ!!」
マジックカードから二つの火の玉が飛び出し、二重螺旋を描いて空中でぶつかって弾ける。その爆炎の中からブレード・ドラゴンが現れて地面に降り立った。
「おかえり、ブレード・ドラゴン!!」
・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 AP2000
これでブレード・ドラゴンとアイリス、二体の私のエースが再び並び立った。
「ブレード・ドラゴンですか。確かに強力なモンスターですが、それだけでは私のライフを奪うには足りません。どうするおつもりですの?」
エルマ姫のいうことはもっともだ。盤面はお互い二体ずつで互角だし、アイリスのSPの効果も相手のAPを下げるティターニアの効果の前では無力。二体が並んだだけじゃエルマ姫のライフには届かない。だけど二体だから出来ることがある!
「竜騎士アイリスの効果を発動するよ! このカードはコスト4以上のドラゴン族モンスターに重ねて装備カードにすることで、そのモンスターに自身のAPとSPを加算出来る!」
そう、ゴッドレアカード竜騎士アイリスの隠された効果だ。
「ブレード・ドラゴン! アイリス! いまその力を一つに! ドラゴンライド!!」
私はブレード・ドラゴンのカード上にアイリスのカードを重ねる。
するとフィールド上のアイリスも高く跳躍しブレード・ドラゴンの背中に飛び乗った。
これが竜騎士であるアイリスの真の姿。真の力を解放した姿だ。
・ブレード・ドラゴンwithアイリス:ドラゴン族 AP4500 SP1
「なっ……AP4500!? なんてステータスですの!?」
さすがのエルマ姫もこれには驚きを隠せなかったみたいだ。
AP4000超えなんてそうそうお目にかかれるものじゃない。コスト6以上の大型モンスターだって滅多にいない。だけどアイリスは強力なドラゴン族モンスターと組み合わせることで、それをあっさり超えることが出来るのだ。
しかもSPも追加されているので、モンスターを倒せばエルマ姫のライフが奪える。
これが私の掴んだ勝利への道だ!
「バトルフェイズ! アイリスを乗せたブレード・ドラゴンで攻撃!! いっけえぇぇぇぇ!!!」
アイリスを乗せたブレード・ドラゴンがお姫様に向かって突進する。
「くっ、ティターニア! 守って!」
エルマ姫はその攻撃をティターニアで防御する。
ティターニアの効果でブレード・ドラゴンのAPが半減させられるが、それでもAPは2250でこちらが上だ。
魔法の障壁を展開するティターニアに、ブレード・ドラゴンとアイリスはその角と剣を同時に突き立てた。ブレード・ドラゴンの角が障壁を貫いて、アイリスの剣がティターニアを斬り伏せる。ティターニアは光になって弾けて消えた。
「そんなっ、ティターニアが……!」
「モンスターストライク! お姫様のライフを貰うよ!!」
ティターニアを破壊したことでSPの効果が発動。アイリスの剣から衝撃波が放たれる。
エルマ姫は衝撃波によって吹き飛ばされた。
「きゃああっ!!」
倒れると同時にお姫様のライフが0になる。
これで勝負が決まった。私の勝ちだ! ……って喜んでる場合じゃない!
「エルマ姫!」
「なんということだ!!」
ギャラリーのみんなが吹き飛ばされたエルマ姫を見て慌てていた。
そりゃ一国のお姫様が吹っ飛ばされるなんて大ごとだ。流石にSPの効果まではお姫様を気遣ってくれないみたい。
「お姫様! 大丈夫!?」
私は慌ててエルマ姫に駆け寄る。
心配する周りを他所にエルマ姫はすんなり身を起こし、照れ臭そうに頬を掻いた。
「いたた。バトルで痛みを味わうのは久しぶりですわ」
「ごめんね。大丈夫だった?」
「ええ。むしろ清々しい痛みですわ。これが実体バトルの醍醐味なのだと思い出しました」
そういって笑うエルマ姫。良かった。怪我もないし怒ってもいないみたい。
エルマ姫は立ち上がると軽くスカートを叩いて、私にすっと手を差し出してきた。
「聖女様の実力、とくと見せて頂きました。ゴッドレアカードにあんな効果もあったなんて。私の完敗ですわ」
「うん、ありがとう。お姫様もすごく強かったよ。アイリスがいなきゃきっと勝てなかった」
私はエルマ姫の差し出した手を握り返す。お互いの健闘を讃える握手だ。本当にいいバトルだった
ギャラリーの誰かがパチパチと拍手をすると、それは周りに広がって拍手の大雨となった。
「すごく楽しかった。またやろうね。お姫様」
「ええもちろん。それと私のことはエルとお呼びください。親しい者はそう呼びますわ」
「判ったよ。じゃあエルちゃんって呼ぶね。私のこともリセって名前で呼んで」
「ええ、リセさん」
最後まで楽しいバトルだったし、エルマ姫……エルちゃんとも仲良くなれた。
すごく嬉しい気持ちでいっぱいだ。アイリスやブレード・ドラゴン達も、心なしか満足そうな顔で消えていった。
「終わりましたね、聖女様。さあ、ダンスのレッスンの続きに戻りましょう」
そんな余韻を蹴飛ばすように、ゾラさんが私に呼び掛けてくる。
……忘れてた! これがあったんだった!
「大変素晴らしいバトルでした。同じようにダンスも完璧に仕上げましょうね」
なんかバトルの前より燃えてるし!? 白熱のバトルがゾラさんの教育魂にも火を点けちゃったの!?
私は観念しては~っと息を吐く。
「わ、判ったよう……ゾラさん。ご指導よろしくお願いします」
「あら? 随分と素直ですね。嫌がって駄々を捏ねるかと思いましたが」
私もバトルが始まる前まではそうしたかった。だけど……
「エルちゃんの仕草がすごく優雅でかっこ良かったから。私もあんな風に出来たらなあって思って」
私だって女の子だ。せっかくきれいなドレスを着るのなら、それに見合う振る舞いをしたい。
エルちゃんのようなお手本を見せられたら、なおさらそう思う。
「ふむ。エルマ様の立ち振舞いが良い刺激になったのですね。やる気を出して貰えて私も嬉しいです」
私がやる気を見せたことでゾラさんもほんのりご機嫌だ。ちょっとは優しくしてくれるといいなぁ。
苦笑いする私にエルちゃんが声をかけてくる。
「リセさん。よかったら私もお付き合い致しますわ。苦手なところがあればお教えしましょう」
「本当? いいの?」
「ええ。一緒に頑張りましょう」
ダンスのレッスンもエルちゃんと一緒なら、一人よりも楽しいかも。
いきなりお姫様みたいには無理だろうけど、ちょっとずつ覚えていこうと思う。
聖女らしい振る舞いをね。