明日の前日祭を控え、ゴタゴタがありながらも無事に準備が終了しました
そうこうして日数は経ち、前日祭の前日。
校内の全クラスでは、生徒たちはそれぞれのクラスに籠っていた。
二年A組も例外に漏れず、落ちこぼれだの陰キャだのと見くびっていた三崎敬太が出す指示に従っている。
とは言っても、四人もいなくても運べる仕切り板五枚を教室に運び込むだけ。
手間取った作業は、出入り口の高さよりも高い仕切り板を、斜めにしたまま運び入れることくらい。
何でこんな奴から指示受けなきゃなんねぇんだ!
という声も、実はあった。
「俺一人じゃ運び込めないので、それだけは誰かに手伝ってもらわないと何ともならないので、お願いします」
とクラス全員を前にして頭を下げた。
「力仕事させといて、礼の一つで済ませる気か?」
などという不穏なことを言うクラスメイトもいた。
しかし。
「クイズ大会ですが、入室者全員に出します。けど、全問正解させるつもりはないし、誰も全問正解できません。なのでその際に残った賞品は、みんなにくじ引きをして、当てた人に差し上げます。それで勘弁してください」
「賞品って、結局どうなったんだよ。補助費ちょろまかしたんじゃねぇだろうな?」
そんな思い込みの発言でクラス内がざわついた。
そこで七瀬が発言した。
「それについてはあたしが購入しといたわ。ゲーム、スマホ、ドラレコ、もちろんパソコンにも使えるメモリーカード、五百……いくつだっけ? それを二個」
「七瀬が用意したってんなら文句はねぇけど……俺達にくじ引きで?」
「三崎君が用意したクイズに全問正解した人が二人出たら、それはないけども」
「全問正解を出すつもりも全くない」
七瀬のすぐ後に三崎がきっぱりと言い切った。
くじなら外れる確率は相当高い。
三十六分の二。
十八分の一の確率である。
が、まともにクイズに挑戦しても貰えるかどうか。
なら、確実にクラスメイトの手に渡る。それは自分かもしれない。
そんな可能性が高く、期待も高まる報酬があるというのなら、たとえ手にすることができなくても無償で力仕事をさせられるよりはいい。
しかし、その言葉だけでどう信じればいいのか。
「どんな問題を出すんだよ。問題はもう用意してあるんだろ? 見せろよ」
その要望は当然上がる。
しかし三崎は断った。
「問題文が書かれた模造紙を、捨てたり燃やしたり裂いたりして、この催し物自体は失敗になる。そうすれば、みんなの手に渡る可能性はグンと高くなる」
「ちょっと、三崎君?」
七瀬は耳を疑った。
用意した賞品がほしいがために、そこまでするのだろうか、と。
そして三崎の疑り深さを諫めようとした。
「本来賞品は、学祭に来た人にあげるために用意した物だからな? 条件付きだけど。その準備の手伝いは、見返り無しじゃとても無理、って言うから、用意しても無駄になりそうな賞品をその代わりにって思ってたんだけど」
賞品が参加者の誰の手にも渡らなかった場合、クラス内で対処するのは問題ない。
が、誰も参加者が来なかった場合、物品のカテゴリー次第では、賞品は生徒会の備品扱いとなる。
そうでなければ、補助費を横領したのとさほど違いはないから、という認識になっている。
つまり、クラスメイト達の妨害もそうだが、中止による賞品の扱いの方が気になっていた。
くじ引きになれば、三崎にだってチャンスはある。
自分も欲しいと思う物なら賞品としての役目は果たせる、と思っていた三崎は、七瀬にその物品の候補を伝えていたのだが、その希望が通ったことになる。
「そんなことがになったら、賞品は没収され、俺は見せたことを後悔する。けど、ここで見せずにいたら催し物は成功する。成功した時に、見せておけばよかった、という後悔は多分ないし、無事に賞品はこのクラスの誰かの手に渡る」
「そう絶対言い切れるのか?!」
「もちろん。賞品は一個で十分と思ってたけど、一応念のためにもう一個用意してもらったんだから。でなきゃ十個用意してもまだ足りない。それだけ難度が高いってことだよ」
三崎を責める意見に平然と言いのけた。
そんな自信はどこからくるのか。
一体どんな問題が用意されているのか。
目にしないことには納得はできないが、三崎の言うことに特に怪しいところはない。
言いくるめられているのかもしれないが、疑いの目を持つクラスメイト達は、七瀬のとりなしもあり、とりあえず矛を収め、前日の準備は滞りなく終了した。
「まったく……。手伝いって、仕切り板五枚を運び込むだけだろ? 何であそこまで文句言うのかね」
「過ぎたことはいいよ、立川。長浜も中辻君も田宮君も川内君も……みんな、手伝ってくれてありがとう」
「運び込みだけなら力になれないと思ったけど、そうだったな。壁沿いに幕張らなきゃいけなかったんだもんな。筋力ないけどそれくらいなら。手伝えることがあって何よりだったよ。な、酒井」
「まぁね」
「ところで三崎、あとは問題の張り方だけなんだよな? お前一人でできるのか?」
「問題ないよ。でも前日祭にも見せないでおく。張るのは当日の始まる直前。予習されたら困るから」
そこまでするか? と誰もが思うが、予習しなければ正解を出せない難易度であることは誰もが理解した。
「まぁ、お前がさっき言ったように、前日祭と当日の間にトラブルが起きたらまずそうだもんな」
トラブルが起こることを前提とするなら、確かに長浜が言う、修正する余裕すら与えられない直前に起きるタイミングが一番最悪だ。
「うん。けどもう一つ仕事残ってたの忘れてた」
え?
と、三崎の周りに集まったクラスメイト達は不安になる。
ここに来てやり忘れていることがあるのか。
「終わった後の賞品のくじ引き、作ってなかった」
そんなもの、終わった後でも適当に作れるじゃないか、と全員がこける。
「くじ入れる箱なんざ、意見箱で十分だろ」
「あ」
声を上げたクラスメイトに注目が集まった。
「どうした? 中辻」
「三崎、お前、箱の中見たか?」
「あ……そう言えば見てないな。もう、意見聞く必要なかったから……」
「一応目を通したらどうだ? つか、意見箱っつーより、三崎宛の手紙入れみたいな感じになってないか?」
さもありなん。
責任者とは言え、作業のほとんどが三崎一人によって進められていたからだ。
「俺ら、もう部活に行くから、一人でゆっくり目を通しとけよ? じゃ、お疲れ」
「うん、お疲れ様。みんなもありがとね」
「おう、じゃ明日なー」
前日祭まで順調に準備が進み、無事に終了。
みんながそれぞれの部活に向かう。
教室に一人残った三崎は一息ついて、中辻の言うように意見箱を手にした。




