神崎美麗【終】
尼ヶ崎さんはこの店に来るのが初めてらしく、私のチョイスで飲み物を頼む。
その過程で、スタイルを維持する為に、甘い物は極力避けている。という事を知れたのだ。
それもそうだろう。
私の身長は162センチであり、それを10センチは上回る身長に、48キロの私と変わらない細さ。
維持するのは大変だろうと思えた。
しかし、尼ヶ崎さんも女の子らしい所があると言う事に嬉しく思えたのだった。
私が頼んだのはサンライズレボリューションフラペチーノと言う甘いものが好きな人なら大好きであろう飲み物だ。
甘い飲み物でもちろんカロリーは高い。
1200キロカロリーである。
だが心配はいらない。
いくら食べても、太らない体質であるため、気にする必要は無かった。
佳奈さん曰く、才能に全カロリーを持ってかれてるんじゃない?胸、小さいしね。との事だった。
胸の事は成長する過程で、大きさが決まるので、分からないのだが、
才能に全カロリーを持っていかれる事は無い。
そもそも、人間の体の造りは不思議な事に、1度に摂取されるカロリーに限度がある。
「おいしい」
尼ヶ崎さんがボソリと呟く。
たったその一言ですら、私を喜ばせる。
今、口にしたのは、私の頼んだのサンフラであり、甘党では無い人には、量が多い事からあまり好まれない。
だが、一口くらいなら、と、私が共有したくて、飲ませてみたのだ。
この場は佳奈さんとしか来たことが無いので、佳奈さん以外の人と、こうやってここで同じ物を共有する事がこんなにも嬉しい事なのかと初めて知った。
迷惑ではないだろうか?私がこうして、勝手にこんな思いをしている。そんな事を考えてしまう。
「美麗ちゃんは、何故絵を書こうと思ったの?」
またその話か。と少しテンションが下がる。
「これからも描き続けるの?」
何故そんな事を聞くのか?私は本音を言う。私は絵を書く重要性が分からない。
今回は書く理由があったから書いてみただけの話である。
ただ、それだけの事。
「どうでしょうか?それが必要なら書くと思います。必要無いなら書きません。どうしてですか?」
と、言うと、尼ヶ崎さんが少し笑う。
と、同時に何かを考える様な仕草を取った。
少しも待たない内に返事が返ってくる。
「ちょっと、気になっただけよ、気にしないで」
「尼ヶ崎さんはどうして絵を書いているのですか?」
理由はなんでも良かった。
尼ヶ崎さんの事を少しでも知れるのであれば、私は私がどういう行動を取れば良いか、分かってくるからだ。
大事なのは私である。
私の存在価値が定かになれば理由はなんでもいい。
返答は良く覚えていない。であった。
別に聞いたとしても、私の取るべき行動は変わらないので、
それで良い。
私はいい人で、少しワガママであり、尚且つ、頼られる人になれるよう、努力するだけだからである。
そこで疑問が生まれた。いい人とはどういう人なのだろうか?
私にとっての良い人とは、他人に優しく、それでいて力になってあげる事。そして、あまり関与し過ぎない事だ。
中学生の頃の事件を思い返し、何故ああ言った風になったのかを考えてみた事がある。
私はあの頃、ただの都合の良い人になっていたのだ。
それを踏まえ、高校生の頃は、やり方を変え、私の存在を押し付けてみた。
どちらも失敗し、
他人が私の存在価値を決めてくれないと不可能だと言うことに気付き、今に至る。
そして偉大な父と母に言われた事を守り、その人を演じ切るのだ。
それこそが私の生きる意味であり、存在する意味なのだ。
例え、どんな想いで過ごそうとも。
それが私の価値である。
それが私の幸福である。
それが私の宿命である。
「美麗ちゃん、私はね。美麗ちゃんをもっと良く知りたいと思えた。こういった事は初めてなのだけど、美麗ちゃんは私の想像を超えていて、良く分からない。だからもう少し美麗ちゃんの事を教えてよ」
その言葉を聞き、私の心は舞い上がる。
ただそれだけの言葉で涙が流れてしまった。
何かしたくても、何も出来ずにいた日々から、
ずっと暗闇にいた私を、引き上げてくれた。
無であるはずの物が薔薇色の何かで埋め尽くされる用に、
心の中がいっぱいになった。




