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休み明け、噂の中心は三崎になっていた

 明英高校の学校祭は無事に終了。

 しかし三崎は体調不良からのダウンで、振替休日の月曜と学祭後の最初の登校日の二日間はゆっくりと休養。

 そしてその次の日には完全に体調は回復。

 元気に学校に向かった。


「よう、三崎。結局風邪だったか。ま、元気になって何より」

「おぉ、長浜、おはよう。いろいろ世話になったな」


 玄関で靴を履き替えているところに、長浜も学校に到着した。


「そう言われるほどのことはしてねぇよ。気にすんな」

「そうか? でもまぁ、これからも今まで通り、暇なときは一緒に遊ぼうぜ?」


 三崎にとっては、何気ない会話のつもりだった。

 社交辞令でもなく、これまでも立川と三人で、あるいはどちらかが忙しいときには二人で遊んでいた。

 だが長浜の反応は、三崎にとっては思ったよりも冷たいものだった。


「それはどうかな。ちと難しいと思うぜ?」

「難しい? 何が?」


 しゃがんで靴を履き替える長浜を見下ろしながら、三崎は彼の言葉を待った。

 長浜は靴を履き替えると勢いよく立ち上がる。

 しかし次の言葉は濁る。


「んー……。いやー……。教室に着けば分かると思うよ? いや、着く前に分かるか」

「あ……ひょっとして賞品のメモカでトラブル起きたか? でもあれ、俺が選んで用意したわけじゃないし、くじ引きだって、どうなったか俺は知らないし」

「そっちじゃねぇよ。つか、賞品貰えなかったからって拗ねるようなガキじゃねぇよ」


 教室に着くまでの間、長浜はすれ違う生徒の何人かに挨拶を交わす。

 三崎に声をかける者はいない。

 しかし今日に限り、何人かの生徒からの視線を受けていた。

 今までにない感触は三崎を戸惑わせ、長浜にそのことを伝えると……。


「んー……多分……まぁあれだ。教室に着けば分かる」

「教室に着けば、って、もう階段上ってすぐが……」


 階段を上ってすぐに二年A組の教室がある。

 そこに着けば分かる、と言われても、階段を上るまでに、そのほかにいつもと違う様子があったわけではない。

 が、教室の出入り口の前が見える位置に着くと、確かに異常なほど今までと違う。

 明らかに三年の生徒と分かる。

 そしてその大部分は、学祭終了三十分前に姿を見せた三年生だ。


「ま、頑張れや」


 三崎の後ろにいた長浜は、三崎の肩をポンと叩いてすたすたと足早に教室に入っていった。


「え? おい、長浜?」


 追い越した長浜に声をかける。

 それが合図のように、三年達が三崎の方を向いた。


「三崎、敬太、だったな。待ってたよ」

「おい待て。俺らが先だ」

「三崎君、体調崩したんだよね? もう大丈夫なの?」


 あっという間に囲まれる。

 三崎を中心にして、廊下が通りづらくなるような人だかりになってしまった。

 誰もが三崎であることを確認して、三崎への用事は自分が先だと言い張るばかり。

 何の用か全然分からない当の本人は、教室に入りたいが入れずにいる。

 こっそり抜け出して入ろうとするも、その言い合いに参加してない三年生に止められ、その人だかりは教室の入り口に向かって移動することになる。


「放課後、ちょっとうちに来てくれない?」

「あ、俺らの用事はすぐ済むから、今ちょっと話聞いてもらいたいんだが」

「確か三崎君は、うちの長浜と仲良しなんだよね? そのよしみでちょっと話聞いてくれないか?」


 長浜の部活の先輩もいたようだ。

 長浜に抗議しようとしても、先輩には逆らえないから一足先に教室に入ったのだ、と三崎は理解した。


「長浜あぁ……」


 恨み言の一つや二つ言いたいところだが、廊下で三年にこうも囲まれては、彼の所に移動することは難しい。


 が、意外な助け船がやってきた。


「すいません、三年の皆さん方。ここは廊下でみんなが通る所です。こんなに集まってちゃみんなが困ります。それに彼はまだ教室に入ってないようです。授業の準備などもありますから、集まるのは遠慮願えますか?」


