白熱するバトル
「私のターン! スタンバイ、ドロー! 1チャージ追加!」
スタンバイフェイズにレスト状態だったピコドラがスタンド状態に戻って立ち上がる。
前のターンのダメージでチャージ値は増えたけど、いまの手札はちょっと貧弱。だから、このターンの動きはこれだ!
「 メインフェイズ! コスト2のマジック、竜の秘宝を発動! 手札のドラゴン族モンスター一体を捨て札にして、デッキから2枚ドローする!」
マジックの効果で手札を交換。デッキを掘り下げる。
「まあ、そんなマジックも使われるのですね」
「うん。手札の補強は基本だからね」
「素晴らしいですわ。未熟なバトラーの中にはモンスターの強さばかりにこだわってマジックの使用を疎かにする者もいますが、デッキ構築はモンスターとマジックのバランスが大事ですものね」
エルマ姫が呟くと、ギャラリーのカードバトラーの何人かが顔を逸らしていた。心当たりがある人達かな?
さて私が新たに引いた2枚のカードは……よし、いい感じ!
「手札のブレード・ドラゴンの効果を発動! 自分フィールドのモンスターが合計コスト2以下だから、このモンスターはコストを半減して召喚するよ!」
私が引いたのはこのデッキの頼れるアタッカー、ブレード・ドラゴンだ。
この子が出せたなら戦局はかなり有利になる。
「その鋭い剣角に断てぬものなし! ブレード・ドラゴン召喚!」
召喚口上を高らかに唱えてブレード・ドラゴンをフィールドに呼び出した。
刃のような角を額に生やした青い大きなドラゴンが、大地を踏みしめて咆哮を上げる。
くう~、かっこいい!
「また会えたね、ブレード・ドラゴン!」
・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 コスト4 AP2000(能力制限中)
「モランドとの戦いでも出していた青いドラゴンですわね。なんと雄々しく凛々しい姿でしょう」
「えへへ、ありがと! お姫様にそういってもらえて、ブレード・ドラゴンも喜んでるよ」
ドラゴンの表情は分からないけれど、どこかブレード・ドラゴンは誇らしげに見える。
大好きなドラゴンを誉められて私も嬉しい。
とはいえ手加減はしないよ!
「バトルフェイズ! ブレード・ドラゴンでノームに攻撃!」
効果を使って召喚したので、ブレード・ドラゴンは能力制限によりエルマ姫に直接攻撃してもライフを減らせない。
だからレスト状態のノームを破壊しにいく。
ノームに肉薄して、頭の角を勢いよく振り下ろすブレード・ドラゴン。ノームは棍棒を振りかぶって迎え撃つが、棍棒ごとあっさり斬り裂かれて消滅した。
「よしっ!」
「ノームの効果発動です。破壊されたノームは、レスト状態でチャージゾーンに置かれます」
ブレード・ドラゴンの勝利を喜ぶ私に、エルマ姫がすかさず宣言する。ノームのカードは捨て札にならず、フィールドのバトルゾーンからチャージゾーンへと移動した。
ノームにもミニザードみたいな効果があったんだ。やられた。
「うふふ、今度は私が聖女様を謀ってさしあげましたわ」
「くっ……まだまだいくよ! ピコドラでお姫様に攻撃!」
「どうぞおいでまし」
ピコドラはジャンプしてエルマ姫の差し出す手のひらに鼻先でちょこんとタッチ。優しくライフを減らして満足そうに戻ってくる。
……やっぱりなんか納得いかない。
「……ターンエンド」
《ターン終了時》
リセ:ライフ4 チャージ0/4 手札2
《フィールド》
・ピコドラ:ドラゴン族 コスト1 AP500 レスト状態
・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 コスト4 AP2000 レスト状態(能力制限中)
「私のターン。スタンバイ、ドロー」
エルマ姫の相変わらず優雅なドローに私は身構える。お互いチャージ値も増えてきて、そろそろ大きな動きがあってもいい頃だ。
エルマ姫は手札を眺めて少し考え込むと、よしっと頷いて私に瞳を向けた。
「チャージフェイズはスキップしてメインフェイズに入ります。コスト3の炎精サラマンドラを召喚」
エルマ姫が新たに召喚したモンスターは、炎を纏った大トカゲだった。
・炎精サラマンドラ:妖精族 コスト3 AP1200
私のドラゴンと似ているけど、あれも妖精族のようだ。メラメラ燃えててかっこいいし、ドラゴンだったら私もデッキに入れたかったな。
「さらに追加でノームを一体召喚」
ノームも新たに召喚された。
炎と土と風の3体の妖精がエルマ姫のフィールドに並び立った。
「さらに私はフィールドに三種の妖精が揃ったことで常駐マジック、幻惑の妖光をノーコストで発動します」
「常駐マジック!?」
常駐マジックとは普通のマジックカードと違い、フィールドに残り続けて効果を発揮する強力なカードだ。しかも私のブレード・ドラゴンと同じように、条件を満たすことでコストを軽減して発動出来るタイプらしい。
「そのマジックはどんな効果なの?」
「幻惑の妖光が発動している間、相手は私のフィールドの妖精族モンスターを指定して攻撃することが出来ません。狙いは全て私自身となります」
「それは……なかなか厄介なカードだね」
エルマ姫の説明を訊いて私は唸った。
モンスターを指定できないということは、逆にこちらの攻撃は全て相手が好きなように防御出来るということだ。
私が弱いモンスターで攻撃しても、より強いモンスターに防御されて返り討ちに遭う羽目になる。
これでは下手な攻撃が出来なくなった。
「バトルフェイズです。シルフ、ノーム。聖女様を攻撃です!」
シルフとノームが私に向かってくる。
「いたっ……! ぎゃんっ!」
シルフの嘴に頭を突かれ、ノームの棍棒でお尻を叩かれる。
だから痛いってば! 私にも優しくして!?
