尼ケ崎 冴恵 [下3]
オークションが、終わりそれぞれ、散らばって行く。
飲み会に行く者や、そのまま帰っていく物。
私達は後者のほうで、すぐ帰る準備をしていた。
すると、神崎先生達が控え室に訪れ、別れの挨拶をする。
「尼ケ崎先生、お疲れ様でした。2連続1位おめでとうございます。いやはや、流石の一言です。」
「神崎先生もお疲れ様でした。いえ、当然です。私も伊達に色んなことを考え、色んな物を書いてきませんでしたので。」
だが、まだ1位を取れたはずなのに気持ちが晴れないのだ。
神崎先生を2位に引きずり落としたときはこれ以上に無いくらい清々しい気分だったはずなのに。
1位を取るのが当然だからか
それとも、1位を1度取ってしまったことによる慣れなのか。
どっちか私には分からなかった。
「美麗ちゃんもお疲れ様。4位おめでとう。」
「あ、ありがとうございます!尼ケ崎さん1位おめでとうございます!私の書いた絵がこんなに反響を呼ぶなんて正直驚きです」
無邪気な笑顔。紛れもなくこの子は喜んでいる以外感情を持ち合わせていないのだ。
そうだろう。始めて書いた絵がこんな値が付いてしまったのだから。
嬉しさ以外の感情を持ち合わせていないのも当たり前の話か。
でもそれ以外にこの子には何かがあるんだろう。そこまで喜べる何かが。
「ええ。じゃあまたね。神崎先生もまたどこかで。」
「あぁ、それと…。美麗よ、すこし、尼ケ崎先生とお話があるから先に帰っていなさい。」
…?私に話?一体なんだろうか?
まぁ、察しは付くので、私の専属スタッフに美麗ちゃんを送り届けるようにお願いする。
恐らく、美麗ちゃんの事だろうから。
私は神崎先生には敬意を払っているので、そこら辺の融通は聞かせるようにしているのだ。
「すまないね。尼ケ崎先生、時間を取らせてしまって。」
すると物凄く真剣な表情になり、私に言ってきた。
「尼ケ崎先生も知っての通り、あの子と友達になっては貰えないだろうか?」
何を言い出すかと思えば、言ってる意味が分からなかった。
友達とは何なのだろうか?
私には友達が居ないので分からないが、友達とは頼まれてなる物ではないと思いもする。
「友達…ですか?何故?」
「あの子は私が天才画家と呼ばれてるせいか、友達が居なくてね。ほら、私の家ってとても豪邸だから、近寄れる人って限られてくるんですよ。だからなのか、世間知らずになりつつあるのだよ。それにあの才能を見せつけられたらね。でも、私と対等以上に話が出来るのは、尼ケ崎先生くらいで、幸いな事に、美麗と歳が近い、だから、お願いしたいのだよ」
なるほど。言われてみればそうかもしれない。
あの子は神崎先生の才能を全て受け継いでプラスで独自のセンス持っている。それに、父があの神崎先生と来ているし、
普通の一般人には近寄り難いかもしれない。
だけど、私が友達になる理由もないのだ。
「どうでしょうか。私も12歳の頃から絵の道に走り、友達という物を持ったことがありません。なのでお役に立てるかどうか分かりませんし、私があの子に何かをしてあげれる事も何も無い。」
「はは。そこまで難しく考える必要なんて何も無いさ。ただ、少しでいい、あの子に時間を割いてあげてくれればそれでいいのだよ。例えば少しの間だけ話してあげるとかその程度でいいのだ。」
なるほど。その程度ならば、やってあげてもいいかもしれない。
ちょうど、あの子の事をもう少し知りたいと思い始めていたところなのだ。
「はあ。その程度ならば請け負いました。ですが、それ以上の期待はやめてくださいね。私に出来ることなどたかが知れていますので。では、今度時間があれば遊びに連れていきましょう。」
「ありがとう。私はもうあの子しか居ないからどうしても心配でね。それじゃ、任せたよ。何かあれば、遠慮なく家に来たまえ。歓迎しますよ。」
そうして、イベントは終わり、元の日常へと戻っていく。
次のイベントは2年後に開催されるらしいので、
そこでまた、実力を発揮出来るよう、絵を頑張るだけなのだ。