尼ケ崎 冴恵 [中2 ]
出来上がった絵のコンセプトとしては、焼け野原のような場所で小さな下半身を無くした少女を抱いて、涙しながら叫んでいる迷彩服の男性を描いてみた。
その回りには、飛び散ったコンクリートの破片や、死体を散らかせる。
空はその人を気にすることなく良く晴れていて、皮肉な事にすごくいい天気なのだ。
この絵を描き初めて既に2日が経過していた。
その間、専属スタッフに買い求めていたカロリーメイトを摂取して、誰とも会わずにただただ1人で書いていたのだ。
この絵が完成して、改めて見てみた所、不思議と達成感が沸いてこなかった。
「いつも通り」のこの感覚。
私は「何を」描きたかったのだろうか?
確かに、憎悪をイメージして書けていると思うのだが、
どうも気持ちが晴れないのだ。
本来何かをやり遂げた後の達成感と言う物は誰にでもあり、
それが増して自分で進んでやった事ならば、尚更。
たがしかし、私は今まで絵を描いてきて、その感覚を味わったことが無いのだ。
どうしてだろうか?
しかし、考えても分からない。
考えてしまえば、これ以上、私は絵を描けないような気がして、考えるのが怖かったのだ。
私はそこで考えるのをやめたのだった。
そして私はいつも通りの言葉を口にする。
「まぁ、こんなものか。」
その言葉はまるで、私はまだ何かを求めているような気がしてならなかった。
この絵は世界規模のイベント会場で多くの画家や絵に興味がある人に見られる事になる。
そこでオークションにかけられ、値段が付けられ、私の順位が決する事になる。
今私が出来る事の最前を尽くしたのだから、きっといい結果に収まるだろう。
それで私はまた清々しい気分で絵を描き始めるのだろう。
それこそが私が望む物なのだから。
そう言い聞かせて、私はまた頑張るのだ。
「尼ケ崎様、お疲れ様でした。この絵は素晴らしい物だと私も思います。どこかありがちな絵でしょうが、色彩の作り方や、背景のコンクリートの破片や、少女の死体、そしてメインの男性。とても私には表現出来そうにありません。流石の一言です・・・。」
この専属のスタッフも元は立派なが画家だった。
私に会い、私の絵を見て、画家を引退したのだ
レベルの違いを知ったのだろう。
そして、私の世話係として懇願してきたのだ。
だからだろうか?私の描いたイメージを何一つ間違いもなく、言い当てた。
私の良き理解者だと言っても良い程なのだろうが、
私としては引退せず張り合いたいと思ってもらったほうがそれ以上に良き理解者になれたような気がしてならない。
だがしかし、私の絵を見て引退しようと決めた時の顔はとても、清々しい気分になれたのはここだけの話だ。
「ええ。ありがとう。これを4日後のイベントに出展するわ。段取りして貰える?」
「かしこまりました。では、会場の方にはそのように段取りを組ませて頂きます。この後のご予定などは、どうされましょうか?良ければ、映画など・・・」
「映画?良いじゃない。行ってらっしゃい。私は寝るわ。まる2日寝てないもの。睡魔が限界なの」
そう言った瞬間に、すごく悲しそうな顔で部屋を出ていった。
なぜ悲しそうな顔したのか分からなかったが、いい加減寝たかったので、考えるのをやめた。
そして私は目を閉じ、4日後に備えて体を休めるのだ。