尼ケ崎 冴恵 [上 2]
「尼ケ崎さん!おはようございます!今日も綺麗なお姿で私は感激です!」
学校に着き教室に入った私は、ファンの子にこのように感激される事がある。
自慢ではないが、私の容姿は完璧と言っても良いほど整っているのだ。
170越えの身長を持ち、アイドル顔負けと言っていいほどの整い方、レベルの高いグラビアアイドルが霞むほどのスタイル。
もし、私が芸能界やそういった世界に踏み込んでしまえば、
その業界が逆に潰れてしまいそうな程の身なりをしていると言っても良いくらいなのかも知れない。
しかし私はそう言った世界に興味がなかった。
「ありがとう、でも少し忙しいの、後にしてもらえる?」
対応がめんどくさいので、そう一言を施し、私は「私」の教室へと向かうのだ。
絵を描き始めてからの12年間の間、人とはあまり関わっていなかったので、接し方が分からない部分もあったのだ。
だからか、私は1度も恋人を作った事など無いし、
増して破瓜の痛みも経験していない。
経験してみたい気持ちはあるのだが、それ以上に
その行為の必要性が見当たらなかったのだ。
もしかするとその経験で絵がもっと上達するかも知れないが、
その経験と屈辱を天秤にかけたとして、どちらが勝るかと言うと、やはり屈辱が勝る。
それに恋人など私には不要だ。
そんな私に友達と呼べる人は1人も居ない。
その事について、別に寂しいとは思わない。
この12年間、ずっと永遠に1人だと思って生きてきた。
やりたい事はあったし、お金も使えきれない程にある。
もっとも、友達が居ない上に、恋人も居ない、絵を書くこと以外の他にやりたい事も、興味がある事も特にこれと言って無いのだ。
だからこんなにお金があっても使い道が無い。
食事や絵を書くための道具を買い集める為だけにある物だと思っている。
募金や学校の資金、国の援助金にも寄付しているくらいなのだから、ありがたく思ってもらいたいものだ。
「尼ケ崎様。今日のご予定はどう致しましょうか?何か必要なものがあれば揃えておきますが。」
私の行動を把握するために、声を掛けてきた専属スタッフ。
この人が私の唯一信頼する人なのだが、
どこか神のように崇める節があるのだ。
「なにもしなくていいわ、そもそもこんな所まで来なくても大半な事は1人で何とかできるから、経費で遊んできてもいいのよ?」
「でしたら、なにかあれば遠慮なくお呼びください!私は尼ケ崎様のメイドと思ってもらっても構わないので。」
メイドか…。
コスプレをさせてもみてもいいかも知れない。と思ってしまったのは言わないでおこう。
本当にやってしまいそうで少し怖い。
それに、来週また世界規模で開催される画家同士のイベントがあるのだ。
その作品を書いてしまいたいし、余計な事は頭の中から排除してしまいたい。
そしてまた私が1位を取るのだ。
それだけが今の私にとって頑張ろうと思える1つのことであった。