「これにてターンエンドです。うふふ、これで逆転しましたわ」
《ターン終了時》
エルマ:ライフ3 チャージ5 手札1
《フィールド》
・炎精サラマンドラ:妖精族 コスト3 AP1200 スタンド状態
・土精ノーム:妖精族 コスト2 AP800 レスト状態
・風精シルフ:妖精族 コスト1 AP500 レスト状態
常駐マジック:幻惑の妖光
エルマ姫の宣言通り、ライフも盤面も追い越されてしまった。
そして案の定、一番APの高いサラマンドラは待機させたままだ。エルマ姫のバトル運びは本当にうまい。
「私のターン! スタンバイ、ドロー! チャージフェイズに1チャージでメインフェイズに入るよ」
とはいえ勝負はまだまだこれからだ。エルマ姫は強いけど、私だって負けてられない!
「メインフェイズ! 追加コストを支払ってブレード・ドラゴンの能力を解放!」
まずは2コストでブレード・ドラゴンの能力開放。これでブレード・ドラゴンも相手のライフを減らせるようになった。さらに残りの4コストを全て支払い、さっき手札に来てくれたこのカードを召喚する。
「竜の御霊をその身に宿し、白刃閃き闇を断つ! 顕現せよ、神の力! 竜騎士アイリス、召っ、喚!!」
目映い閃光とともに現れたのは、白銀の鎧を纏った神々しい剣士の少女。
このデッキの要にして私をこの世界に呼び出したゴッドレアカード、竜騎士アイリスだ。
・竜騎士アイリス:戦士族 コスト4 AP2500 SP1
「出ましたか。神が与えし伝説のゴッドレアカード……確かに脅威的なステータスですが、モンスターである以上、《幻惑の妖光》の効果は適用されます。その能力を存分に発揮することは出来ないのではありませんか?」
「うん……くやしいけどその通りだね」
流石エルマ姫。よく分かってる。
相手モンスターを破壊することで相手のライフを奪うアイリスのSPの能力は、モンスターとのバトルを指定出来ない今は封じられたも同然だ。
だけどここは攻める!
「バトルフェイズ! ブレード・ドラゴンでお姫様に攻撃!」
まずはブレード・ドラゴンをエルマ姫に向かわせる。これは防御しないみたいだ。
ブレード・ドラゴンはその巨体でエルマ姫を見下ろすと、頭を下げてエルマ姫のおでこに鼻先をこつんと当てた。子犬がじゃれつくみたいなピコドラよりもぶっきらぼうな感じだけど、やっぱり優しい仕草だ。君もかよ……。
「続けてアイリスも攻撃! ドラゴニック・ソウル・スラッシュ!!」
気を取り直してアイリスにも攻撃させる。
アイリスは剣を鞘に収めたままエルマ姫にツカツカと歩み寄ると、目の前で跪く。そして祈りを捧げるように剣の鐔をキンと打ち鳴らした。
お姫様のライフがひとつ減った。
「……」
騎士がお姫様に忠誠を誓う場面って感じで、すごく様になってた。周りにいる妖精達
がまた神秘的で、周りのギャラリーもうっとり見惚れている。
だけどやっぱり言いたい。攻撃してないじゃん!
必殺技っぽく叫んだ私の気持ちも考えてほしい。ドラゴニックなソウルもスラッシュも出なかったよ。
「これでターンエンド」
「あら? ピコドラちゃんは攻撃なさらないのですか?」
「うん。返り討ちに遭うだけだからね」
「うふふ、そうですわね」
残ったピコドラで下手に攻撃してもサラマンドラに防御されてやられるだけだ。
やっぱりあの常駐マジックは厄介だよ。モンスターでガンガン攻めるのが私のスタイルなのに、その勢いを削がれてしまう。
このターンの攻撃はここまでだ。
《ターン終了時》
リセ:ライフ2 チャージ1/7 手札1
《フィールド》
・ピコドラ:ドラゴン族 コスト1 AP500 スタンド状態
・ブレード・ドラゴン:ドラゴン族 コスト4 AP2000 レスト状態
・竜騎士アイリス:戦士族 コスト4 AP2500 SP1 レスト状態
エルマ姫のライフは残り1まで減らせたけど、追い詰められているのはこっちの方だ。バトルの流れはエルマ姫のペースにかっちり嵌まっている。
次のターン凌ぎきれるかどうかが、勝負の分かれ目だ。