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三崎が作り出したクイズの一部と、その効果と結果

 学祭の、クラスの催し物の責任者を押し付けられた三崎。

 その学祭が終わり、学校は日常に戻った。

 しかし、三崎は今、自分の居場所に困っている。


 昼休み。


 学祭の準備期間中は、いつも屋上に移動して、弁当を食べずに催し物の企画を練っていた。

 準備期間前、責任者を決める学級会議の前はどうしてたっけ? と首をかしげるようになってしまっていた。

 とりあえず、弁当を取り出す。

 しかしあっという間に、ここでも人だかりの中心になってしまった。


「三崎っ! 何でうちの部のキャプテンがお前に用事があるっつったんだよ!」

「うちのマネジャー、何であんたをスカウトしに来たの?!」


 激しい剣幕で詰め寄るクラスメイト達は、朝、集まっていた三年が所属している部員。

 縁のない生徒に声をかけるというのは、意外にも敷居は高い。

 その敷居を低くするには、その生徒と同じクラスの関係者、この場合は部員に声をかけて渡りをつけてもらうことが多い。

 それが一足飛びで、何の面識もない二人が会う。

 もちろんどんな出会いをしても、誰も文句が言う筋合いはないのだが、仲不仲問わず両者と面識を持つ者にとっては、あまり気分は良くないこともある。

 ましてやその相手は、絡みたくもない相手。

 できれば同じクラスになりたくない相手。

 そんな相手に、部活でいつも面倒を見てもらっていて、誰からも好かれる先輩が会いたがっている。

 三崎が先輩に何かをしでかしたとしか思えない、という理屈が彼らの頭の中に成立している。


 しかし三崎は、学祭が終わった直後のこの状態。

 その間に何が起きたのかさっぱり分からない。

 三年達が来る心当たりもない。

 詰め寄られても、答えようがないのだ。


「えぇと……」


 長浜と立川に助けを呼ぼうにも、人の壁で姿も見えない。

 責任者だったというのに、くじ引きの結果も知らされない。

 三崎は一人、時事に取り残されている状態。

 そこにやってきたのは……。


「三崎君、また来たよ。一緒に昼飯、食わないか?」


 今朝の三年の集団である。

 いったい彼らは三崎の何に魅かれているというのか。

 耐えかねたクラスメイトの一人が声を上げた。


「ちょ、ちょっとキャプテン! 何でこんな奴に声かけてるんですか? こいつ、学力どころか素行だってそんなにいい奴じゃないんですよ?」

「ん? あぁ、お前と同級だったのか。……あれ? てことはお前……いや、お前らみんな、見てなかったのか?」


 みんな、とは、二年A組のクラスメイト全員を指している。

 三年は、三崎のことを知らないことに不思議がり、クラスメイト達は一々やってくる三年達を不思議がる。

 そして三崎は、両者のヒートアップに不思議がっている。


「ちょっと高坂君! 本人の前で言ったらまずいんじゃないの?」

「でも、あまりに彼のことを知らなさすぎないか? それに、あれを口にしてそれを意識して戦績が落ちても、三崎君の洞察力があれば部員の戦力を高められること間違いない」


 同じ部に所属している者同士で内輪話をしているが、何のことか見当もつかない二年A組の関係者はもやもやした気持ちが高まるばかり。


「沢下。お前、一年から公式戦出場してるよな。今までの打席に立ってやったことのない記録があるんだ。それ、分かってるか?」

「え? えっと……本塁打くらいっすよ? あと、盗塁……は打席に立って出す記録じゃないか」

「あのね、沢下君。これ、監督も顧問も気付いてなくて、あたしが最近ようやく気付いて高坂君に伝えたから、それを知ってるの、あたしと高坂キャプテンの二人だけなんだけど……」


