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美少女になれば幸せになれるとこの時は信じていたんだ  作者: 草壁輝美
第1章 女神のような美少女爆誕までの物語
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第16話 修行ってどういう意味でしたっけ。

「こう、魔力を流されていると、私がティアにどんどん征服されているような変な気分になります」


「何をバカなことを。それにしてももっと抵抗があるかと思ったが、エリスにはすんなりと魔力が流れるな」


「そうなんですか?」


「あぁ、生物がみな最低限持っている抵抗力よりもずっと低い。もはや生物とは思えないほどにな」


「失礼な。私は人間ですよ。よくわかりませんが、それも魔王の因子と関係があるのでしょうか」


「もしかしたら、生物とパスを繋ぎやすくするために小さく作られているのかもしれないが……」


「まぁ、とりあえず魔力を流す感覚はわかりました。パスが繋がっている感覚もたぶん理解できました。もう一度挑戦してみましょう」


「そうだな。あぁ、それなら私が流している魔力に抵抗してみてくれ。その魔力の流れを逆流させるイメージで試みればいい」


「あー、それならイメージしやすい気がします」


この感じるティアの魔力に対して逆流するイメージっていうことですよね。

道が示されている分、さっきまでよりはやりやすいです。

しかし、手からはどこを入り口としているのか曖昧ですね。

手のひらでしょうか。

指先のような気もします。

それとも両方でしょうか。

触れている箇所すべてからなら、接する面積が大きいほうが意思を伝えやすかったりするのかもしれませんね。

そうなると抱きしめた方が効率がいいのでは?

いっそ抱きしめたい気分です。

抱きしめさせてくれはしませんかね。


「どうした、早くしろ」


「そんなに慌てないでください。そういえば、ティアは私にどのような意思を伝えているのですか?」


「いや、特に伝えてはいない。私くらいになれば、意思を定義しなくても魔力を操作して流し込むくらいのことはできる」


「ほう。それじゃ、流れた魔力はどうなるんですか?」


「エリスの身体を一周した後、そのまま私の中に帰ってきている」


「それじゃ特に減ったりもしないってことですね」


「特に世界に干渉しなければ、魔力を消費することもないからな。わかったら早くしろ。雑談は後だ」


「手厳しいですね」


そんなに焦ることはないと思うのですが。

まぁいいです。

こうしてよそ事ばかり考えているからうまくいかないのかもしれませんしね。

ちょっと集中しますか。


「……」


「むっ」


「……」


「おぉ、そうだいい感じだぞ。私の魔力に沿っていい感じに魔力を逆流させることができている。その調子だ」


こうしてみると、魔力って心臓からスタートしているんですね。

自分の心臓の位置なんてそんなに正確に把握していないですが、まぁこの胸の真ん中の位置にある内臓といえば心臓でしょう。

いや、どうなんでしょう。

そもそも、この世界の人間は元の世界と構造って一緒なんでしょうか。

見た目は一緒ですが、中の構造まで一致するほど人間という種族が完璧な存在とも思えないのですが。

まぁ、中を切り開いてみたところで、知識が不足しているのでわからないからいいのですが。


「ふう……」


「よし、いいだろう。まだまだ未熟だが、初めてにしては上出来だ」


「そんな褒められるほどでは」


でも感覚はつかめました。

それほど難しくないですね。

それこそ、なぜデバイスなんてものが生まれたかわからない程度には楽です。


「今日は試しのようなものだ。これくらいにしておこう。これを極めれば、だいたいの魔族はエリスにひれ伏すことになるだろう」


「あまり強さに直結する技術ではないと思うのですが」


「それも極めればわかることだ」


ふむ。

いったい免許皆伝に至るにはどれほどかかるのでしょうか。

今日の感覚ならすぐのような気もするのですが。

まぁでも、それはティアが修行のために抵抗力をさげてくれたからだと思います。

慢心せずに精進していきましょう。

それに、学園で習っていた内容よりは興味深いです。

とくに接する面積を大きくした方が魔力の伝達は円滑になるのではないかという疑問については早めに確認しなければなりません。

これからのことを考えるとわくわくが止まりませんね。


「よし、それじゃエリスも疲れただろう。待っていろ。すぐにお茶を準備させる」


そういって兵士にお茶とお菓子を注文するティア。

そんなに甘やかしてくれなくてもいいのですが。

まぁでも、悪いことでは決してないので受け入れましょう。


今日はそのあとはいつも通りたわいもない話をして、1日を過ごしました。


―――――――◆◆◆―――――――


「さて」


何とかお父さんとお母さんの説得には成功した。

魔族領の最奥の地を目指すとなると、魔獣との戦闘は避けられない。

魔術の発達した人類にとって、並の魔獣は脅威とはならない。

とくにわたしは、歴代の勇者の中でも抜きんでた力を持っている。

危険だからとわたしを説得するには、お父さんもお母さんも弱すぎるのだ。


「向かうとしますか」


食料も十分に持った。

勇者として特別な魔力を持っている私は、数々の特別な魔術が使える。

その中のひとつである時空間収納。

時空間と呼ばれる特別な空間にものを無限にしまっておくことができるすさまじい魔術だ。

これは歴代の勇者でも今まで使用できたものは少ないらしい。

この魔術があれば、食料に困ることはない。

この空間の中にしまったものは時が止まる。

しまったときの鮮度そのままに食事が可能で、無限にしまえるのだから、食料を十分に入れておけば飢えることはないだろう。


「ただ、魔族の人と会わないようには気を付けないとなぁ……」


勇者はそのとんでもない力と引き換えに、1つ弱点のようなものがある。

それは、魔族をみると憎くて憎くて仕方がない感情に襲われることだ。

普通の人間も魔族をみると憎くなるのだが、耐えられないほどではないらしい。

私は、とても耐えられないほどにその衝動に襲われる。

話には聞いていたけど、先日魔族と出会って実感してしまった。

あれはそう耐えられるものではない。

殺したい衝動を抑えることは難しく、魔族の街に顔を出そうものなら、その街の住民を殲滅してしまうかもしれない。

人間と魔族は憎しみ合うようにできているけど、お互い干渉しないことで平和な関係を築いている。

私が魔族を殲滅するようなことをしては、おそらく戦争待ったなしだろう。


「……よし」


野営の道具もある。

食料も十分にある。

結界を張っておけば寝込みを襲われる心配もないだろう。

まっすぐ目的地を目指せば、それほど難しい旅にはならないはずだ。


仲間を見つけることはできなかった。

心細くはあるけど、エリスちゃんのためならば耐えられる。

絶対に、エリスちゃんを助けるんだ。

エリスちゃんなしの生活に、これ以上耐えられない。

そうして私は、王国を後にした。

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