カウントダウン一日目
「なるほど」
少しずつ、この世界を理解し始めていた矢先。
「あのう」
「どうした」
「この格好は、ちょっとはずかしいよ、マスター」
俺の「腕時計」が自我を持ち始めていた。
「いやあ、どうやらお前には拒否権がないあげく、何だってできちまうんだから驚いたよ、サクヤ」
俺がこいつが実体として現れてした最初の命令は衣装変更。というのも、現れたときのコイツはそれはそれでかなりマスターに遣える忠実な秘書って感じだったのだが、それでは面白くない。折角意味不明の世界に来たんだ。存分に、楽しむこととしよう。
ーーー「衣装変更。魔法少女」
というかなり抽象的な命令をしたにも関わらず、俺が大好きだったエロゲの「モカ」ちゃんそっくりの、かなり露出度の高い魔法少女への衣装変更が行われた。しかし、外見は少女にはならず、中身が少女になってしまった。見た目は変えられないのか。
さすがによく知りもしない初対面の女性にこれ以上の羞恥を与えるような命令を出すことは、紳士な俺にはできなかった。もっとも、それだけの甲斐性がなかっただけだが。この美しさに、どこか気圧されてしまっているのだろうか。
「それで、これなんだが」
『せっかちななまけもの』
これは俺の能力らしい。しかし、ステータスにもスキルにもそんな言葉はのっていなかった。
「うん。さっきも言った通りね、それはマスターの能力なんだよ」
「でもどこにものってないじゃないか」
「だってそれは、マスターに固有の能力なんだもん」
「固有の……?」
「うん。スキルは習得できるものなんだけど、能力はその人にしか使えないって感じだね」
「使い方は?」
「知らなーい。サクは能力については名称しか知らないんだよね。ガイドなのに、サクって使えない子……」
そういってサクヤは目をウルウルとさせている。厄介な情緒だなあ。元に戻そうか……
「はいはい、よしよし。能力を教えてくれただけでも感謝してるよ、サクヤ」
「えへへ」
そういって明らかに外見と中身が一致しない俺のガイドは頬を赤らめた。
「なんだか、響きのよくない能力だな……」
文字通り考えるなら、せっかち、なまけもの、だな。せっかちも怠け者も、現実にいたときの俺にピッタリの言葉だ。これも神様の嫌がらせか。
にしても、こんな能力なんの役に立つんだ。使い方までわかんねえ。というか、スキルじゃなく能力ってそもそも自由に使えるものなのだろうか。
「じゃあ、後はシビル村に行って装備でも調達しようか」
「うん!早くいこ!マスター!」
「元気だなあ。今日はもう暗いだろ。行くのは、明日だ」
「ちぇーーっ」
この世界について分かったことは、
7日後に行われるバトルロワイヤルはガチだということ。そして、勝ち残っても特に何があるわけでもないということ。更にこの世界にはゲームのようにレベルがあり、初期レベルはみんな1、そして経験値はあらゆる所で得られるということ。スキルの習得はスキルポイントが必要で、それはレベルアップの応じて加算され、スキル習得で消費される。各プレイヤーはそれぞれ『腕時計』を所持しており、戦闘に勝利すると相手の腕時計を取得できる。そして、
「腕時計に書いてあるステータスやスキルも引き継がれる、か」
物騒この上ないな。ただし、能力だけは引き継げないのか。この条件なら殺しあう理由ってないよな。だって勝ち残っても何もないし。と思っていた矢先、「2日間で一人以上殺さなければ、そのプレイヤーは死ぬ」というルールが目に入った。つまり、殺し続けなければ死ぬ、ということだ。だったら、はじめから潔く殺しまくって、腕時計を集めた方が効果的だな。と思っていたがどうもそう簡単ではなさそうだ。
腕時計は、所持人のステータスとスキルしか承継できないのだ。ということは、レベルの低い段階で、ましてやスキルも習得していないやつを殺すメリットは経験値しかないのだ。後半になるにつれて習得スキル数も増えて、強敵も多くなってくる。また、経験値は殺す以外のことでも習得可能。つまり、初期段階はあまり殺さず、他の作業で経験値を得るという手段もあるということだ。
「こらは思っていた以上に大変そうだなあ」
ただの殺しあいではなく、相手によって、時期によって、大きく条件が変化するのだ。初期の方が殺しやすいが殺す必要性も薄い。あとになるほど殺すメリットが大きくなるが、相手も強敵になっている。もちろん、それは自分もであるが。
そして極めつけに、「スキルは発想」らしいのだ。例えば、炎を操るスキルを発想すれば、そのスキルは習得可能になる。ちなみに、習得に必要なスキルポイントは統一されており、どんな内容のスキルでも消費ポイントは同一である。よって、どれほど効果的なスキルを発想できるかが鍵となる。しかし、一つのスキルに複数の内容を詰め込むことは禁忌である。また、どの程度操れるかは、スキルレベルによる。そして、スキルレベルのアップにはスキルレベルポイントが必要で、これはスキル習得に必要なスキルポイントとは異なる。このスキルレベルポイントはお金で買える。お金は初期に与えられた「50000ザナ」と、別途働いたり強奪したりして稼ぐことができる。「働く」とは、自分たちが生きていくために協力することである。村や国のような機関はないが、この「協力」して生活することで、自動的にお金がたまっていくのだ。
「殺しあいのゲームで協力、ねえ」
もちろん協力者を殺害することも可能であるし、少なくとも二日に一人は誰かしらを殺さなくてはならない。挙げ句の果てには、勝者はひとりなのだから、いつからその協力者さえも殺さなければ勝ち残れない。もし、最後が二人になってお互い殺しあわない場合、最後に殺した日から先にコンマ一秒でも48時間が経過した方が死ぬことになる。よって、同時に死ぬことは不可能だということになる。しかし、相討ちだった場合、この世界に勝者はいないことになる。
「はあ。結局バトルロワイヤルの目的もなければ、生き残っても何があるか分からない。どころか何もないかもしれない、と。ただ死にたくないがために殺しあう、なんて不毛な世界なんだ」
「でもね!マスター!私はマスターが最後まで生き残るって、信じてるよ!」
ホントに……そんなこと信じられてもなあ。俺の目標は使命を果たしてねがいごとを叶えてもらうことなんだから、生き残る必要性は必ずしもないんだがな……
それでも、このまだあって間もない、愛着も多少しかわいていない、今となっては少女となってしまった俺の腕時計を悲しませることはしたくない。
「もし、俺が死んだらサクヤはどうなるんだ?そもそも、お前って心があるのか?AIってやつだよな?」
「私はね……マスターの……」
え?なにかボソボソといっているようであるがうまく聞こえない。
「ううん。なんでもない。私は、マスターのガイドだから、マスターと一心同体だよ!」
つまり、俺が死んだら自分も死ぬ、ということか。
「じゃあ、今日はそろそろ寝るか。明日は朝から出掛けるからゆっくり寝るんだぞ」
「はーい!」
すっかり人間のように接してしまっているが、そうする必要もないんだよな。
「そうだ。寝るときはこっちに戻るか?そもそも寝るのか?」
そういって俺は腕をつき出す。
「……って、もう眠っちまってる。どんだけすぐ寝れんだよ」
俺は身体に抱きついて眠っている少女を起こさぬように、その場を離れた。