第2話 才能をもって生まれるということは、果たして幸せになれることの保証となりえるのか
「はい、ではこれから授業を始めますが、その前に今日はみんなの才能を測るところから始めます」
才能を測る?いったい何のことでしょう。
「せんせー!質問です!才能ってなんですかー!」
私が気になったことを他の男の子が聞いてくれた。
疑問に思うことはみんな一緒なんですね。
「才能とは、本人に眠っている将来性だ。将来性っていうのは、大きくなったらどれだけすごい人になれるかってことだ」
私は魔力がたくさん眠った状態で転生したはず。才能ありよりの人材であるはずなのです。
「この学校では魔法を教える。魔法というのは使い方によってはたくさんの人に迷惑をかけてしまう可能性がある」
まぁ、これは魔法に限らないと思いますがね。
「よって、魔法を教える前に個人ごとにどれだけ優秀な魔法使いになれるかということをチェックしておくルールとなっている」
ふむ。つまり、魔法を使える力、つまり魔力が高いほど国として財産にもなりえるし、脅威にもなりうる。そういった存在を国が管理するために、幼少期のころからデータとして集めておこうという、そういった取り組みなのでしょうか。
「他には質問あるか?……ないか。よし、それじゃ計測室に移動するぞ」
先生の案内によって廊下に連れ出される私たち。この校舎は木造なので、なんだか趣を感じますね。
「魔法の才能かー。私にあるかな。ワクワクするね!エリカちゃん!」
「私はエリスです。そうですね、私もとてもワクワクします」
隣を歩くルーシーちゃんはいつも笑顔で、私はとても癒されます。そんなルーシーちゃんに笑顔を返しつつ、計測室と呼ばれるところに移動します。
「さて、みんな揃ってるな。それじゃ計測を始める。計測するものは、1年生の君たちは魔力の内蔵値だ。他にも事象への干渉力や干渉範囲、持続値、魔力の属性、総合的な社会への影響力など計測対象は多岐にわたるが、それらは高学年つまりもっと魔法について学習してからとなる」
計測室と呼ばれるこの場所は日本でいうところの体育館に近い。広く天井が高く、声がよく響く。カーテンで区分けされている個室のような場所があり、中は見てないため何があるのかはわからないけれど、そこで魔力の計測をするのだろう。なぜわざわざ個室みたいな状況を構築する必要があるのかは不明だけど。
「よし、それじゃ早速始めるぞ。見ての通り、1人ずつこの中で測定をしてもらう。方法は簡単だ。中に入ると、そこには係りの人と水晶玉がある。その水晶玉を触るだけでいい」
ずいぶんと簡単ですね。
「理屈を説明してもいいが、まぁそれは授業でおいおいな。係りの人を待たせるのも申し訳ない。では、名前を呼ばれたものから順に入れ!」
水晶玉を触るだけでどのようにして魔力が計測できるのか……理屈がわからないと不安ですが、仕方ありません。私は小さな子供ですし、何も考えずに従いましょう。
そして、私の番が来ました。
……しかし、冷静に考えれば嫌な予感もします。
私は転生する際に、魔力を大量に持った才能ある身体を求めました。
きっと水晶玉を触ればそれがばれる。
そうなると、私はどうなるのでしょうか。
「……」
まぁ悩んでも仕方ないんですけど。
触るしか選択肢ないですし。
私は水晶玉へと手を伸ばす。
「……あっ」
サァァ――。
私が触れる直前でしょうか。
水晶玉は、今まで見たことのないほど黒くなりました。
そしてそのまま、サラサラと砂となりました。
それも真黒な砂です。
元々が水晶だったとは思えない黒さです。
「えっと……」
そういえば、測定する内容を聞きましたが、どういう結果が何を表すのか、聞いておりませんでした。
何が起きたのか全く不明ですが、この測定においては大して珍しいことではないかもしれません。
「こ、これは……」
周りの大人は、何やら慌ただしそうに揉め出しました。……やはりこれはまずい現象なのでしょうか。
「……エリスさん、計測は終わりです。退出してください」
係りの人に促され、私は退出します。
……さっき起きた現象はなんだったのでしょうか。
真っ黒に染まってそのまま砂になるって、ちょっと不吉すぎませんか?
