腕時計
「バトル……ロイヤル?」
「そうっす。この世界は、一人が生き残るまで殺しあいをしてもらう世界っす。そして、キミがその最後のプレイヤーっす。キミが成功して肉体を手に入れることができてなかったら、もう少し早く始めてたところなんすけどね」
「いや待て、そんなこと急に言われても!俺は、どうすればいいんだ!」
「襲ってくるものを殺す。そして、誰かを襲って殺す」
「それが定石っすね」
定石……?
「いや、まて!じゃあそれが始まると俺はすぐにお前と殺しあいをしなくちゃいけねえのか!?」
「それは心配いらないっすよ。私は神のお告げを伝える者。そして、この世界とプレイヤーを管理する者。だから、私はそのゲームには参加しないっす」
「そんな役割、さっきは言ってなかったじゃないか!」
「そうっすね。でも、一気に情報を全て与えると、何を聞いていいかも分かんなくなるっすし、理解も追い付かないっすよね。これは、あたしなりの円滑に会話を運ぶ方法っす」
「バカにしてんのか!そんな大事なこと、あとから聞いた方が動揺するだろ!もう信用できねえよ!他にも役割があるんだろ、全部話せよ!」
「いや、役割はこれだけっす。騙したつもりはなかったんすけど、気に障ったなら悪かったっす」
落ち着け落ち着け落ち着け。コイツにあたってもどうにもならねえ。真実だろうが嘘だろうが、今はここで生きる最善策を考えなければならない。
「いや、もともとこれが夢なんだったら俺は頑張って戦わなくてもいいんじゃないか。俺の行動をどっかの誰かが研究材料にしようとしてるだけなんじゃないか」
そうだ。俺を闇の組織が拐って意味の分からん設定の夢を見せている。それで、その行動パターンを研究している。少し無理があるか……いや、そんなことはない!そいつらがもし、バトルロイヤルな世界にしようとしているなら!!
って、妄想にも限度があるか……
「確かに、そうっすよ。何もしなくて死んでも、それもありっす。もしかしたら、すぐに殺されることが使命かもしれないっすからね」
「もーわかんねえ!何もかもわかんねえ!!」
死ぬことが使命なんだったらいつ、どこで、誰に殺されなければいけないってのも考えなきゃいけねえのかよ。不可能だろ、そんなこと!
……でも、俺は本当に使命を放棄してもいいのだろうか。いや、ねがいごとを叶えてもらわなくてもいいのだろうか。一つ、どうしても叶えたい願いがあったとすれば……
「それで、それはいつはじまるんだ」
そうだ。すぐに死んだってどうせまた別の世界に飛ばされるか良くわかんねえ罰でも与えられるか、だろ。しかも、すぐに死ぬことが使命だなんて、可能性からしてほぼ皆無だ。それなら、とにかく何でも試してみて、生き残ってみる。それが使命の可能性の方が高そうだし、それまでに使命を果たせるかもしれねえ。最悪、死んでもいい。もし次飛ばされたときのためになるよう、全て得れるものは得ておこう。……いや、そもそも死んだら次の世界で使命が与えられるなんて確証はないか。まあ、何だっていい。とにかく、
俺は、生き残る。
ねがいごとを叶えてもらうために。
「開始は7日後っす。それまで、必要な装備なり人脈なりを整えるっす。ちなみに時間はキミの腕時計が教えてくれるっす。そのカウントダウンが0になれば開始っす。それと同時に、ちゃんと開始の合図もあるっすけどね」
「一つ、いいか」
「なんすか」
「必要な装備や人脈を整えるってのはどういうことだ。それまでに殺されてしまうこともあるのか。プレイヤーは何人いるんだ。そして今、何をしてるんだ」
「あたしから言えることは、他のプレイヤーは全プレイヤーが揃うまでフリーズしてあるっす。なんで、キミにだけ不利益になるなんてことはないっす」
「他の大体の情報は、キミの腕時計が教えてくれるはずっす」
「いや、腕時計ってのは時間を知らせるもんだろ。どうやって……」
「それじゃあ、あたしはこれで。伝えられることはもう全部伝えたっすから。あんまり、長居はできないっすから失礼するっす」
「健闘を祈るっすよ」
「おい!」
そう言って、女は弾けるようにしてその場から消えた。
「時間……か」
俺が向こうの世界で最も大切にしていたもの。当然、その有用性も理解している。とにかく、この7日間が勝負だ。
っと、腕時計をまずは調べる必要がありそうだな。見る分には時間、それもカウントダウンしか表示されてないが……こうか?
液晶に触れてみる。
「コマンドを選択してください」
「うおっ!喋った!」
なんだこの時計。コマンド……?
疑問を抱くと同時に、液晶から空中に女性の映像が写し出される。と同時に、その女性はなにやら紙のようなものを突き出している。そこには
【メインメニュー】
・カウントダウンタイマー
・マップ
・ステータス
・イクイップメント
・スキル
・アプリ
【サブメニュー】
・操作ガイド
・ヘルプ
・検索
・アプリストアー
・設定
という項目が書いてある。
いきなりこんな確認すべきことが多そうだな。時間がかかりそうだ。てか、あの女はろくに情報も伝えずこの腕時計便りかよ!!
「そもそもこれ、腕時計じゃねえだろ……」
それはさながら、機能としてはおそらく「スマホ」と言った方が差し支えないだろう。腕についているだけだ。スマホの方がかなり使い勝手が良さそうだが……
「はい。お呼びしましたか、マスター」
「え?」
「私は『腕時計』です」
といって女は自己紹介を始める。
「私はマスターのガイド役の『腕時計』と申します。初期設定ではこのネームですが、サブメニューの設定より、ネーム変更が可能です。マスターにお呼びされたので、ご返答をさせていただきました」
って、「腕時計」ってのはお前の名前かい!紛らわしい。後で変えておこう。って、会話ができるのか?これは……映像じゃなくAI?
「あんたは一体何なんだ」
「私は、この世界であなたを勝利に導くために設計されたガイドです。なんなりと、ご命令を」
突き出された紙に書いてある文字が少し小さくて見にくいな。これ、どうにかならねえのか。
「まずは色々と聞きたいことがあるんだが」
「では、この格好ではなんなので、僭越ながら召還して頂きたく存じます」
「召還……?」
と俺が呟くと同時に、俺の腕の上に写し出されていた女性は消え、代わりに実体をもった女性が俺の腕の上に現れた。しかし、不思議と重みは感じない。
「どうなってるんだ……」
「はい。マスターが『召還』と口にされましたので、召還されました。また、この召還ワードも設定より変更可能です」
いったい何がどうなってるんだ。生きているのか?AIなのか?技術が進んでいるのか仮想世界だから何でもアリなのか分からないが、全くついていけない。
「それではマスター。なんなりと」
そういって腕に乗っていた女性は腕から降り、深く礼をする。
その女性の顔立ち、髪、肌、スタイル、そのどれをとっても現実離れした魅力がある。すごい技術だ。
「じゃあ、まずは……」