尼ケ崎 冴恵 [終2 ]
イベントが終わり、3日が経過した。
この3日間何をしていたかと言うと、特に何もしていない。
何故だろうか?何もやる気が起きなかった。
いつもなら、また違う絵を書いたり、悲しい映画を見たり、
専属スタッフの買い物に付き合ったりしているのだが、
不思議とこの3日間何もしたくなかったのだ。
ただひたすらに怠惰な3日間を送っていた。
そんな怠惰な事をするのも飽きてきたので、
出かけようかと思うのだ。
出かけるにしても、特に行きたいところなんて無いので、
専属スタッフを呼び、今日の晩御飯の買い出しをしようと呼びかけてみた所、3分も待たずに私の部屋に来たのだ。
「貴方、私の世話係以外にする事ないの?」
呼びかけて3分未満で私の部屋に到着できるくらいの距離に居たのだから、この辺でスタンバって居たのだろう。
まるでストーカーだ。
「する事ですか?私のする事は尼ケ崎様の世話係が優先されますので。既にこのマンションの下の階に引越ししてますし、私のやる事は家事や尼ケ崎様のメンタルケアのみだと思っております!」
限りなくキラキラした目を見て、何を言っても無駄だと察してしまった。
そこまで、してくれるのは嬉しいのだが、もっと自分のしたい事をすればいいのにと思ってしまう。
もっとも、この人がやりたい事は私の世話係だと言うのだろうが。
まぁ、何かを強要されたり、私の行動を制限されたりしないし、逆に何かをして欲しいと頼めば快くやってくれるし、私にデメリットは無いので、有難いのだが。
「そう。ならいいわ。所でちょっと買い出しに付き合って欲しいの。今日は料理の練習をしてみよう思ってるから手伝ってくれる?」
そうなのだ。絵も練習しておきたいが、
そろそろ自分で料理を作ってみてもいいのではないかと思い始めていたのだ。
料理とは、すなわち女子力とイメージされてもおかしくない。
女子力とは、料理が出来る。と言うだけでなく、化粧が上手などの事である。
私は化粧を一切しないし、料理も出来ない。
その上、男性経験などもなく、コミュ力も無い方である。
こんな人が女子力を高めてどうするのか、と言う意見もあるだろうが、全ては実験なのだ。
男性経験やコミュ力上昇はまだレベルが高いとして、まず、出来ることからやろうとの考えだ。
もっとも、コミュ力と男性経験はこの先も必要無いと思うが、
料理が出来ていると、1人での時間がまた楽しくなるのではないかと言う結論に至ったのだ。
「なんと!!料理ならこの私が!!手にヨリをかけて作りますよ!?」
そう言うと思ったのだが、これは専属スタッフになった時に断っていたのだ。
そこまで迷惑は掛けられないと。
だが、風邪を引いた時や、絵に集中している時は、作り置きやお粥など作ってもらった事はある。
本当に有難かったのだが、1人で出来ないなら人に頼るなって話なのだ。
「それは前にも言ったけど、そこまで迷惑はかけれないよ。だから、迷惑を掛け合いましょうか。いくら世話係と言っても、同じ人間だもの、関わっている以上迷惑は掛かる物でしょ?」
「そんな!!尼ケ崎様に迷惑はかけた事はいざ知らず、かけられた事なんてありません!」
「専属スタッフさん。私が風邪を引いた時覚えてる?あの時、お粥を作ってくれたよね。それも十分迷惑かけてるって言えるんじゃない?」
「迷惑なんておもっていません!!あれは私が好きでやっている事です!!」
まぁ、この子はこういう子なのだろう。
もう諦めた。
…そうか。この子は世話係としての立場を弁えているのか。
だったら世話係を解任してしまえば、もう少し、柔らかく会話ができるかもしれない。
そう。友達みたいに。
…と、思ったのだが、この性格だ。
私を神のように崇める節があるこの人に、友達になろうと言っても断られるだけだろう。
その可能性があったので、それを口にするのはやめたのだ。
「とにかく、料理の仕方を教えてよ。そのために、食材を買いにいくの。わかった?」
と強気で言い、それ以来反論して来なくなった。
少し寂しかったが、この子こういう子って言う事を再認識し、諦めたのだった。
「所で、どういう料理を作るのですか?」
「・・・」
どういう料理?料理とはいろいろなジャンルがあるのだろうか?
魚なら・・・焼き魚?
肉なら・・・焼肉?
そもそも、料理とはなんだろう?
食材があり、調味料があり、食材を組み合わせ、調味料をいれる。
これだけで料理になるのだろうか?
