神崎美麗【上2】
私が高校生の頃の話だ。
私は頭のいい方で、1度聞いた言葉はすぐ記憶し、忘れない才能がある。
そのお陰で学力は常にトップであった。
しかし、体の方は弱く、すぐ体調を壊し熱が出て学校を休む日が多々あったのだ。
ある日、高熱が出てそれでも学校に行こうとした。
そんな私に父は無理はしなくていいと、医者に見せて治るまで休んでいて欲しいと。
しかし、私は学校を大事にしたかったのだ。
違うかもしれない。正確には、学校に行けば、関われる人がいっぱいいる、その人達との時間を優先したかった。
この家は凄く大きく、私に関わってくれる人は、執事やお世話をしてくれる人なのだ。
その人達は目的があり、私と「仕方なく」関わってくれる。
それだと意味が無いのだ。
私は私の重要性が欲しい。
そして、1人でも多く、私の必要性を望んで欲しかった。
だから無理をしてでも、学校に行きたかった。
よく体調が悪くなり、その度に休んでいるから尚更。
勿論、使用人には止められた。
「娘の自由にしてやってくれないか。これも全て娘のためなのだ。それに、いくら体調が悪くても、これくらいなら学校に行くくらい問題ないだろう」
決定打になったその言葉。
私の目的を知っているからか、父は優しいのだ。
そういう日は父が学校に送ってくれて、お迎えまで来てくれた。
「ごめーん!神崎さん!数学の提出物なんだけど、見せてくれないかな?頭悪いからさ、一問も解けなくて」
笑いながら言ってきたクラスメイト。
ここは女子校で品のある高校だと評判がいい。
レベルの高い学校ではないが、教師はいい人が多く、設備もよく揃っているのだ。
いい教師とは、なにを基準かなのだが、
嫌われる先生がいない。という事だ。
普通の学校ならば、好き嫌いは激しく、虐めはあり、教師達の仲ですら、あまり仲が良好ではない。
その点この学校は私の父が支援する学校であり、給料も高いのだ。
それに、ここに入学してくる人は、予めどんな人間だったのか、どんな生活習慣なのかを調べられる。
プライバシーはもちろん守られており、調べられる限度は勿論ある。
だからこそ品のある学校と言う評判を得ているのだろう。
「え?駄目ですよ!私が教えてあげるので一緒に頑張りませんか?」
別に見せてあげても良かったのだが、私の必要性をもっと感じて欲しかっただけなのだ。
「えー!じゃあいいや!他の人に頼むね!ありがとう!」
人は何故、少しめんどくさいと感じたらすぐに遠ざかって行くのか。
勉強と言うのは学校に在籍している以上、永遠にしないといいけないものなのに。
その場しのぎでそこから逃げれたとしても、次逃げられる可能性は無いのに。
だからこそ、一緒に頑張りませんか。と言う言葉も付け加えた。
その時の私は、自分の必要性を他人に押し付けようとしていたのだと思う。
頼られたいと。いい人だと。
私の価値観を分かってもらおうとしたのだろう。
そして数学の授業が始まり、その子は別の人に頼んで課題を見せて貰ったのだろう。
良かった。私の代わりが居たようで。
それが少し寂しかったが、それくらい仕方ないのだ。
だから本当にどうしようもなくなった時に助けてあげればいい。
そこで、私の体調が悪化し、意識が途切れた。
熱が出ても学校に何度か行っていたことがあったのだが、
意識が無くなったのはこの時初めてだった。
その時から熱が出たら学校に行く事が禁じられた。
仕方ない、と妥協したが、あの時の私を少し憎んでしまった。
もう少しで頼ってくれそうな人を見つけられたのに。と