追放命令
先日追放命令を出された。ここにいられる猶予は明日までだ。
丁度いいからと前々からやってみたかった旅と言うものに挑戦する。
そしてその様子を綴ろうと思う。
先日。
講義をすべて終え、帰寮する準備をしていると学校長に話しかけられた。
「ジーハ君、とある上流貴族の方から君に伝言が届いている。受け取ってくれ。」
「はあ…何故私に?」
「私が知ったことではないよ…まあ返事は私に持ってきてくれればいい。なるべく早くな。」
本当に何故私にその上流貴族とやらから伝言なんぞが届いたのか。と考えつつ帰寮し、荷物を整理した後に手紙を裏返した。
「『グリアス・ソドル』…」たしか腹心の一人の息子だ。それだけならまだいいが悪名が大体3国くらいは跨いでも耳にするらしい。できれば関わりたくない人間だ。
「なんであんなやつから手紙が届くんだ。意味がわからん。」ジーハは手紙を開き、読み始めた。
「えー『前略 イメド・ジーハ殿 貴殿の教え子にユール・クリュードという隣国の王女がおられるでしょう』…たしかに居るがこいつになんの関係があるんだ?『私は彼女に恋をしています。しかし私の悪い噂は3国ほど跨いでも常識となっている程で、彼女とその親はどこまでも潔癖です。故にどれだけ手を伸ばしても届かない場所にいるわけです。』…自分で分かってるならその悪癖を留めるようにしろよ…『部下に調べさせたところ彼女はあなたを非常にしたっている。とのことでした。』たしかに彼女は聞き分けがいいが…それは私が単に教師だからであの娘の育ちの問題な気がするが…『そこであなたに私の悪い噂を否定し、私に近づくようお口添えしていただきたいのです。』そうきたか。バカかこいつは。『良いご返事を期待しております。』」最後まで一気に読み上げ、ジーハは水を飲んだ。そして、「彼女を国に返すこと…あとは映し石、透明羊皮紙…そんで有能な伝書鳩の調達の準備しとかなきゃなぁ……あの糞野郎のせいでめんどくせえ事しなきゃならなくなったじゃねぇか…」とブツブツと喋りつつ返信のための羊皮紙を大量に引っ張り出してきた。
「とりあえず適当に誤魔化すか。えー、『彼女に話しましたところ…』」
数日後
「ジーハ君、なにかやらかしたのかね?」
「どれだけマトモな行動でもそれを見聞きする人間によって『やらかし』なのか『ただしい事』なのから別れますよ。学校長。」
「では言い直そうかね。先日の手紙の件だ。失礼をしたのではないかね。」
「いいえ?あの人の望むような返事を書き、それを踏まえてあの人が行動を起こし、『たまたま』うまくいかなかっただけでしょう。私の知ったことではありませんよ。」フフと微笑をたたえ、席をたとうとしたジーハに、また学校長が声をかけた。
「まちたまえ。」
「はい?」
「さっきの話に挙がっていたお方が王に直接口添えし…いいたくはないが多少嘘を混ぜて話したのだろうかな…」
「なんです?もう少し歯切れよく喋ってくださいませんか?」
「…なら言おう。君を解雇しなければならなくなった。審議中らしいが最悪の場合、この命令に追って追放命令も来るだろう。」
「…なるほど。まあなんとなく予想はしていましたよ。…生徒を下卑た輩から守れたのですから、もはや私は甘んじて受け入れる事を選びましょう。」辛辣な言葉を残し、ジーハはすぐに帰寮した。
扉を開けると、パサリと紙が落ちた音がした。それを拾い、読み上げる。
「『王宮よりイメド・ジーハ殿に宛てて 貴殿はこの国の公僕でありながらその上司たる貴族の子息に向けて非常に失礼な態度を示した。故に、我々は貴殿を処罰し、追放することを決定した。 王より追伸。貴殿の魔術師としての才能を我々は高く評価していた。今回の処罰は非常に心苦しい。だが一度議会で定まった判決は私の一存では覆らない規定になっている。しかし先程も述べたように貴殿の才能は本物であり、唯一無二だ。追放者の烙印を覆い隠すほどの活躍を期待している。了』」
「…貴殿貴殿うるせえよ畜生め。…とりあえず生徒に手紙を書いとくかな…『生徒諸君へ。私はこのたび、とある貴族の逆鱗に触れ追放されることとなった。君達の認識じゃ私は犯罪者かもしれないが、それをどこまで事実とするかは君たちそれぞれで勝手に想像してくれて構わない。以上。さよならだ。』…次…荷物をまとめとくか。」
そう言うとジーハはかなり大きなバックパックを引っ張り出し、荷物を詰め始めた…
了