神崎美麗【下3】
「お父様!見てください、このワンピース!ヒラヒラがとても可愛いです!」
父の知り合いに会うため、街をでその用事が終わり、買い物に来ていた。
私はこれでも家事のお手伝いと言うとことで、お小遣いを貰えていたのだ。
もちろん、欲しいと言えばくれるのだが、それは私自身が許さなかった。
私はお金持ちの娘であるという事と同時に、他の人と同じ人間であるという事も自覚していたからだ。
そうである以上、何かをして、それに見合う対価を貰っていた。
そんな事はしなくていい。と父と義母。
父、曰く人間社会でのそう言うのは大事だが、お前は違うと、
恵まれた環境と恵まれた生活がある。
その中でどういう人生を送ろうと人間社会にも、1個人にもなんら影響を及ぼさないのだ。
確かに、立派ではある。しかし、それだけであり、
私達の娘である事は変わらず、それだけで、妬み嫉みと言った感情を抱く輩はいるのだから。
でも、私自身したかった事だからと、納得してもらえたのだ。
これも欲しい、あれも可愛い。と1人ではしゃぎ回り、何着も服を買う。
気が付けば、父の両手はパンパンに入った紙袋でいっぱいになっていた。
父の顔は疲れていたので、
私も持ちます。と言ったのだが、こういうのは男の役目だから。と断られてしまった。
あと1軒回ろうと思っていたのだが、これでは父が可哀想なので、ここらで切り上げようとする。
振り返ると、そこには見知った顔が一人。
尼ヶ崎さんの付き添いの人であった。
女性はとても幸せそうにしていて、心ここに在らずと言う顔をしていた。
そして、その横にいるのは・・・。
「尼ヶ崎さん?」
とぼとぼと後ろを歩く父が、私の声で前の二人に気付き、声を掛ける。
二人もこちらに気付き、挨拶を交わす。
「ちょうどいい!美麗よ!これからの買い物は尼崎先生に付き合ってもらうといい!私はこれでも忙しくてね!では、尼ヶ崎先生頼んだよ!」
と父の言葉であった。
疲れているのは分かってはいたが、あからさま過ぎてツッコミが出なかった。
荷物持ちをさせるために父が居るこのタイミングで買い物をした訳では無く、何もそこまで嫌がらなくても・・・。
信じられないスピードで車に戻り帰ってしまった。
少し傷付いたのだが、尼ヶ崎さんとその付き添いの人とまた会えた事に感謝したのだった。
「おや?神崎先生の娘さんじゃないですか。私がいない間に一体なにが・・・はっ!しまった!妄想している間に何か大変な事になっているのでは!?」
どうやら、この人は尼ヶ崎さんを前にするとキャラがブレるらしい。それもこれも、尼ヶ崎さんへの愛、故なのか・・・。
「美麗ちゃん、お父さん帰ってしまったけど、良いの?」
そう。私は何をしているのだろう?
急いで父の背中を追いかけるべきでは無いのか?
買い物何てものは早々と切り上げて、父の背中を追いかけるべきであり、
私を置いていった父に小言の一つでも言ってやるのが今の私の立場であった。
だが、本当にそれでいいのか?
せっかくもう一度会えたのだ。
変わりようの無い私の日々を変えられるチャンスが今一度、ここにある。
それを見逃して本当にいいのだろうか?
ある偉人は言った。明日を変えたければ、今を変えよう。と。
本当にその通りである。
その事を分かっていた私は父の背中を追いかけられずにいた。
「あはは、そうですね、どうしましょうか」
その言葉は無責任でどうしようも無いくらい、惨めだ。
だがしかし、私にはどうする事もできず、このまま何も無ければ、大人しく自宅に一人で帰る他無いのだ。
だが、なんだろう?この根拠の無い確信は?
まず疑問がある。
どうしようも無く、可愛い愛娘を、こんな街中で一人にする父は居るだろうか?
もう一点、この状況が仮に、目の前の人が尼ヶ崎さん出なければ、例え、どんなに疲れていようと可愛い愛娘をほって帰る父ではない。
それは、この私が1番理解している。
それを考える前から頭の何処かでわかっていたから、父を追いかけなくてもいい。という事が、体で理解出来ていたのだ。
そして父は必ず、私にとっていい事であるようにと、行動してくれる。
昔からそうであった。
私が嫌がる事は決してしない、甘い父であり、誇らしい父である。
あの人は本物の親バカだから。
「そうね、どうせならこの先に種類の多いコーヒーが楽しめる場所があるわ。そこで話していきましょうか。どう?美麗ちゃん?」
心の中でガッツポーズを取ってしまう。
運が良ければ、父からの話がどんな内容だったのかも聞けるかもしれない。
それに、そのコーヒー店というのは、マンチェスターと言う名前の店であり、コーヒーと言うか、カフェオレや独自で開発された飲み物専門店である。
女子高生や女子大生はもちろん、主婦や男子学生にも人気が高いお店だった。
義母である、佳奈さんが絶賛しているお店で、1人じゃ寂しい。と言って良く連れられていた。
そのおかげでメニューは覚えてしまい、どんな物がどんな味なのかも覚えてしまった。
「良ければ、お願いします!」
女性を先に帰らせる指示を出し、尼ヶ崎さんと二人で向かう事になる。
普段はどんな生活習慣なのだろうか?
私とは違い、きっと楽しい毎日を過ごしているのだろう。
あんなにキャラの濃い女性が傍に居るくらいなのだ。
私には想像出来ない程、楽しい毎日を送っているはずだ。
少し羨ましかった。
私も私で楽しく過ごせているのかもしれないが、関わっている人が限られている。
父に義母、執事に従業員。その全てが当たり前な人達であった。
ふと、考えてしまう。
私はこれからもずっと、限られた人達の中で、日々を過ごさないと行けないのだろうか?と。