第17話 魔王っていう存在は結局のところ勇者のバーターでしかないんだよね
この城にきて早一ヵ月。
もうすっかり慣れました。
もはや実家より落ち着くレベルです。
私ってこんなに適応力ありましたっけ?
あれですかね。
玉のようにここの皆が大事にしてくれるからでしょうか。
こう、護られているという感じがするというか、すごく安心するんですよね。
実家のような安心感とはまさにこのこと。
もしかしたら私が持っているという魔王の因子が関係しているのかもしれませんね。
ここにきてから知りましたが、かつて魔族は魔王が生み出した存在だとか。
私は魔王というわけではありませんが、魔王の因子を持っているのだからほぼ魔王のようなもの。
子供に面倒を見てもらっていると思えばそれは安心するというもの。
どちらかといえば女王アリのようなものかもしれませんが。
「すっかり、魔力の扱いになれたな」
「ええ」
たった一ヵ月の修行ですが、魔力の扱いはかなり上達しました。
どの程度かというと、魔力を使って自動的に茶を淹れることができるようになりました。
ポットや茶器を魔力で操り、水も魔力でボイルし、いい感じに茶を淹れる。
いよいよ超能力染みてきましたね。
「よくもまぁ、こんな短期間で」
今日は珍しくアリアがいます。
アリアは私のストーカーのようなことを言っていましたが、この部屋に尋ねてくることは少なく、特にこの一ヵ月の間はほとんど姿を見せませんでした。
普段何をしているのかは不明ですが、占い師として忙しいのかもしれませんね。
私を見つけるくらいだから、実はとても有名なのかもしれませんし。
「何がです?」
「ティアと修行しているからわからないかもしれないけど、エリスがやってるそれ、普通の人はできないからね?」
「そうなんです?」
「通常の人間や魔族は魔力をそうやって自在に操れないからさ。神の言語を通してじゃないと」
「神の言語?なんですかそれ」
「説明するのめんどくさいので説明はしない。使えるエリスには関係ないでしょ」
「まぁ、私には必要ないのであればとりあえずいいですが」
「ティアは真祖の吸血鬼で、魔族よりも神に近い存在だからできるってだけだからね。まぁ、自分は特別なんだってことは理解しておいた方がいいよ」
「そうなんですか?ティア」
「いや、よく知らない。基本他の奴らには興味がないからな」
なんか、ここ最近わかってきたのですがティアは思ったより脳筋な方のようです。
生物として上位だからでしょうか。
自分より下である生物には興味を示さないので、それほどものをしらないですし。
クールな知的キャラかと思ったのですが、見かけによりませんね。
「エリスちゃんも今までそんなことしてる人、みたことないでしょ?」
「そうですね」
この世界の魔力って、私の中では電気と似たようなものの認識です。
基本的には、杖のようなものがほとんどですが何かしらの道具を使用することによって皆さん魔法を使っていました。
しかし、それを遠隔操作で行っている人はみたことがありませんね。
「なぜ私はそんなことができるのでしょうか」
「うーん、それはよくわからないけど、神に愛されているんじゃないかな。魔術は基本神の力なわけだし」
「そうですか」
「まぁそんなことはおいといて、ちょっと緊急事態なんだよね」
「なんですか?」
「今代の勇者が魔族領で暴れているらしくてね。エリスちゃんには彼女を止めてもらいたくて」
今代の勇者?
勇者ってあれですよね。
魔王と戦うことを遺伝子レベルで義務づけられている魔族の天敵。
魔王と戦えば必勝。
魔族は勇者と魔王を出合わせるわけにはいかず、魔族の誰かが勇者を止める必要があるとか。
「そうですか。それをなぜ私が?」
「エリスちゃんじゃないと、勇者は止められなくてね」
「いや、でもほら私って魔王の因子を持っているんですよね?勇者とはかなり相性が悪いんじゃないですか?」
「大丈夫。彼女がエリスちゃんを殺すことはあり得ない。戦いになってもさっきの様子ならエリスちゃんの方がまだ強そうだけど、命の危険はないからそこは安心して」
「えー」
……面倒ですね。
何が面倒ってこの1ヵ月外に出なかったので、外にでて動くということが面倒です。
10歳の風上にも置けませんね。
「ちなみに、私がその勇者を止めないとどうなります?」
「魔族は滅びます」
「いやいや」
そんな火急な案件でもないですよね?
「嘘はダメですよ?」
「いや、ほら。勇者といえば視界を魔族が通れば殲滅せずにはいられない殺人マシンだよ?今はまだ若いから戦略級の魔術は使えないからあれだけど、いつかは魔族を滅びつくしてしまう危ない存在なんだよ」
「うーん……そんな危ない存在、私で止めることができるんですか?」
「エリスちゃんなら何も問題ないよ。ほら、エリスちゃんはそもそも魔族じゃないし」
「勇者に殺される心配はないと」
「勇者は人間だから魔族をみると殺人衝動に襲われるんだけど、エリスちゃんは人間に見られても相手にそういった感情を抱かせないでしょ?」
「まぁ今まで人間領で生きてきましたからね。私をみて襲ってきた人などいませんでした」
「それに、エリスちゃんはとっても可愛いからそんなエリスちゃんを殺そうとする人なんているわけがないよね」
「私が可愛いのはたしかですが、そもそも勇者と呼ばれるような人が10歳の女の子を殺そうとはしないですよね」
「どうだろう。勇者も10歳だからその辺は気にしないかもしれないね」
「勇者も10歳なんですか。何だか親近感が湧きますね」
「実際、同じ年に勇者と魔王の因子を持つものが生まれたということは、何かの作為的なものを感じるよね。まぁそれは今はいいから、とりあえず勇者が魔族を殲滅するのを阻止できるのはエリスちゃんしかいないから、ちょっとついてきて」
作為的なものか。
それをできるとしたら、私を転生させたマコト様くらいのものなのですが。
これが偶然かマコト様がしこんだことなのか、今度会えたら聞いてみましょうか。
とりあえず勇者がどのような存在なのか、私も気になります。
ひとまずはアリアについていき、勇者を止められるかどうかは置いておいて、様子を見に行くとしましょう。