「分かりました!この私、尼ケ崎様のために、がんばります!」
何がわかったのか分からないが、数秒無言になった私に気を使い、リードしてくれた。
とりあえず、スーパーに行こうと言う提案をのみ、スーパーに向かう。
食品の名前や調味料の名前を教わったが、種類があり過ぎて、何が1番いいのか分からない。
とりあえず、焼肉のタレがあれば1番いいということだけは理解できたのだが、それだけだった。
全くもって分からなかったので、途中から料理をする事自体諦めていたのだった。
「・・・頭がパンクしそうね。よくこんなものおぼえていられるわ。大体、白菜とキャベツは似すぎなのよ。」
それも仕方ない、私は親が小さい頃に交通事故で無くなっていて、施設で育ったのだ。学校もあまり行っておらず、その手の知識については何も教わっていなかったのだから。
「あはは。私も最初困惑しました。と、いっても、小学生の時に、ですけどね。」
私に気を使ったのか、そんな事を言い出した。
それでも、小学生の時にはもう、キャベツと白菜の違いが分かっていたのだから、フォローになっていないのだが。
「微妙なフォローね、でもいいのよ。もう諦めたから。その食材は一緒に料理して一緒に食べましょう。きっとこの量は1人で食べきれないからね」
そう言うと目をキラキラさせて、一緒にと言うキーワードで何を想像しているのか、妄想世界から現実世界に帰って来なくなり、数分待たされたのだ。
全く意味が分からない。
「あれ!?尼ケ崎さん?」
聞き覚えのある声が聞こえ振り返る。
そこに立っていたのは、神崎先生と神崎先生の娘さん美麗ちゃんだった。
神崎先生が疲れた顔をしていたので、何か2人でしていたのだろう。
美麗ちゃんの方はピンピンしているので、あらかた買い物かなにかだろう。
女の子の買い物は疲れると聞いた事があるので、それだと直感で分かってしまった。
「おお、これは尼ケ崎先生。スーパーで買い物ですか?」
「お久しぶりです。と言ってもまだ3日しか経っていないのか。美麗ちゃんも、こんにちわ」
私の隣りに立っている専属スタッフはと言うと、まだ妄想世界から帰ってきていないので、帰ろうにも帰れない状態なので、話していく他ないのだ。
「ちょうどいい!!美麗よ!これからの買い物は尼ケ崎先生に付き合ってもらうといい!!私はこれでも少し忙しくてね!では!尼ケ崎先生!頼んだよ!!」
と言い捨て、そそくさと帰ってしまった。
あのクソジジィ。いつか痛い目に合わせてやる
と思ってしまったのはここだけの話だ。
「はっ!すみません!!あまりに神秘的場面を想像出来てしまったため、すこし、妄想しておりました!!」
と、入れ違いのように妄想世界から帰ってきた専属スタッフ。
すこし、遅いような気がしたが、問題ないだろう。
「おや?神崎先生の娘さんじゃないですか。私がいない間に一体何が・・・?はっ!!しまった!!妄想している間に何か大変な事になっているのでは!?」
本当に良いキャラをしているのは間違いないが、若干イラついたのもここだけの話にしておこう。
別に大変な事になった訳では無いし、そんな専属スタッフは置いておこう。
「美麗ちゃん、お父さん帰ってしまったけど、いいの?」
「あはは、そうですね、どうしましょうか」
ちょうどいい、この際、神崎先生に頼まれていた友達、とやらの行為を試してみよう。
そのために、あのクソジジィはこの場を作ったんだろうし。
もっと知りたいと思っていた所だったし。
「そうね、どうせならこの先に種類が多いコーヒーが楽しめる場所があるわ、そこで話していきましょうか、どう?美麗ちゃん?」
「良ければお願いします!」
「そう。じゃあ、専属スタッフさんは先に帰って、食事の準備をして貰える?少し、美麗ちゃんと話していくわ。」
畏まりました。とだけ言い残し、ウキウキした感じで帰っていったのだった。
そんな事より、美麗ちゃんに聞きたいことはあるが話したい事なんて特に無いのだ。まぁ、仕方ないだろう。
コーヒー店についたのだが、こういった店に来たのは初めてで、なにを選んでいいのか分からない。
「何か飲みますか?私、ここに来るのは何度かあるんですよ。私のオススメはバニラアイスフラペチーノですね!!」
無邪気で、自信満々そうなその笑顔はとても輝いていた。
あのクソジジィ。なにが世間知らずになりつつある。だ。
私より世間を知っているじゃないか。
私はこの日より、あのジジィの言う事はもう信じないと決めた。
「ごめんね、私こういう店来るの初めてなんだよね。コーヒ店だとおもってたんだけど、アイスもあるのね、知らなかったわ。」
「そうなんですね!では、私がチョイスしてあげますね。普段どういうコーヒーを飲みますか??」
目をキラキラさせながら聞いてきて、チョイスやリードしたそうに言ってきた。
この子は本当に良い子なんだろう。
きっと私なんかより友達いっぱい出来そうなのに。
「そうねー、少し苦めの奴が多いかな。甘めは少し控えてるのよ。ほら、私って凄くスタイルがいいじゃない?だから、それを維持するのも大変で。」
「そうですよね!!初めて会った時から思っていました、高身長で、スタイルはものすごく良くてクールで凄くかっこいいなと!!私の理想的女性です。尼ケ崎さんは。あはは」
すこし、嫌味を乗せて言ったつもりなのだが、全く効いていなかったのだ。
この子は本当に素直でいい子なのだろう。
闇が無い、とも言うかもしれない。
それを知れたので、こんな鎌をかけるような事はもう二度としない事を決めた。
「ありがとう。じゃぁ、どうせなら選んでもらおうかな、少し苦めで、こういう店だ、せっかくだし、生クリームが乗ったやつがいいかな」
「はい!!あっ、でしたらダークソウルフラペチーノですね!これは、あまり砂糖が入ってなく、コーヒーの苦味と生クリームの甘みがベストマッチなんですよ!!」
なにかの食レポかと思うくらいの紹介をされ、そこそこ大きめのコップに大量の生クリームが乗っかったコーヒーが机に並ぶ。
美麗ちゃんが注文したのは、激甘のサンライズレボリューションフラペチーノと言うコーヒーみたいだが・・・。
そもそも、それがコーヒーと呼べるのか、怪しいが、
コーヒーはコーヒーなのだろう、細かい事を気にすると女の子に嫌われるらしいので、気にしないことにしたのだった。