闇の力を感じるというか、まぁ私好みではあるのですが。
この手には、"触れたものを枯らす滅びの力"が!みたいな感じで。
「エリカちゃんどうだったー?私はなんか燃えたよ!石って燃えるんだね!」
「私はエリスです。……私は石が砂になりました」
ルーシーちゃんの場合は水晶石が燃えたのですか。
あんなものが燃えるなんて、いったいどれだけの温度が必要なのでしょうか。
すさまじい力のように聞こえます。
まぁでも、実はこれが普通なのかもしれませんね。
私のように水晶がサラサラになってしまうのも、比較すれば大したことがないように思えます。
「おい、お前どうだったー?」
「ん~、よくわからなかった。なんかぼんやり光った気がするんだけど」
「お前もかー、俺もそうだった。何がわかるのかなあれで」
周りの男子生徒の声が聞こえてきます。
他の生徒はそんなに目立った変化をしなかったのでしょうか。
「さて、みんなおわったな?水晶石に起こった現象によって、その人の魔力の潜在力を確かめたわけだ。その光量によって魔力の量を示唆するわけだな。結果は個人情報になるため、誰が優れていたのかここで公開するつもりはない。みんなはまだわからないかもしれないが、自分の実力を秘めておくことは、この世界では重要となる。無暗に他の人に語らないように」
……そういうことは計測をする前に言ってほしいものですね。
隠匿を生徒に要求する割には学校側は生徒の能力をデータとして収集するとは、何やら闇を感じます。
まぁ、私の力には及ばないですけど。
「では、今日は解散!明日から本格的に授業を始める。気を付けて帰り、明日に備えるように!」
まぁ初日はこんなものですかね。
色々と不安になることはありましたが、今日のところは帰って、先生の言う通りに明日に備えましょう。
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その日の夜。
ルイン魔術大学(エリスが通っているのは付属高校である幼児を対象とした施設)では会議が行われた。
ルイン魔術大学は、全般的な魔力の研究を行うために国が投資している国家機関である。
魔力を用いてよりよい生活を目指すのを主に、各研究者が自由に魔力について研究をすることをサポートしている。
国は国民に対してルイン魔術大学に付属している学び舎で教育を受けることを義務としている。
魔力とは便利だが危険なものである。
国民の識字率向上、魔力についての知識を共通のものとすることを目的としているが、一番の目的は国民の魔力を管理するためである。
魔力は神羅万象、すべてのものに宿ると考えられている。
自然に宿っている魔力を扱う術は確立されていない。
中には使用可能な個人はいるが、基本的には各々が自分の持っている魔力を使用することが限界である。
また、魔力は基本的には器の大きさが決まっている。
身体が成長するとともに、器の大きさが大きくなる。
つまり、大人になるにつれて魔力容量は増大すると考えられているが、微々たるものである。
生まれ持った才能に依存するところが多いため、幼児のうちから魔力の大きさを計測することにより、国としての資源を確保することが目的となっている。
本日は、新入生の魔力計測が行われた。
魔力容量の大きさによって教育プランが異なるため、できるだけ早めに計測した方がいいという簡単な理由だ。
また、魔力容量が特別大きな人材を見つけた場合、他国に流れることがないよう、手を打つ必要もある。
会議の議題は、新入生の魔力計測結果だ。
本会議は例年同じ時期に実施されており、会議に参加する者も毎年ほとんど変わりがない。
魔力に関する有識者の集まりであり、魔力に関しては国が誇る第一人者達である。
その面々が、今回の計測結果をみて青い顔をしていた。
「さて、では一通り資料に目を通してくれたな。見ての通り、いいニュースと悪いニュースがある」
