神崎美麗【上3】
鳥の鳴き声が聞こえた。
朝が来たのだろう。
それも、太陽がまだ完全に昇り切っていない時間帯。
不思議と、この時間の早朝に目が覚めてしまう。
鳥の鳴き声は綺麗で、嫌いではないし
この時間は明かりが無くても、肉眼で見えるほどの薄暗さに、まだ、太陽が昇り切っていないおかげで涼しくて
もう少ししたら活気溢れる街並みの前の、この寂しさ。
だからだろうか?
この時間にしなければ行けないことを済ませてしまいたいと、
そう思えてしまうのだ。
しなければいけない事とは、私自身特に無いのだが、
昨日使った洋服などの洗濯と、
もう少ししたら起きてくるお父様と私と義母の朝食作りと、
部屋と廊下の掃除、いわゆる、家事という物だ。
この家は大きく、1人で掃除するとなると1日かけても全ての部屋と廊下を掃除しきれないだろう。
なので、清掃係さんが5人程毎日この家に来て、掃除をしてもらっている。
私がしているのは自分の部屋と自分の部屋の前の廊下だけだ。
これも全て、好きでやっている事だから、ありがたいのだ。
朝食を作り終え、作り終えた頃に2人とも起きてくる。
この時間になると、もう既に太陽が顔を出していて、
町は人の姿が少しずつ増えていく。
「おはよう、美麗。今日も早いな、朝食ありがとうな」
お父様のいつもの一言。
その一言で私は幸福感に満たされる訳でもないのだが、
家族だから当たり前だとも思わない。
「おはよう。美麗ちゃん今日も可愛くて元気ね、お母さんは鼻が高いわ」
義母の佳奈さんだ。
お父様は再婚し、佳奈さんと微笑ましい夫婦生活を送っているのだ。
その2人は幸せそうなのだが、どこか私に遠慮しているのか、滅多にその幸福感を私には見せてくれない。
「おはようございます。2人とも、今日はタイミングバッチリでしたね!今、朝食をお持ちしますので、おかけして待っていて下さい」
「急がなくてもいいし、私も手伝うよ。今日は私も佳奈も予定が無い。ゆっくり3人で食卓を囲もうではないか」
そう言って、父と義母は食卓に朝食を並べるのを手伝ってくれた。
そして、3人で何気ない会話をしながら、朝食の時間が過ぎていく。
この時間は毎日あり、この慣れた時間帯も私の好きな時間帯だったのだ。
「そうだ、美麗、お前、絵を書いてみないか?父さんが画家だったのは知っているだろう?この機会に父さんが絵の書き方を教えてあげよう。」
そんな父の言葉。
私は絵に興味が無い。
ただ、父がそう言ってくれたのなら、やらない手はないだろう。
それに、1度書いてみたい気持ちもあったのだ。
「良いじゃない!出来の悪い私と違って美麗はなんでもできちゃう物ね。きっと直ぐに書けるようになってしまうかもしれないわよ。貴方なんてすぐ追い越されちゃうかも。」
「はっはっはっ。これでも元は世界規模のイベントで1位だったのだ。そんな直ぐに追い越されちゃ溜まった物じゃないがね。」
2人のそんな会話。
確かに、今まで父の絵を見てきて、書けない事は無いだろう。とそう思えてしまったのだ。
だからか、ここに父以外の画家が居ないのを良かったと感じてしまえた。
「そうですね。お父様が教えてくれるのであれば心強いです。朝食を食べ終えた後教えてください。」
「あら、やる気満々ね、本当に追い越されちゃうんじゃないの?」
「はっはっは。任せておきなさい。追い越された時は、私の才能が受け継いでいる証拠だよ。喜びこそすれ、嘆くものでは無いさ。」
そんなこんなで絵を教えてもらう事になり、
書くからには全力で、期待を裏切らないように、
そんな何とも言えない気持ちが私の心の中がいっぱいになってしまった。