 三年の高坂は野球部キャプテン。そして彼と会話を交わす杉本玲子はマネジャーで、三崎のクラスメイトの沢下正和は他の数名と共に野球部に所属している。

 そのキャプテンとマネジャー以外知らない、沢下の秘密があるという。


「沢下君、あなた、見逃しも含めて三振して凡退したことないの、分かってた?」

「え?」


 沢下は、何を言われてるのか分からないような、気の抜けた顔をしている。


「三振して凡退……って……いや、あるでしょ? 普通」

「沢下。お前は、三回空振りしてアウトになったことはない。必ず一回以上バットに当ててる」

「それを、彼はこの学祭の準備期間中に知ったんだよ。ちなみに二年の公式戦出場選手は、みんな三振を経験してた。してないのはお前だけだ」


 試合中にそこまで気にする選手はいない。

 打席の結果は覚えている者はいるだろうが。


 クラスメイト達は静まり返った。

 そんなことを調べている様子を見た者は、川内と酒井を除いてほとんどいない。

 その二人も、何を目的にして映像を見てたのかまでは分からないでいた。


「久保山。お前もそうだ」

「へ? 俺っすか?」

「お前は、公式戦に出た二年の中で一番シュートを多く決めてる」

「それは自分でも分かってますよ」

「お前のスリーポイントにも特徴があるんだ。自覚してたか?」

「え? えっと……スリーポイントも一番多い、ですかね?」

「やはり分かってないか。お前、一回スリーポイントを決めると、必ず二連続以上決めてる。とは言っても最高は三連続だがな」

「は?」


 久保山も、バスケ部キャプテンの言うことを理解できなかった。

 そんな特殊な能力なんかあるはずもない、バスケが好きで得意なこと以外、ごく普通の高校生のつもりでいたのだから。


「厳密にいえば、スリーポイントの後の二ポイント、フリースローはすべて外してる。が、その後のスリーポイントは絶対外さない。自覚はあったか?」

「いえ……て言うか、そんなのあり得るんすか?」

「あり得るも何も、これまでのお前の記録がそうなんだよ。マネジャーはそんな気がするっつってたな。監督も誰もそれに気付かなかった。それに気付いてるのは三崎君だけだな」

「……マジ……すか……」


 誰もが三崎に注目している。

 まるで、ヒーローか何かを見ているように目を輝かせている者も。


 すると、その集団の外から声が聞こえてきた。


「平木さん」

「あ、根岸主将。なんでしょう?」


 バレー部の主将を務めている三年生だった。

 ため息混じりの沈んだ声で、平木に語り始めた。


「顧問から聞いたんだけどさ、三崎君、バレー部にも資料をもらいに行く許可もらってたらしいよ?」

「え?」

「ところが誰も、三崎君がバレー部に来たって話聞いてないんだよね」

「そ、そんな……あいつなんかどうでもいいじゃないですか」

「部を強くしてくれるかもしれない人だとは分からなかったろうな。それは仕方がない。けどこうしていろんな運動部が三崎君に勧誘している。まぁそれもいいさ。けど、平木さんは彼を門前払いしたそうだね」

「あ、あたし……っ」

「……特に罰則とかはないよ? でもまさか、毛嫌いの反応一つでこれだけの差が出るとは思わなかった。部への勧誘に、他の部より一歩も二歩も出遅れた。……けど学力が低いというから、勉学に精を出すために、勧誘すべて断ることに期待するだけだね」


 根岸という三年生は、三崎に近寄ることはせず、そのまま平木に背を向けて教室を出る。


「あ、あの」


 と平木は根岸に向かって背中越しに声をかけるが


「彼並みの情報処理の仕事をしてくれりゃ、問題ないどころか大歓迎。ま、勉強と部活、両立に勤しんでくれ」


 立ち去った根岸の言葉には、あてつけがましさも感じられる。

 しかし責任を負う者なら、その存在する目的に向かって進むことを常に念頭に置いているだろう。

 そのための方法があるなら手に入れたいはずである。

 が、そのスタートからしくじってしまったら、周りに追いつくのは難しいこともある。

 その無念の思いをどこにもぶつけようがない。

 そんな思いがこぼれるのも仕方のないことだろう。

 そのためか、教室の空気もやや重くなる。


「えっと……みなさん、すいません。……学力が低いままだとナ……怒るクラスメイトもいるので……来年三年ということもあるので、学力向上に励みたいと思いますんで……」


 ナナセという祟りが降りかかる、とお茶らけたかったが、そんな空気でもないし、スベること間違いなし。

 手紙にしてまで伝えたかった思いを足蹴にするわけにもいかない。

 学力が低くても、人の心を台無しにするような人でなしにはなりたくはない。

 望んだわけではないが、自分への評価が、苦しい努力もなしに高まったこともある。


「……そうか。ま、しなきゃならないことがあるなら、そっちに専念すべきだな」

「勉強見てくれるクラスメイトがいるなら、そっちに頼った方がいいかもね」

「教えても入部してくれないなら骨折り損だしな」

「ちょっと! 言い方!」


 三年達は二年A組から立ち去り、静かになった教室内には微妙な空気が流れている。

 クラスメイト達は、三崎に何か言わずにいられないが、何を言うべきか迷っている様子。


「……今日は、ここで食うかな……。屋上に行く意味もなくなったしな」

「んじゃ一緒に食うか」

「じゃあ机並べ替えてっと」


 三崎がおもむろに弁当箱を取り出した。

 立川と長浜がそれにのり、三崎の周りのクラスメイト達もそれを見て三崎から離れていく。


「三崎君。立川君も長浜君も、一緒にいい?」


 そこに七瀬が近づいてきた。

 三崎が、三年に自分の勉強のことを伝えたのを見て、自分が書いた手紙を呼んでくれたという確信を得た七瀬は、クラスの問題児の更生のチャンスとばかりに言い寄った。


「あれ? じゃあ俺ら、お邪魔虫?」

「三崎も彼女持ちかよ」

「あ、ごめん。あたし、そんなつもりないから」


 三崎は弁当箱を開けながら、祟りが形に現われたらこんな姿になるのか、とくだらない妄想を浮かべた。

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