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美少女になれば幸せになれるとこの時は信じていたんだ  作者: 草壁輝美
第1章 女神のような美少女爆誕までの物語
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第19話 人間ってやつは特に特別なイベントが発生したわけでもないのに急に考え込むことがあるよね

「……アーレンパレスにはどうしたらいけるの?」


「場所は知っているけど、本当にいくの?」


少女はまだ震えている。

アーレンパレスにいるという吸血鬼に恐れを抱いているのか、それとも私が怖いのか。

まぁ、比べるまでもなく後者だと思うけど。


私が怖い。

それでも逃げずにこうして会話を続けてくれているのは、先ほど助けたことに感謝をしてくれているからだろうか。

この健気な少女には、できるだけ真摯に接してあげなきゃ。


「わたしの大切な人が、助けを求めているかもしれない。だから、わたしはいかなくちゃいけないんだ」


「そんなに大切な人なの?死んじゃうかもしれないんだよ?」


「うん、そうだね」


「なんでそんなに大切なの?」


エリスちゃんが大切な理由……。

それは、友達だから。


「死んじゃうかもしれないのに、それでも助けにいくなんて、普通じゃないと思う」


「大切な理由……そんなこと考えたこともなかった」


「ねぇ、やっぱりやめよ?お姉ちゃん、ちょっと怖いけど、いい人間だっていうのはわかる。アーレンパレスは危険な場所なの。その大切な人も、本当にそこにいるの?魔族も誰も近づかない場所なんだよ?そこに人間がいるなんて、信じられない」


……あの魔族はエリスちゃんがアーレンパレスにいるといっていた。

あの魔族は本当のことを言っていた。それはわたしの力で確認済み、嘘ではない。

でも、あの魔族はどうしてそのことを知っていた?あの魔族がエリスちゃんを連れ去ったから?

連れ去ったのであれば、なぜあの魔族はわたしにそのことを伝えたのだろうか。

わざわざわたしに伝えたということは、あの魔族はわたしが勇者であることを知っていたことになる。

わたしが勇者であることを、なぜあの魔族は知っていたのだろう。

勇者であることを知っているのは、人間の中でもごくわずか。

親と、それと直接伝えたことはないけどきっと学園の人も一部は知っているだろう。

そのための魔力測定だと思うし……。


魔族と人間は不倶戴天の間柄。

そんな魔族には、勇者の情報なんて一番知られちゃいけない情報のはず。

魔族が知っているわけが、本来はないんだ。

なぜわたしはこんな誰もが疑問に思うことを、疑問に思わなかったのだろうか。

何かがおかしい。


きっかけは大したことではない。

魔族の少女に旅の目的と決意を確認されただけ。

たったそれだけで、わたしはなぜこんなにも混乱しているの?

目が覚めたから?

エリスちゃんが攫われて、それで頭が熱くなって、急いで助けなくちゃいけないと国を飛び出した。

一か月間エリスちゃんを見つけられず、森を彷徨っているうちに、頭が冷えて冷静に考えることができるようになった?


「お姉ちゃん?」


「うっ……ごめん、なんでもない」


軽く頭痛がする。

わたしのそんな様子を見て、ウルが心配そうな顔をしている。

わたしはウルに辛い顔をみせないよう、表情を取り繕った。


「確かに、アーレンパレスは危険なところかもしれない。吸血鬼がいるのなら、ひょっとしたら勝てないかもしれない。わたしの友達の大切さを説明できないかもしれない。それでも、いかなくてはいけないんだ」


「……うん、そっか」


「心配してくれてありがとう、ウル」


「ううん、ごめんね。変なこと聞いて」


そういうと、ウルは踵を返す。

そのまま歩いていこうとする。


「どこへいくの?」


「ルーシーお姉ちゃん、ついてきて。私の村に案内する」


「えっ……ごめん、それは……」


「アーレンパレスには、私が直接案内する。人狼族は、受けた恩は忘れない。それが、命の恩となれば、命をかけて、恩を返す。道案内が、命がけの恩返しになるかはわからないけど……」


「それは、ありがとう。嬉しい。でも、わたしは村に近づくわけには」


「でも、ルーシーお姉ちゃんを連れて行かないと、族長や、パパやママに説明できない……きっと、許しをもらえない。許しをもらうためには、ルーシーお姉ちゃんをみせないと」


「……」


大丈夫だろうか……言っていることはわかるけど、それは本当に必要なこと?

もしかして、罠じゃないだろうか。

アーレンパレスは元魔王の住処。

魔族の間でも特別な意味を持つ場所のはず。

そこに近づいている人間を捉えるべく、わたしを罠にはめようとして案内をしようとしているのかも。


「……わかった。案内して、ウル」


まぁでも、結局わたしはいくしかないのだ。

さっきも考えたこと。

もし罠だったら、人狼族を滅ぼせばいい。

それだけなんだ。


わたしは勇者。

魔族には負けない存在。

相手が魔族・魔獣なら、万の軍勢にだって1人で勝ってみせる。

実際に戦ったことがあるわけじゃないけど、わかるんだ。

わたしはそういった存在。

魔族を滅ぼすために生まれた、勇者と呼ばれる存在なんだから。


―――――――◆◆◆―――――――


「さて、それじゃ準備はできたかな?」


「はい、問題ありません」


勇者を止めるために出かける準備は整いました。

といっても、動きやすいよう軽装に着替えただけですが。


「さて、それじゃ今から旅を始めるわけだけどエリスちゃんは空を飛べる?」


「空ですか?飛べるわけないじゃないですか。私は人間ですよ?」


「そうだよね。でも、ものを宙に浮かせることはできてたじゃない?だったら自分に対して浮遊の魔術をかければ空を飛べるんじゃない?」


「生物には魔法をかけることができない認識ですが」


「うーん、そうだけど、なんかエリスちゃんならできそうかなって思ったんだけど」


「いやいや、そんな万能な存在じゃないですよ私は」


実際は魔王の因子を持つものは魔術にかかっている制約を無視できるらしい。

だからきっと、空を飛ぶことも可能なのだろう。

でもそれは、今の私の実力では不可能だし、何よりできたとしてもそういった力はできるだけ隠しておきたい。

今はどちらにしてもできないですけど、将来的にできるようになったとしてもできるだけ隠しておかなくては。


「うーん、それじゃ仕方がないな。それじゃ今日はわたしの馬車に乗って移動することにしようか」


「馬車ですか?」


「うん。といっても、馬に引っ張ってもらって移動するわけじゃないんだけど」


そういってアリアはぶつぶつと何やら呪文らしきものを唱える。

そうすると、目の前の空間に大きな魔法陣が生まれる。

その魔法陣が淡く白に光る。

そうすると、まさに召喚術といった様相で、何もない地面から生えるように大きな馬車がゆっくりと浮かびあがってきた。


「おお……今までで一番魔術っぽい」


それは白く輝く、まるで宝石のように輝いた大きな馬車だった。

陽光に照らされ、眩しいほどに輝く馬車は、それでも金属っぽくはなく、巨大な白い石できており、もし買ったらいくらになるのか見当もつかないほど精巧にできていた。

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