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責任の所在といさかいと責任感と

 三崎が説明会に出席した次の日の放課後。

 二年A組でも、二回目の学祭クラス会議が行われた。


 教壇の真ん中に七瀬が座り、脇の後ろに三崎が控えて座っている。

 七瀬が議事進行をするからか、全員が彼女からの報告を大人しく聞いてはいるが、熱心に、とまではいかない。

 もしこれが三崎だったら、不満の声があちこちから上がっていただろう。


 だが、生徒会からの補助費の話が出ると、その控えている三崎に非難の声が上がった。


「三万円の補助?」

「おいおい、三崎に預けていいのかよ」

「三崎が横取りしないとは限らないだろ」

「俺達が経理の仕事引き受けようか?」

「三崎君のこと、信頼できるの?」

「それくらいならあたし達だってやれるわよ。ね? 三崎君」

「三崎には企画と現場に専念してもらおうぜ」


 七瀬は頭を抑えながらため息をつく。

 三崎はどんな反応かと振り返って見てみれば、呆然として言葉を失っている。

 そんな発言をする者達はもちろん冗談のつもりだろうが、三崎のことは本気で頼りないと思っているようだ。

 だが声に出た言葉というのは、それを聞いた者次第では冗談を本気と受け止められたりもする。

 何人かのクラスメイトは七瀬同様、呆れたり軽蔑の目でその発言をした者達を見る。

 だが当の彼らはそれを気にするふうでもない。

 七瀬はそんな彼らに、真っ当な理由で却下する。


「部活で忙しいって言ってたわよね。忙しいあなた達に経理を任せたら仕事が滞るに決まってるでしょう。どうしてもお金を使わなきゃいけないときに、補助費を預かってるあなた達に連絡取れなかったら、計画失敗どころじゃないわよ? その責任は間違いなく経理を預かってる人にあるはずなのに、責任者の三崎君に責任押し付ける気? 人としてどうなの?」


 やや怒り気味の七瀬に彼らは気圧される。


「じょ、冗談だよ」

「い、いや、三崎って頼りなさそうだからさ」


 と一言を返すのが精一杯。

 ところが七瀬は追撃の言葉を緩めない。


「冗談で時間を無駄にするほどあなた達は暇なの? もしそうなら、その頼りない三崎君よりも頼りがいがありそうなあなた達に変わってもらいたいんだけど?」

「わ、分かったよ。俺が悪かったよ」

「ごめんなさい……」


 あっさりと白旗を上げた彼らを、七瀬はまだ赦す気はないようで。


「……三崎君を泥棒呼ばわりするような発言もあったんだけど、三崎君には謝らないのね」


 言われっぱなしじゃ立場がないと言わんばかりに、一人の生徒が立ち上がる。


「だってよ、三崎は催し物の案を出して、それが採用されて、それで責任者になったんだろ? 企画面では当てになるかもしれないけど、責任者としてはどうなんだよ」

「だから言ってるじゃない。三崎君を責任者から降ろして、誰が責任者になってくれるの? 大体、今助成金を管理してるのはあたしなんだけど?」

「三崎が騙して七瀬さんからお金を……」


 いい加減にしろとばかりに、七瀬はその発言者を睨み付けた。

 その毅然とした七瀬に、やはり誰も反論できず。

 しかし三崎への明確な謝罪は誰からも出ない。


「あの、七瀬、さん」


 不快感を露にしている彼女におずおずと話しかけたのは、後ろにいた三崎だった。


「ただの報告なんだよね? 俺の変わりに誰かやってくれるっていう話じゃないなら、もう終わっていいんじゃない?」

「三崎くんも三崎くんよ。あなた、ここは怒っていいところよ?」


 七瀬は発奮を促すが三崎はそれに応えられず、弱気な表情のまま。


「いいよ。みんな忙しそうだし。それに、手伝ってほしいことがあってそれがちょっとの時間で済むなら、それくらいは手伝ってほしいけど……」


 責任者なんだから、もっと堂々とすべきなのに、と七瀬は思う。

 しかし性分にあわないのなら、それを強制するわけにもいかない。


「でも手伝えないなら仕方ないよね。俺はそんなみんなの邪魔になりたくはないし」


 七瀬は、どこまで弱気なのかと呆れる。

 と同時に、この人選は失敗かもしれない、と自信を失いかけた。


「邪魔もされたくないかな、とも思う……」


 七瀬は思わず振り向いて、三崎を見る。

 弱気な顔に変化はない。

 しかし言ってることは、七瀬も全員に言いたくて仕方がないことの一つ。

 ただ残念に思うことも一つあって、それは三崎に覇気が感じられないことだった。

 だが、クラスメイトの一部からは反感を買った。


「なんだよ、その言いぐさは」

「じゃあお前一人でやれるってことでいいよな?」

「金も自由に使えて羨ましいことだ」


 確かに三崎の言い様はあんまりと思う生徒もいるが、彼らの言い分は言いがかりもいいところ。

 その一部の生徒らに注意する声もあちこちから上がる。


「あ、あのっ!」


 大騒ぎになりそうな教室内。

 それを制したのは、なんと三崎の大声だった。


「み、みんな、これから部活だよね。お、遅れたらまずいだろうから、これでお、終わりです! 他に意見ある人は、そこの意見箱に投函、お願いしますっ! で、できれば一人で、同じ主旨の意見は書かないでください! いろんな意見待ってますんで!」


 一瞬教室は静まり返る。

 七瀬も呆気にとられていたが、やるときはやるじゃない、と三崎を見直す。


「遅れるとまずい、とか言っときながら、お前の話しも長えじゃねえか」


 と遠慮なく長浜が言い放ったおかげで室内の空気が砕け、その流れで七瀬が会議の終了を告げた。

 それを聞いた全員はそれぞれ次の予定通りに動く。

 三崎も自分の席に戻り、帰宅の準備。


「お前もなかなか言うな。ま、前にも言った通り、気軽に声かけてくれ。じゃあな。立川も、またな」

「あ、うん。俺も助かったよ、長浜。また明日な」

「おう。俺もできる限りだけどさ、協力するから。じゃあな」

「うん。立川もありがとな」


 今日もこの二人がそばから離れると、ひとりぼっちになるのは変わらない。

 が、学祭の催し物の責任者となってからは、七瀬との距離も縮んできた。


「あんな大きな声で、もっとしっかりとした発音ができるようになったら問題ないんだけどね」


 しかし三崎は、彼女との距離感を把握できずにいるせいか、日常会話ですら緊張感を伴う。


「あ、いや、あー……、うん」


 人並みな振る舞いを期待していたが、その反応を見た七瀬は、三崎がまた普段通りに戻ったことに軽く肩を落とした。


「でも三崎君のおかげで、いちいち会議をするためにみんなに集まってもらう手間は省けたわね」

「え? えーっと……そう?」


 気を取り直して、大きな声での発言に感謝するが、三崎にはその自覚がない。

 この男子はどこまで期待外れな反応をしてくれるのか、ともどかしくも思う。


「……まぁいいけどさ。あとは、催し物の企画から実践が難関よね。……期待していいかしら?」

「あ、うん。そりゃ、うん」


 しかしこの態度には、何とも不安になってしまう。

 七瀬は再度念押ししてみる。


「学祭に向けて、は大事だけど、同じくらい授業も大事だからね?」

「え? ……えっと……それは……」


 さっきよりもさらに戸惑いと不安と戸惑いの色が濃い。

 そんな態度から、催し物へのやる気はあることは分かるが、そんなことでやる気の有無を分かりたくもない、とも思う七瀬だった。

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