「あぁ、いいニュースっていうのはこれだな。ルーシーという娘。魔力結晶が発火するほどの光量を出すとは」
「歴史的にみて、この現象を発生させた者は例にもれず勇者級の働きをみせてくれている」
「このルーシーという娘は将来の勇者コースだな。最近は魔物たちの行動も活発になってきている。魔王が復活する兆しのようにも思える。早いうちに力を身に着けてもらう必要がある」
「まだ幼い娘に争いを強いるのは気が引けるが、国の命には代えられない」
「そういった感情面の検討は王がしてくれるであろう。私たちは計測結果から国の優れた資源を選出する。その業務に徹するべきだ」
面々は今年の新入生から勇者候補が見つかったことを喜んだ。
そういった存在が見つかるのは、近年まれである。
魔力結晶は安いものではない。
魔力がより集まる、パワースポットとでも呼ぶべき場所にて長い年月を重ねて結晶化したものが魔力結晶である。
読んで字のごとくの代物だが、現在人工で作成する方法は見つかっておらず、天然物を見つけて使用するしかない。
数に限りのあるものなのだ。
だが、簡単に破損するものではなく、非常に硬い鉱物でもある魔力結晶は物理的に衝撃を与えてもびくともしない。
主に魔力に反応し、またその魔力の意思を反映することが可能なものである。
ここで魔力の意思と記述したが、今回計測に使用された魔力結晶は、魔術大工で加工されたものである。
本来、触れたもの・魔力を流したものの意思を読み取り、ある程度望んだ現象を生み出すことが可能な魔力結晶だが、今回は"発光する"意思を予め設定されたものが使用される。
実際に触れたものの意思をある程度までは反映してしまう可能性もあるが、魔力結晶のことを知らない未熟児たちに、"触れるだけでよい"と告げ、触れてもらっただけでは意思を上書きされることはまずない。
そして光量は身体の表面を流れる薄い魔力の波から魔力容量を計測し、その規模によって強くなるよう設計されている。
基本的には光を放つのみであるため、よほどのことがない限り破損はあり得ない。
もし万が一破損することがあれば、それは魔力結晶よりも価値のある人材が発見されたこととなるため、国としては実質損害がないのと同義だ。
しかし、今回は今までと状況が異なっていた。
「……さて、ではここからは悪いニュースだ」
「水晶を光らせるどころか、黒く染めたやつがいたそうだな」
「そんな現象を発生さえたものが、かつて居たか」
「いや、記録には残っていない。そもそも魔力の意思は上書きされたのか?その児童が自ら魔力結晶を黒く染めるようオーバーライドした可能性はないのか」
「残念ながらそれはわからない。水晶結晶は砂塵と化してしまった。しかし、そんなことをする理由は児童側にはないだろう」
「つまり、魔力容量の大きさだけ発光させる意思が黒く染めたということか?そんなことがありえるのか」
「……まぁ魔力結晶にはまだまだ分かっていないことが多い。現象よりもその児童をどういった存在と捉えるか。そこが問題だろう」
「国の資源となりうるのか、それとも癌なのか」
「単純に考えれば、魔力結晶を粉微塵とする干渉力は評価できる。その属性は不明だが、十分に有力な資源であるといえる」
「だが、今まで我らが見たことのない力であることを考えれば、魔族よりの力。それも、魔王に紐づくような力なのかもしれない」
「効果も禍々しいしな……。魔族からの刺客である可能性も否定できない」
「ただ、刺客であった場合、このような目立つ行動をとるものか?」
例年と違い、今年は議論に花が咲く。
今までは確認するのみで、議論をすることなどほとんどなかった。
勇者となりうる逸材と、不吉な何かを感じさせる何か。
話し合うべきことは尽きない。しかし、不明なことが多い中、話し合いはいたずらに時間を消費する。
「……今回の話し合いはこれくらいにしよう。今回の議事録と資料を王に提出し、意見を伺おうかと思う」