 三年相手でも毅然とした声で注意したのは、クラス委員長の七瀬。

 公的立場からなら、その態度はたとえ先輩でも堂々としたものである。


「ほら、三崎君。さっさと教室に入りましょ?」

「あ、あぁ、うん……」


 集団が緩んだその合間を通って、七瀬と三崎は教室に入ることができた。


「助かったよ、七瀬さん。何か学祭が終わる頃から、三年生にまとわりつかれてて……」

「それだけ三崎君を必要としてるってことじゃない?」

「俺を? なんで? ……あ、長浜っ」


 自分を見捨てて平然と席に着いている長浜を見て、不快な声を出す三崎。

 ひるんだ長浜は慌てて両手を合わせ「ごめん」と一言。


「あのさぁ。こういう状況だってこと、説明くらいしてくれてもいいだろ?」

「どう説明したらいいか分かんなかっ……あ……」

「何だよ」


 急に言葉を止めた長浜。

 その視線の先には、二年A組に堂々と入ってくる三年生達がいた。


「え……えと……な、何の用……でしょう?」

「まだ君に用件を伝えてなかったからね。俺達の部にスカウトしに来たんだ」

「スカウト?」


 声が裏返るほど驚く三崎。

 その声は当然教室内に響き、当然他の三年もそれに反応する。


「おいちょっと待て! 俺らが先だ!」

「あたし達だって、三崎君のことずっと待ってたのよ!」


 スカウトされる理由は分からない。

 が、三年達は三崎の目の前で、三崎の争奪戦を始めた。

 もちろん三崎にその気はない。

 断る理由があれば少しは落ち着くはず、と三崎は頭を巡らせた。


「あ、あの、お、俺、せ、成績、悪くて……で、できれば、放課後は、勉強に……」


 同好会の活動をしたいところだが、対局相手の中には運動部の部活の顧問もいる。

 そこから引っ張り込まれるのも都合が悪い。

 不本意だが、自分の欠点を補うことに力を入れる、ということになれば、それを止める者はいないだろうと考えたが……。


「成績、悪いの?」

「あ、はい。学年最下位争い、してま……」

「あたしが教えてあげるわよ。トップは取ったことないけど、三年でいつも十位以内にいるから」


 藪蛇だった。


「うちの部員にも、こいつよりもいつも成績がいい奴がいる。勉強教えてもらえるぞ?」


 そうと知っていれば自爆せずにすんだのに。

 他の理由を考えることもできたのに。


「そう言えば、三崎君って、囲碁将棋同好会だったっけ? 一人しかいなかったよね? 関心あるうちの部員を掛け持ちさせてもいいぞ? もちろんうちでも勉強はみてやれるし」


 何という策士。

 何という先回り。

 三崎の逃げ道が、ここまでまた一つ閉じられてしまった。


「申し訳ありません、先輩方」


 またも七瀬の援軍である。


「彼の学力は桁違いに低く、先輩たちのコーチすら追いつけないくらいです。なのであたしが今後つきっきりで勉強に付き合う予定なので、部活のスカウトは、彼が人並みに成績が上がるまで控えていただけませんでしょうか?」


 援軍なのかトドメを刺しに来たのか、あるいは介錯に来たのか。

 三崎は途轍もないダメージを負う。

 タイミングよく始業のチャイムが鳴り、三年達は一旦引き下がった。

 三年達が去った後の空気が、かなり怪しい。

 三崎にはどう立ち回ったらいいか迷うところ。


「……ということだから、とりあえず授業は真面目に受けようね。……手紙も読んだでしょ? 分かってるわよね?」


 いつの間にか自分の席に着いていた立川から、小声で「ドンマイ」の声を聞き、誰も自分の自由を認めてくれないことを悟った三崎はがっくりと肩を落とした。





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